みごどに・・・
「理奈・・」
「理奈ちゃん・・」
瞳も和久井くんも、私の突然の行動に言葉がないって感じ。
そして私は迷わず蘭君のところに歩み寄った。
「理奈ちゃん・・」
「蘭君、いったいどうしちゃったの?全然試合に集中してない!」
「・・・」
「蘭君!」
「理奈ちゃんのことを思うとさ・・」
「私のことを?」
「理奈ちゃんがロシアに行くことは前からわかってたし、それが今月の末だということもわかってる。だから俺なりに・・。それに理奈ちゃん、今日が最後なんだろう!サッカーが出来るの。だからあんなに張り切って・・」
「えっ?」
「だってさっき言ってたじゃんか『そう決めた』って」
「うん・・」
「だから俺、その事で頭の中がパニックになっちゃって・・」
「うん・・」
「ん?・・理奈ちゃん・・」
「・・蘭君」
「何だよ?」
「私のことを大好きでしょ!?」
「えっ!」
「・・・」
「何だよいきなり」
「蘭君の行動に、なんだか確信めいたものがあるから!」
「うっ」
「私ロシアには行かないよ!」
「えっ!?だって・・」
「私がさっき決めたって言ったのは、行かないって決めたってことよ。蘭君の勘違い!」
「はあっ?」
「だからこの町に、そして蘭君の隣にずっといるってこと!!」
「えぇー!!」
「何話してるの?二人で」
「翼、理奈お姉さん、ずっといてくれるって!遠くには行かないって」
「えっ本当?理奈お姉さん」
「本当よ!」
「やったあー」
「よっしやあー!こうなったら後半はハットトリックで逆転だ」
「蘭、今度こそゴール決めてね」
「まかせろ翼!俺の心は今燃えている。身体もキレキレ!じゃあ行ってくるぞ」
「うん」
そう言って蘭君はピッチへ走っていってしまった。
「単純!?男の子ってみんなそうなの。それとも蘭君だけかしら・・」
「たぶん蘭だけ」
「・・だよね」
そこに和久井くんと瞳がやって来た。
「蘭のやつもう行っちゃったのか!」
「うん、ハットトリック決めるんだってさ!」
「ハットトリック!?無理でしょ、さっきの戦いぶりだと」
「でもそう言ったよね!お姉さん」
「うん!きっと決めるよ」
「それにしても理奈、さっきの放送はなに!?」
「へへっ、ちょっとやりすぎだったかな・・」
「ちょっとじゃないわよ」
「はい、すみません」
「理奈お姉さんね、遠くには行かないんだって!」
「理奈?」
「うん、もうちょっと皆と一緒にいたいなあって・・」
「本当は蘭の側にいたいんだろう!はあはあー、わかったぞ。蘭のやつ、理奈ちゃんの言葉で元気になったり落ち込んだり。ほんと単純なんだよなあ」
「ふふふっ・・」
そしていよいよ後半のキックオフ!
「おい皆、逆転するぞ!」
「蘭、随分と気合い入ってるじゃんか!」
「ああ!前半の俺とは訳が違うのさ」
「どう違うのさ?」
「生き返った!て感じかな」
「よし、その言葉信じてみるか!皆、蘭にボールを集めるぞ」
「オー!」
言葉通り、蘭君の動きは絶好調!午前以上の身体のキレだ!もしかしたらもしかするわ・・。
早速、軽快なドリブルで相手ゴールに攻めこむ蘭君。チャンスだわ!
俺につられて皆の動きも軽快だ。パスも面白いように繋がっている。
俺はドリブルで相手をかわし、シュートチャンスまでこぎつけた。今だ!
俺はゴール目掛けて思いきり左足を振り抜いた!
キーパーもそれに反応して飛びつくが一瞬遅い。
勢いにのったボールはまさに弾丸のごとくゴールに突き刺さった!
「ヨッシャー!」
「やったー!」
自分でも驚くほどの身体のキレ!どれもこれも理奈ちゃんパワーだね。
「やったー!蘭、いいぞー」
「決まったね蘭君!」蘭君、頑張って。
「蘭、ホントに決めちゃったね。ハットなんとかも夢じゃないかもよ」
「そうだな!」
「よーし同点だ!一気にいくぞー」
「まかせとけー!」
俺たちは小刻みにパスを繋ぎ、チャンスを待った。そして・・
仲間がペナルティーエリア内で倒されPK を獲得した。
「蘭、蹴ってくれ」
「わかった」
PK はゴールキーパーとの一対一の心理戦の面が大きい。右か左か。
しかし俺はそんなことはお構いなしだ。どんなに跳んでも届かないところ!そこを狙うんだ。
そして短いホイッスルを合図に俺は静かに助走をとった。
蘭君決めて!
俺の左足から放たれたボールは、弧を描くことなく一直線。
そして、ゴール右上の一点に突き刺さった!キーパーの左手も全然届かない完璧なPK だ。
これで逆転!
「ねー理奈お姉さん、蘭があと1点とればハットトリックだよね!」
「うんそう」
「蘭!もう1点頼むぞー」
そしてついにそのチャンスは巡ってきた!右サイドからのCK 。もう後半の残り時間もほとんどない。これがラストチャンスだ。
「ふうー、緊張するぜ!」
「一也が緊張してどうするのよ」
蘭君を含めチーム全員が敵ゴールの前に集結。蹴り出されるボールを待っている。
そしてボールが・・しかし、ニアサイドにいた俺の頭を、ボールは軽々と飛び越えてしまった。
「くそー」
ボールは相手チームに。
だけど今日の俺達はキレキレだ。あっという間にボールを奪い返した。
「蘭!」
ボールはゴール前の俺のところへ。
「オーバーヘッドで決めちゃえー!」
またしても理奈ちゃんのあの言葉が俺の頭に甦った。
飛んでくるボールにあわせ俺は思いきりジャンプして、体を回転させた。
「あっ蘭君!」
「蘭!」
皆が皆、蘭君のオーバーヘッドシュートを見守った!
よしもらった!俺の左足は・・。
「えっ?」
みごどに宙を切った!
「えっ?蘭君」
「ありゃ?」
転々と転がるボールはそのままラインをわった。
『ピーッ』
そして試合は終わったのだった。