初耳
「安藤さんは学生の頃、ギターとか弾いてたんですか?サイモンとガーファンクルがお好きとか・・」
「ええ、大して上手くはないですけどね」
「佐藤さんは?」
「わたしもギターとかに憧れはしましたけど、とてもとても弾けるところまではいけませんでしたよ」
「でもクラスにいませんでした?上手いやつ」
「ああ!いましたね。学園祭とかで演奏したりして」
「そうでしたね・・」
「蘭達を見てると、学生時代が本当に懐かしいですよ」
「同感です」
「ねー蘭、お父さんたち何話してるのかな?」
「ん?さあー」
「随分と楽しそうね」
「うん。ぼくちょっと行ってくる」
「理奈ちゃん、髪伸びたね!」
「えっ!」・・ドキドキ。蘭君がそんなこと言うの初めて。
「それに、最近は伊達メガネ全然掛けなくなったし」
「あっ、うん」
「メガネないほうが理奈ちゃんずっと可愛いよ!」
「・・・」蘭君が私のことカワイイって!
「初めて見たときから、俺そう思ってた」
「初めてって?」
「転校してきたときのことさ」
「そうなの・・」
私の蘭君に対する第一印象は、とても瞳がキレイだって思ったことかな。それと蘭っていう名前。ちょっと女の子っぽいなあって・・。
「あとは?」
「あと?」
「私の第一印象とか?」
「第一印象・・ん?・・肌が白くて、メガネが似合わなくて、やせてて・・」
「なんかあまりいいとこないね」
「えっ!そんなことないよ。あとは髪が短くてスポーツ万能・・」
「そっか・・」
「理奈ちゃんは?俺の第一印象」
「・・さあ・・」
「えっ?理奈ちゃん・・」
「うふふ・・」
カッコイイって思ったよ!
「あーあ、お父さんたちお酒臭い!」そんなことを言いながら翼が戻ってきた。
「大人ってどうしてお酒なんて飲むのかしらね?」
「そうだよ!あんな臭いの」
「でもホント楽しそうじゃんかあのふたり」
「ホントね!」
「お邪魔しました」
「ごちそうさまでした」
「じゃあね蘭君、後でメールするね」
「うん」
「じゃあね翼君」
「バイバイ」
そして
♪ブーブー・・理奈ちゃんからメールが届いた。
「今日はすき焼き美味しかったね!ところで楽しそうにお酒を飲んでたお父さんたち、何を話してたと思う?」
「さあ?」
「学生時代の話で盛り上がってたんだって!初恋の話とかギターが弾けるようになりたかったとか・・」
「そうなんだ!ギターね。俺は全然、触ったこともないな。理奈ちゃんは?」
「私も全然!でも弾けたらいいなとは思う。蘭君は?」
「俺も弾けたらいいなあって思うけど、カッコいいし。でも難しそうだよなあ」
「挑戦してみようか!」
「俺はパス。そういえば理奈ちゃんのお父さんって、調理師の免許持ってるんだって!?」
「えっ?初耳!!」
「えっ?うちの父さんが言ってたよ」
「ちょっと確認してくる!!」
私は部屋を出てリビングに。
「ねーお父さん、お父さん調理師の免許なんて持ってるの?」
「うん。蘭君から聞いたのか?」
「うん」
「もう何年も前の話さ。お母さんとお付き合いを始めた頃、お父さんはレストランで働いていたんだよ。もちろん見習いでだけど。その時に受験したらたまたま受かっちゃってね」
「初耳だなぁ!そういえばお父さん料理得意だもんね」
「まあ、そこそこね。実はそのレストランにはお母さんも働いていたんだよ」
「へぇー!それも初耳だわ。そこで二人は出会ったのか・・」
「そういうこと」
私は蘭君に再びメールを送った。
「蘭君の言った通りだったわ!」
「でしょ」
「私全然知らなかった」
そして俺は本題に入ろうとした。
「あのさ・・」
「なに?」
『俺の彼女になってください』
俺はそうスマホに打ち込んだ。
1分がたち、2分がたち、5分、10分・・。
俺はまだ送信のボタンが押せずにいた。震える指先!早く押せ!と頭が俺の指先に命令してる。
しかし、なかなか動かないもどかしいこの俺の人差し指。
そんな時だった
「蘭!」
不意に俺の背中側から声がした。翼だ!
俺は慌てて持っていたスマホを閉じた・・つもりだった。
しかし、俺が慌てて触れたのは送信ボタン!
「あっ!・・押しちゃった・・」
「蘭、どうかした?」
「あちゃー・・」
「蘭!?」
「こら翼、勝手に入ってくるなよ」
「いいじゃんか。ねー!ゲームやっていい?」
「ああ」
「やったあ!」
「翼、お風呂は入ったのか?」
「まだだけど」
「じゃあ一緒に入るか!」
「うん!」
俺はスマホをそこに置き、風呂場に向かった。理奈ちゃんからの返信がなんとなく怖くて・・。
風呂からあがり部屋に戻ると、スマホには着信を知らせる緑のランプが点滅している。
翼は早速ゲームに取り掛かった。
そして俺はスマホを手に取った。