そんなんじゃ全然届かないよ
私はなんだか気持ちがウキウキしていた。原因はわかっている、蘭君だ!
私のために必死でゴールをねらってくれた蘭君。
それが叶わなくて、ちょっといじけた蘭君。
そのすべてが私の元気の素だ!!
そしていよいよ女子の試合が始まった。
開始早々、私はボールを受けとると、相手ゴールに向かって猛スピードのドリブルをしかけた!
不意をつかれたかたちの相手ディフェンスは、私の動きについてこれない。
「シュートまでいける」
私はゴールに一瞬目をやり、そのまま右足を思いきり振り抜いた!
放たれたボールは、ゴールキーパーの右手をかすめながらゴールネットを揺らした。あっという間の先制点だ!
皆の頑張りで、結局5対0でハーフタイムに。
「蘭君、見ててくれた?!」
「・・参りました」
「理奈お姉さんスゴーい!」
「翼君の応援のおかげかな」
「えっ?ぼくの声聞こえたの」
「もちろんよ」・・本当に聞こえてたよ!
「理奈、後半2ゴール決めて、ハットなんとかをやっちゃいなよ」
「ハットトリックだろう!」
「瞳も和久井くんも、そんなに簡単にいかないって」
「だって、敵は完全に戦意消失だぜ。意外と可能性大かもよ」・・その気になれば、今の私なら出来ちゃうかも!
私はふと蘭君に目をやった。
「蘭君どうしたの?なんだか顔がコワイ」何か考え事?
「理奈ちゃん、もしかして・・ロシア・・」
「えっ!蘭君気付いた?」
私の心の中を蘭君は知っているの!?
「やっぱりそうか」
「うん!そう決めたの」バレてたか・・ 。
そして、そのまま私はは再びピッチに戻っていった。
「理奈お姉さんガンバレー」
「理奈、ハットなんとか決めちゃえー!」
「理奈ちゃん行けー!」
後半もこちらのチームが完全に試合を支配し、3ゴールを奪った。
みんなも私の動きにつられて、すごいパフォーマンスの連続。完全にチームワークの勝利だ!
私のハットトリックはまたの機会に。
あれ?蘭君、私たちの勝利あまり喜んでくれてないの・・。
話をしても上の空だし、昼食の時も黙っちゃってたし。
「蘭、今度こそ決めてよ!」
翼君の応援も耳に入ってない感じ。
そして、男子の二回戦が始まった。
明らかにおかしい。
午前中のプレーとは明らかに別人の蘭君。全然動きにキレがない。いったいどうしちゃったの!?
「蘭のやつ全然いいとこないぜ!」
「そうね」
「蘭・・」
和久井くんも瞳もそして翼君までが、蘭君の異変に気づいている。
そんな蘭君をみて、私はいてもたってもいられない!
「私ちょっと行ってくる!」
「理奈、いくってどこにいくの?」
「本部席よ」
「はあっ?」
「必ずゴールを決める!そして、私に勇気を届ける」・・そう言ってくれたじゃない。
ゴールこそ奪えなかったけど、午前中のあの蘭君の必死なプレーのおかげで、私はこんなに元気いっぱいなのに。蘭君、蘭君・・。
「失礼します。ちょっとマイクを貸してください」
本部席に着いた私は、係りの人にそう告げるとマイクを握った!
『こらー蘭、私に勇気をくれるんじゃなかったの!そんなんじゃ全然届かないよ!』
そう大声で叫んだ私、蘭君から視線を外すことはなかった。
しばらくすると前半終了のホイッスルが響いていた。