ぱんく寸前だ
そしていよいよ女子の試合が始まった。
「蘭、理奈お姉さんゴールきめるかな?」
「ん・・しかし相手も強豪だからな」
『ゴール』
「えっ!?」
「あっ!お姉さんもう決めちゃったよ」
「・・・」早すぎ。
「さすが理奈ね!」
「まだ試合開始1分だぜ」
その後も、女子チームの快進撃は止まらない。
あっという間の5得点!すっかり相手チームは戦意消失だ!
ハーフタイム、理奈ちゃん達が戻ってきた。
「蘭君、見ててくれた?!」
「・・参りました」
「理奈お姉さんスゴーい!」
「翼君の応援のおかげかな」
「えっ?ぼくの声聞こえたの」
「もちろんよ」
「理奈、後半2ゴール決めて、ハットなんとかをやっちゃいなよ」
「ハットトリックだろう!」
「瞳も和久井くんも、そんなに簡単にいかないって」
「だって、敵は完全に戦意消失だぜ。意外と可能性大かもよ」
今日の理奈ちゃんの動きはキレキレだ!ドリブルもパスもシュートも。
開始わずか1分のシュートだって決してまぐれなんかじゃない。
前半、理奈ちゃんの得点こそ1点だったが、パスを出さず、理奈ちゃん本人でゴールを狙えるチャンスは何度もあった。もしそれを全部狙っていたら・・。
一也の言う通り、今日の理奈ちゃんがその気になれば、ハットトリックは夢じゃない。
お父さんのことで悩んでいた理奈ちゃん。体にキレもなく心配することもあったけど、この調子ならもう大丈夫だ。
そう言えば、お父さんに自分の本当の気持ちを話すって言ってたけど、その事が理由なのだろうか。
もしかしたら、ロシアに行っちゃうともうサッカーが出来ない。今日が最後なのか・・それであんなに張り切って・・。
「蘭君どうしたの?なんだか顔がコワイ」
「理奈ちゃん、もしかして・・ロシア・・」
「えっ!蘭君気付いた?」
「やっぱりそうか」
「うん!そう決めたの」
それだけ言って、理奈ちゃんは再びピッチに戻っていった。
「理奈お姉さんガンバレー」
「理奈、ハットなんとか決めちゃえー!」
「理奈ちゃん行けー!」
後半も理奈ちゃんの動きがさえわたり、チームは3ゴールを決めての圧勝だった。理奈ちゃんは結局、後半も1ゴール。チームワークに徹しての完勝だ!
喜びの中にあっても、俺の心はさえない。
軽めの昼食をとり午後の部が始まる。
だけど、俺の心はさえないまま。
「蘭、今度こそ決めてよ!」と翼。
だけど、俺の心はさえないままに試合が始まった。
理奈ちゃんがいなくなるなんて。
理奈ちゃんがいなくなるなんて・・。
そんなことは前からわかってることだけど・・あー・・。
俺の頭はパンク寸前だ。
ドリブルはミスするし、パスも奪われる。くそー!
そんな俺のプレーを、チームのみんなも見限ったのか、俺の足元にパスがくることはなくなっていた。
その時だった。大会会場に大きな声が響いたのは・・。
『こらー蘭、私に勇気をくれるんじゃなかったの!そんなんじゃ全然届かないよ!』
その声はスピーカーを通した大音響!
理奈ちゃん!?
選手のプレーも一瞬止まった感じだ。
なんで理奈ちゃんの声がスピーカーから・・。
そして、前半終了のホイッスル。
0対1、相手チームのリードでハーフタイムとなった。