あーもー
「蘭、どうした?元気がないな」
夕食の時、父さんがそう聞いてきた。
「うん」
「今日の練習試合のことか?」
「いや」
「何か心配事?」今度は母さん。
「ちょっとね」
「蘭が落ち込むのは、理奈お姉さんのことぐらいだよ!」図星の翼。
「そうなのか?」
「まーね」
「何があったんだ?」
「正式に決まったって!ロシア行きが」
「いつなの?」
「5月末」
「そうか、いよいよ行ってしまうのか理奈ちゃんたち」
「理奈お姉さん、外国の人になっちゃうの?」
「外国の人にはならないよ。ただ、外国で暮らすってことだ!」
「そうか!」
「父さんだったらどうした?やっぱり理奈ちゃんのお父さんと同じようにロシアで仕事するの」
「さあ、それはどうかなあ・・」
「あなたは無理じゃない・・」とお母さん。
「・・男っていうのは、この仕事にかけてみたいっていう時があるのかもしれない。一度きりの人生だ!理奈ちゃんのお父さんは、今がその時なんだよ、きっと」
「・・・」
「けど、迷ってると思うぞ理奈ちゃんのお父さん」
「えっ?」
「家族のことでな!」
「うん」
「そうね・・」
「だから、父さんもそういう立場になってみないとなんとも言えないな!」
一度きりの人生かあ~・・。
「蘭、理奈お姉ちゃん遠くに行っちゃうの?」
俺の部屋でゲームをやりながら翼が聞いてきた。
「うん、ロシアってとこにね」
「ロシア?」
「飛行機で何時間もかかるすごく遠いところさ」
「そうなんだ。じゃあ、会えなくなっちゃうね。ぼく、お姉ちゃん好きだったのになあ・・」
俺は理奈ちゃんにメールをしようか迷っていた。メールをするにも、なんてメールしたらいいのかそれがわからない。
今ごろ理奈ちゃんもベッドの上かなあ・・。
あーもー・・・。
「ジュースでも飲むかあ」
そう思って冷蔵庫に向かうと、母さんがまだ起きていた。
「蘭、どうしたの?」
「ジュースでも飲もうと思ってさ」
「そう・・・」
「母さん・・」
「ん?なに」
「・・いや、やっぱいいや」
「明日も練習あるんでしょ!早く寝なさいよ」
「うん。おやすみ」
「おやすみ」
俺はベッドに仰向けになった。
理奈ちゃん・・。