○○の日
「ごちそうさまー!」
「蘭、おかわりは!?」
「いらなあーい・・」今日だけね。
「あら、いつもおかわりするくせに」
「ごちそうさまー!」・・ん?翼まで。
「翼、おかわりは!?」
「ごちそうさま」父さんもか。
「あなたまで・・・」
「お母さん、今日は何の日だか知ってる?」
「翼・・何かあったかしら?」
「・・カニパーティだよ!」
「だからみんなご飯おかわりしないのね・・どうするのよ、こんなにご飯あまらせて!」
「母さん、買い物行くんだろう。今日は俺がおともするよ!」
「あら、珍しいわね!何たくらんでるのよ?」
「何もないよ!」なんかカニパーティーのこと考えると、心がウキウキしちゃってさ。
「 そうかしらね・・」
そして僕らは買い物に出た。家族総出で!
「もうすっかり春の陽気だな!」
「そうね、もうすぐ4月よ!」ホントぽかぽか!
「そういえばさ、父さんと母さんの結婚記念日って4月じゃなかった!?」
「あら蘭、よく覚えてるわね」
「4月25日だ!」
「何かお祝いしてくれるのかな君たちは!?」と母さん。
「まあ、考えとくかな!なあ翼」
「うん」
「まあ・・期待してるわ!」
○○記念日とか、○○の日ってよく聞くけど、このまま順調にいけば、今日はカニ記念日だね・・。
「お酒も買おうと思うんだけど、安藤さんのご主人、何がいいのかな?」
「聞いてないなあ・・」
「俺、理奈ちゃんに聞こうか?」
「ああ、そうしてくれるか蘭」
「うん」
そして俺は理奈ちゃんにメールをした。
「理奈ちゃんのお父さんは、お酒は何が好きですか?・・だって父さんが」
すると母さんの携帯が鳴った。
「あら!理奈ちゃんのお母さん・・」
「ん?」
「はい、佐藤です・・・」
「お酒までかわなくていいって、安藤さんから」
「そうか・・じゃあ適当に買っていくか!」
「そうね、あなたも今日は相当飲むでしょうからね!」
「お父さん、お酒ってそんなにおいしいの?」
「まーな!翼は今9才かあ。あと11年もすれば、お酒の美味しさがわかるさ」
「でも、いつだったかビールの泡をなめたら苦いだけだったけどなあ」
「蘭、お前もわかるさあと6年で!」
「そんなもんですかねー・・」
「よし、とりあえず予定のものは全部揃ったわ!」
「よし、アイスクリームでも食べるか!?」
「賛成!」待ってました。
俺たちは荷物を抱えマンションに向かった。すると外階段に人影が・・理奈ちゃんとお父さんだ!二人は階段を下りてくる。
「父さん、理奈ちゃんだよ」
「えっ!」
「あっ!蘭君」
「理奈ちゃん・・」
「はじめまして!安藤です」
理奈ちゃんのお父さんは、思ったより背が高くサングラスをかけていた。ホントに外国の男性って感じだ!
理奈ちゃんは、伊達メガネはかけてない。最近の理奈ちゃんはほとんどそうだ!
「佐藤です」
「こんにちは!佐藤蘭です」
「佐藤翼です」
「こんにちは!」
「今日はすみません!お食事に誘っていただいて」
「いえ、にぎやかな方が楽しいですから!」
「理奈ちゃん、どこか行くの?」
「コンビニまで!お父さん、タバコがないとダメなのよ」
「私と同じですね!」
「佐藤さんもですか」
「ええ!」・・なに共感しあってるの。
「ではのちほど・・」
「はい」
「蘭君、翼君、また後でね!」
「うん」
「あれ?母さん、何ボーッとしてるの」
「えっ?」
「あれれ・・」怪しい!
「何よ!?蘭」焦る母!
「あー腹減った!」
「僕も!」
「まだかなあ・・」
「まだかなあ・・」
「まだよ!あと1時間」
そんなとき、母さんの携帯が鳴った。理奈ちゃんのお母さんらしい。
「蘭、悪いんだけどこの鍋と野菜、理奈ちゃんの所に持っていってちょうだい!」
「うん、わかった」
「僕も行くよ!」
「安藤さんとこ、手伝わなくていいのか?」
「私も言ったんだけど、大丈夫ですって・・時間になったら来てくださいって!」
俺と翼は、理奈ちゃんの家のチャイムを押した。当然ドアを開けてくれたのは理奈ちゃん・・じゃなかった!
