距離は20センチ
「あのさ・・」
「なに?」
あれ?蘭君何してるのかなあ・・。もう10分以上たつけど返事がないや。トイレ?
でも気になるなあ。「あのさ・・」って、そんな中途半端なメール、やっぱり気になるよ!
すると
♪ブーブー・・あっ!蘭君だ。
私は急いでメールを開いた。
『俺の彼女になってください』
私の想像していなかった言葉がそこにはあった。蘭君も私のことを想っていてくれる。
私は嬉しくて嬉しくてルンルン気分!
『もちろんです!』・・送信。
♪ラララ・ラララ・・。
リビングに向かいかけた私は、知らないうちに鼻唄を口ずさんでいる。
・・なるほどね!心がウキウキだと歌いたくなっちゃうよね。
「あれ?お父さんは」
「お風呂よ」
「ああー!さっぱりした。そうだ、腕時計を佐藤さん家に忘れてきたみたいだからとってこないと」
「あら・・」
「今までで気づかなかったよ」
「だいぶお酒が入ってたからね」
「うん。着替えたら行ってくるよ」
「・・あっ!お父さん、私がとってきてあげるよ」
「理奈が・・」
「大丈夫よ!すぐ下だから」
「じゃあ、お願いするかな」
「まかせて!」
そう言って、私は玄関を出た。
♪ラララ・・あっ、また私歌ってる。
そして、外階段への扉をあけ階段を下りかけたとき、下の階の扉が開く音がした。
私は一瞬ドキッとして足を止めた。
誰だろう・・?
私は呼吸を止めて下の様子をうかがった。
「わあ!針が光ってるね」
「暗いところでも見えるように蛍光塗料が塗ってあるんだよ」
「ふーん」
「さあ、早く持っていってやろうぜ」
「うん」
声の主が誰なのか私にはすぐにわかった!
「蘭君、翼君!」
私がそう呼び掛けると、階段を上ってくるスピードが速まるのがわかった。
「あっ!理奈お姉さん」
「理奈ちゃん・・」
「お姉さんどうしたの?こんなところで」
「翼君達を待ってたのよ!」
「えっ!?ぼくたちを・・」
「理奈ちゃん、俺たちが来るのわかってたの?」
「なんとなく・・かなあ・・」
「お姉さん、はいこれ!忘れ物」
「あっ!お父さんの腕時計ね。わざわざありがとう」
「うん・・じゃあぼく先に帰ってるね!」
翼君はそう言って、さっさと階段を下りていってしまった。
「おい翼!?」
気をつかってくれたんだね。ありがとう翼君!
そして外階段には蘭君と私だけ!なんかちょっと照れ臭いかなあ。
「あなた、理奈ちょっと遅くない?」
「そうだなあ。ちょっと見てくるか」
「お願い」
私と蘭君の距離は約20センチ。その距離はずっと縮まりも離れもしない。
急に二人っきりになっちゃって。何を話したらいいのか・・。
その時に外階段の扉が少しだけあいて、二人を覗いてる人がいるとは、蘭君も私も気づいてはいない。
「理奈なら心配ないよ!蘭君と一緒だ」
「あらそう!」
「邪魔するのも悪いから、声も掛けなかったよ」
「うん」
「なかなかお似合いじゃないかあの二人」
「そうね!」
どのくらい時間がたったのだろう。最初の一言は蘭君から。
「あの放送にはビックリした!」
「えっ?」
「試合会場のやつ」
「ああ、ごめんねあんなことしちゃって」
「うんん。みんなキョトンとしてたなあ」
「あれはやりすぎだったね!反省します」
「・・でも嬉しかったな!」
「蘭君・・」
「さあ、そろそろ戻らないと。お父さんとお母さんが心配してるかもよ」
「うん。蘭君も髪が濡れたままで風邪ひいちゃうもんね」
「じゃあまた明日」
「うん、また明日ね!」
私は蘭君の後ろ姿を見送ってから、外階段の扉を開けた。
「ただいまあ!ごめん遅くなって」
「時計あったろう!?」
「うん、はいこれ」
「ありがとう・・」
ん?なんだかお父さんとお母さんの雰囲気がおかしい・・?
こっちを見ながらニヤニヤしてる感じ。
「二人ともどうかしたの?」
「なにがだ?」
「私の顔ばかり見てるからさ」
「そうかなあ・・」
「うふふ・・」
「あっ、お母さん今笑ったでしょ」
「笑ってないわよ」
「怪しいなあ・・二人とも・・」
お風呂に入っても、ベッドに横になってもまた私は口ずさんでいる。
♪ラララ・ラララ・・
曲名もわからない歌。
夢の中には多分、蘭君が出てきてくれるだろうな!
きっとね!
お休み蘭君。