あの時と同じ
ハーフタイム
俺たちはベンチに戻った。
「くそーっ!あのゴール防げたのになあ」
「あの縦パスはまぐれだぜ」
「それに蘭のシュートも惜しかったよ」
「まだまだ挽回のチャンスはあるさ!」
「ああ」
スポーツドリンクをがぶ飲みしながら喋っていると、理奈ちゃんが俺のところへやって来た。
「シュート惜しかったね」
「うん・・」
俺は悔しさをかみしめてそう言った。
手応えは完璧だった!しかし、ボールがゴールネットを揺らすことはなかった。
理奈ちゃんのために、今の俺に出来るただひとつのこと。なのに・・。
だけどまだ前半が終わっただけだ。俺もチームのみんなも逆転を信じている!
コーチの指示を聞き終え、俺たちは後半戦のピッチに向かった。
その時、俺は静かに理奈ちゃんに誓った。
「必ずゴールを決める!そして、理奈ちゃんに勇気を届ける」
「うん」
理奈ちゃんはそ頷いてくれた。
「よーし、逆転するぞー!」
「おー!」
試合は前半の勢いのまま、相手ペースで進んでいる。なんとか突破口を見つけないと。
俺たちは必死だった。少し前の俺たちなら、既に諦めムードだった。けど今は違う。毎日練習に励み、チームワークもうまれた。そして、勝つために戦っているんだ。
そんなとき俺はふと思った。いったいいつからだったのかな?あんなにダラダラの俺たちで、1回戦敗退が当たり前のチームが、今はこうして勝つために・・。
そうだ!理奈ちゃんが来てからだ。俺たちが変わっていったのは・・。
理奈ちゃんが加わった女子チームは、それまで以上にチームワークが上がり強さを増した。
それに触発されるように俺たちも・・。
これも理奈ちゃんの目に見えない力なのか!?
そして俺は、敵のパスをインターセプト!仲間を引き連れドリプルでかけあがった。
ゴールを目掛けて一直線に!
まずは同点に追いつかないと。
よし、シュートコースがあいた!左足を大きく振り上げて・・しかしすぐにコースが数人のDF にふさがれてしまった。このままシュートしても、ボールはDF の体に当たってしまう。
俺はゴールを狙わず、咄嗟にアウトサイドで左に位置する見方へパスをだした。
相手DFは俺に付きっきり!隣はフリー状態のはずだ。
予想通り、俺のパスはフリーの味方MF にわたった。そして、その右足からはなたれたシュートは、鮮やかにゴールネットを揺らしたのだ!
「やったあ!」
「やったぞー!」
残り時間はあと5分。このままだとPK合戦だ。
今度は、相手がドリプルとパスでこちらのゴールを目指してくる。すると見事に見方DF が相手のボールをカットして、どんどん前に走り込んでくる。そして、そこから鋭いパスがMF に届いた。
「蘭!」
俺は思いきりゴール前に走り込んだ!
そしてボールが俺の顔目掛けて飛んでくる。
「あっ!あの時と同じだ・・」
いつかの練習試合の時と。
「オーバーヘッドで決めちゃえ!」
その言葉が俺の頭の中を、一瞬にして支配した!
飛んでくるボールにタイミングを合わせ、俺はジャンプ!空中を回転し、左足が完璧にとらえたボールはまっすぐゴールへ・・。
決まれ!!
しかし、またしてもボールはゴールポストにはじかれてしまった。
だけどそのあとが前半のそれとは違っていた。はじかれたボールはまだラインをわっていない。
そして、ゴール前に詰めていた味方の足元に。チャンス!ゴールは目の前だ。
それをすかさず蹴りこんで、勝ち越しのゴール!
それとほぼ同時に、試合終了を告げるホイッスルが鳴った。
勝った・・。
相手チームと健闘を称え合い、俺たちは勝利の歓喜のなか。
「蘭、やったね!」と喜ぶ翼。
「蘭、おめでとう」
「これはまさに奇跡だ!うちの男子チームが勝つなんてな」瞳と一也だ。
でも俺は、理奈ちゃんとの約束が果たせなかった。そんな自分が、なんとなく惨めに思えてならない。
「蘭君、おめでとう、やったね!」
「理奈ちゃん・・」
「蘭君、嬉しくないの?」
「俺・・」
「・・心配ないよ。蘭君の想いちゃんと私に届いたよ」
「けど・・」
「もう蘭君!クヨクヨしないの!男でしょ」
「理奈ちゃん・・」
「今度は女子の番よ!午後には男子も2回戦でしょ。ファイトだぞ!蘭」
「・・ふふふっ」
「何よ蘭君?その笑い・・」
「別に」
「ふーん。よし、女子も頑張るぞー!」
「応援してるよ」
「うん」