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半分大人

「おはよう」

「おはよう」

「あれ?お父さんは・・」

「帰ったわ!北海道に。朝一番の飛行機でね」

「えっ!」

「どうして?水曜までこっちにいるって言ってたのに」

「急用ができちゃったって。お母さんも今朝聞いたのよ!」

「そんなあ・・」


「理奈、このお鍋、蘭君の家に返しにいってくれない」

「はあーい」


なんでお父さん黙って帰っちゃうの?ロシア行きのことはどうするの・・。

私はそんなことを考えながら、蘭君の家のチャイムを押した。


・・「やっぱりひとりで行くよ!ロシア」

「えっ!」

「里奈は無理してる!あの子と話してるとそれがひしひしと伝わってくる」

「でも、あなたはそれでいいの?」

「離れていても父娘は父娘、家族は家族さ」

「・・・」

「あの子が自立できる年頃になったら、また考えればいい。それまではこっちで・・」

「里奈には話さなくていいの?」

「ああ」

あの人はそう言い残し、朝早くここを出ていったのだ・・。


「はーい」

「安藤です。お鍋を返しに来ました」


ドアを開けてくれたのは翼君だった。

「いらっしゃい、理奈お姉さん」

「あっ理奈ちゃん、わざわざ持ってきてくれたの」

「お姉さん、蘭はまだ寝てるんだよ!」

「そうなんだ」

「理奈ちゃん、よかったら上がって!蘭を起こしてやってよ」

「えっ!私がですか?」

「きっと飛び起きるわよ!」

「そうしてよお姉さん。蘭ビックリするよ!」

「うん、でも・・」

「さあ、遠慮しない、遠慮しない!」

「はあ、じゃあお邪魔します」

「こっちだよ蘭の部屋は!」

「うん」

ホントにいいのかな?私が蘭君を起こしたりなんかしても・・。


「ほらテレビであるじゃない!寝起きをそーっといくやつが」

「はあ・・」

「思いっきりやっちゃって!」

なんか今日の蘭君のお母さんノリノリなんだよね!


仕方なくというか、ドキドキの気分で、私は蘭君の部屋のドアを開けた。ベッドから蘭君の寝息が聞こえる。


「じゃあお姉さん、あとヨロシクね!」

そう言って、翼君は部屋のドアを閉めてしまった。

えっ!蘭君と二人きりじゃない!!


私はそーっとベッドに近づき、蘭君の顔をのぞきこんだ!

ぐっすり眠ってるな。なんか起こすのがかわいそう・・。

でもいつまでもこの状況が続いたら、私の胸は破裂してしまいそうだ。


私は蘭君の耳元で名前を呼んでみた!

「蘭君、蘭君・・」

こんなんで起きるわけないか・・どうしよう?でも、蘭君の寝顔ってかわいいな・・。


こうなったら奥の手ね!蘭君ごめん。私はそうひとりごとを言いながら、蘭君の鼻をつまんだ。

1秒2秒3秒4秒・・15秒。

苦しそうな顔をして、蘭君が目を開けた!


しばらく私と蘭君は目を合わせたまま。そのあと蘭君の瞳は、天井を見たり、壁を見たりキョロキョロし始めた。そして

「あー!理奈ちゃーん」と

大きな声をあげた!


ドアの外では

「蘭、やっと起きたみたいだね!」

「そうみたいね」


「ごめん、驚かせちゃったね!」

「ホントに理奈ちゃん?」

「ええ、そうよ」

「なんで?」

「お鍋を・・」

「お鍋?」


「蘭君、早く起きないとお昼になっちゃうよ」

「ああ・・うん」

「お父さんね、北海道に帰っちゃったんだ!」

「北海道?」

「私になにも言わないで」

「言わないで?」

今の蘭君には何を言っても上の空ね!


私が蘭くんの部屋を出ると、蘭くんのお母さんと翼くんが待っていた。

「蘭、飛び起きたでしょ!」

「ん・・まだ眠そうでした」

「夜ふかしばかりしてるからね・・里奈ちゃん何かあった?」

「えっ?」

「なんとなく元気がなさそうだから」

「実は・・」

私はお父さんのことを、蘭くんのお母さんに話した。


「そう、お父さん帰っちゃったの・・」

「何でなのかなあと思って」

「ん・・理奈ちゃん、子供のことを考えない親はいないわ。子供の幸せを願わない親はいない!多分、理奈ちゃんの気持ちがお父さんに伝わったんじゃないかな、この数日一緒にいたことで」

「私の気持ちが・・?」

「ロシアに行くことの不安だとか戸惑いとか・・理奈ちゃんのそんな思いがね」

「でも私は決めたんですよ!ロシアにいくことを」

「無理してない?理奈ちゃん」

「えっ!・・」


「あーあ、あっ!理奈ちゃん」

「蘭君、おはよう」

「おはよう」

「蘭、理奈ちゃん待っててくれたのよ!蘭が起きるのを」

「そうなの・・」

「えっ、うん」

「ちゃんと話を聞いてあげなさいよ!お母さん翼と出掛けてくるから」

「はあい」

「翼!」

「はーい!」

「理奈ちゃん、ゆっくりしていってね!」

「はい・・あの・・ありがとうございました!」

「うん」


「母さんと何話してたの?」

「色々かなあ・・」


「蘭君、さっき寝ぼけてたでしょ」

「そうかな?」

「私が話したこと覚えてる?」

「話したこと・・」

「ほらやっぱり!」

「ごめんなさい」


「実はね、私のお父さんひとりで北海道に帰っちゃったんだ」

「なんで?」

「急用ができたとかで。でもそれは嘘だと思う」

「嘘?」

「だって私に何も言わないで帰っちゃったのよ!どんなに朝早くても、普通なら私を起こすでしょ・・」

「そうだよね・・」

「だから・・」

「じゃあ、理奈ちゃんのロシア行きのことはどうなるんだ?」

「多分、お父さんひとりで行くんじゃないかな・・」


私は家に帰り自分の部屋でボーッとしていた。

コンコン

「理奈、入るわよ」お母さんだ。

そう言えば昨夜はお父さんが部屋に入ってきたんだよね・・。


「お母さん、お父さんはひとりでロシアに行くつもりなの?」

「どうして?なんでそう思うの」

「うん・・なんとなくそんな気がしてる」

「そっか・・お父さん、ひとりでロシアに行くって決心したのよ!」

「やっぱりそうなの」

「うん」

「私のせいだよね」

「誰のせいとかそんなんじゃないわ!」

「でも・・」

「理奈とお母さんは、ここからお父さんを応援しましょう!」


「でも、なんで私に黙って行っちゃったの?」

「多分理奈の顔を見たら、決心が揺らいじゃうって思ったんじゃないかな」

「そんなのお父さんこそ無理してるじゃない!」

「理奈・・」


私だってもうすぐ15才、半分は大人よ!なんでそんな大事なこと、お父さんひとりで決めちゃうの・・。


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