わざとそんなふうに
ハーフタイム
額に汗を光らせて、蘭君たちが戻ってきた。
「くそーっ!あのゴール防げたのになあ」
「あの縦パスはまぐれだぜ」
「それに蘭のシュートも惜しかったよ」
「まだまだ挽回のチャンスはあるさ!」
「ああ」
まだまだ、みんな諦めてはいない。そして私は、蘭君のところへ歩み寄った。
「シュート惜しかったね」
「うん・・」
その表情に蘭君の悔しさがすごく伝わってくる。初めてだなこんな蘭君・・。
そしていよいよ後半がスタート!
ピッチに向かう前、蘭君は言ったのだった。
「必ずゴールを決める!そして、理奈ちゃんに勇気を届ける」と。
私にだけ聞こえるように小さな声で。
「うん」
試合は相手ペースで進んでいる。
FW の蘭君でさえ、攻撃どころか相手の攻撃を防ぐのに精一杯。
しかしさすがに蘭君!攻撃に転じる一瞬の隙を狙っている感じだ。
蘭君が敵のパスをインターセプト!仲間を引き連れドリプルでかけあがる。
ゴールを目掛けて一直線に!
そしてついに蘭君がシュート体勢にはいった。
左足を大きく振り上げて・・。
「・・あっ!蘭君・・フェイント」
蘭君の左足はゴールを狙わず、アウトサイドで左に位置する見方へのパスだ。
相手DF は蘭君がシュートを撃つものと決めてかかり、ボールをうけた選手はまったくのフリー状態。
そしてその右足からはなたれたシュートは、鮮やかにゴールネットを揺らしたのだ!
「やったあ!」
「やったぞー!」
「蘭君・・」
これで試合は1対1。こちらのゴールで同点に追いついたのは嬉しいけど、私はなんとなく嬉しさ半分。
残り時間はあと5分。このままだとPK合戦だ。蘭君・・。
相手がドリプルとパスでこちらのゴールを目指してくる。すると見事に見方DF が相手のボールをカットして、どんどん前に走り込んでくる。そして、そこから鋭いパスがMF に届いた。
蘭君は思いきりゴール前に走り込んだ!
「あっ!あの時と同じだわ・・」私はおもわずそうつぶやいた。
そして柔らかくあげられたボールは、蘭君めがけて飛んでいく。まるでスローモーション。
「オーバーヘッドで決めちゃえ!」
私は心の中で叫んだ。
飛んでくるボールにタイミングを合わせ、蘭君はジャンプ!空中を回転し、蘭君の左足がとらえたボールはまっすぐゴールへ・・。
「やったあ!」
私はそう声を張り上げた。
しかし、またしてもボールはゴールポストにはじかれてしまった。
だけどそのあとが前半のそれとは違っていた。はじかれたボールは、ゴール前に詰めていた味方の足元に。それをすかさず蹴りこんで、勝ち越しのゴールを奪ったのだ。それはあっという間の出来事。
そして、試合終了を告げるホイッスルが鳴った。
ゴールは奪えなかったけど、蘭君のあの活躍は、確かに私に勇気をくれた。
でも、責任感の強い蘭君は・・。
私は蘭君のところにかけよった。
「蘭君、おめでとう、やったね!」
「理奈ちゃん・・」
「蘭君、嬉しくないの?」
「俺・・」
「・・心配ないよ。蘭君の想いちゃんと私に届いたよ」
「けど・・」
「もう蘭君!クヨクヨしないの!男でしょ」
「理奈ちゃん・・」
「今度は女子の番よ!午後には男子も2回戦でしょ。ファイトだぞ!蘭」
私はわざとそんなふうに言った。
「・・ふふふっ」
「何よ蘭君?その笑い・・」
「別に」
「ふーん。よし、女子も頑張るぞー!」
「応援してるよ」
「うん」