「いらっしゃい!」
「どうも。これ頼まれたものです」
「そうだったね!ありがとう」
そう言って、理奈ちゃんのお父さんは、生野菜が山盛りの、大きな鍋を受け取った。
「蘭君と翼君だったね」
「はい!」
「まだ早いけど、上がらないかい!うちのやつも理奈も用意が忙しくて、ちっとも私に構ってくれなくてね」
「はあ」
「話し相手になってくれないかな?!」
「はい、じゃあそうさせていただきます」
「そうか!それはありがたい」
「じゃあ僕、お母さんに言ってくる!」
そう言って、翼は外階段の扉を開けた。
「ぎょうぎよくしなさいって」翼はすぐに戻ってきた。
「うん」
「さあどうぞ!」
「お邪魔します」
「お邪魔します」
「あら!蘭君と翼君・・」
「話し相手になってと頼んだんだ!」
「えっ?」
「迷惑じゃないかしら・・」
「いえ」
「いえ」
「そう・・じゃあ理奈もいいわよ!あとはお母さんがやるから」
「うん」
「うわ!でかいカニ」
「すごいでしょう!翼君」
「翼君、両手で持ってごらん!」
「うん!・・ウオー!」
翼は渾身の力で、胸のところまでカニを持ち上げてみせた。
「デカッ!」
「3キロ以上ありそうだね!」
「こっちは毛ガニですか?」
「うん!それも上物だぞー」
『ゴクリ』俺は唾を呑み込んだ。
「蘭君はサッカー部なんだって?」
「はい、一応・・」
「かなり上手だって理奈から聞いたよ」
「上手ってほどでも・・」
「あら蘭君、この前の試合でもゴール決めたじゃない!」
「まあーね」
「翼君は、中学に入ったら何がやりたいんだい?」
「僕は野球!目指せメジャーリーガーって」
「ほう、頼もしいな!」
「ヘヘェ~」照れる翼。
「さあ、準備OKよ!」
「電話しようかしらね!佐藤さんとこ」
「僕が呼んでくるよ!」
「そう、じゃあ翼君お願いね!」
「はい!」
翼は勢いよく飛び出していった。
「お父さん、お母さん、準備出来たって!」
「はい!わかったわ」
「すごいよ!こーんなデカいカニがたくさんいる」
「あら!楽しみねー」
「僕、先に行ってるよ!」
「おう、すぐ行くよ!」
「フーッフーッ・・すぐ来るそうです!」息を切らす翼が、なんだか滑稽だ。
「フフフッ・・ありがとう翼君!」
ピンポン!
「私出るわ!」と理奈ちゃん。
「いらっしゃい!」
「あっ、理奈ちゃん、お言葉に甘えて」
「どうぞ上がってください」
「ありがとう・・」
「お邪魔します」
「お邪魔します」
「いらっしゃい!お待ちしてました」
「奥さんこれ!お酒とおつまみです」
「あら!よかったのに、気をつかってもらわなくて・・」
「うちの亭主、大酒のみだから!」
「まあっ。じゃあ遠慮なく・・」
「翼が言ってたけど、ホントデカいですねー!」
「味も絶品です!」
テーブルの上には、大きな鍋がふたつ、勢いよく湯気を吹き出してる。
「さあ、そろそろいいかしらね!」
そう言って、理奈ちゃんのお母さんが鍋のふたを開けた。
ひとつは野菜とカニがぎっしり!しかし、もうひとつの方はただのお湯・・?
「あのー・・こっちの鍋はどうするんですか?」
「ああ、こっちはしゃぶしゃぶ用にね!」
「はあ・・」
カニしゃぶ?
「佐藤さんは、お酒はだいぶいけるほうですか?」
「はい!活力の素ですね」
「なるほど・・鍋もいいですけど、我々は網焼きにしますか!」
「おっ!いいですねー・・」
「準備しますね」
「安藤さんはいつまでこちらに?」
「水曜までです」
「お仕事がお忙しいんですか!?」
「いえ・・今は会社を辞めて無職なんですよ」
「そうでしたか・・・」
父さん、なにもここで仕事の話をふらなくても・・。この話の流れの先には、理奈ちゃんのロシア行きってのもあるんだからさ!
さすがに父さんも、ふってはいけない話をふってしまったことに気づき、気まずい感じだ・・。
「実はロシアの友人から、仕事を誘われてまして!」
「ロシアの・・・」
「ええ・・」
ついに来てしまった!理奈ちゃんお父さんの口から、ロシアという言葉が出ちゃったよ。俺は口の中のカニを、ゴクリと音をたてて呑み込んだ!
理奈ちゃん、どうしよう・・。
これじゃあカニ記念日どころじゃない。理奈ちゃんのロシア行き決定の日になっちゃうよ!