カニ
「蘭、理奈ちゃんからはまだ連絡ない?」 「うん。もう飛行機は着いてるはずだけど。4時って言ってたから」
「そう、お母さんまでそわそわして、なんだか落ち着かないわ」なんで母さんが・・。
今5時半かあ・・よし!
俺は家を出てマンションの前まで出てみることにした。空港からまっすぐ帰ってくれば、ちょうどここに着く頃だ。
俺の勘は見事的中!理奈ちゃんを真ん中に、理奈ちゃんのお母さんと、大きなバッグを持った長身の男性。あの人がお父さんだな・・。
俺は偶然を装い、3人の前に出ていこうかとも思ったが、あまりに楽しそうなその雰囲気に、3人の前に出ていくことは出来ず、気づかれないようにマンションの外階段をかけ上がっていた!何やってるんだ俺は・・。
「ん?どこいってきたの蘭」
「いや、別に・・」
「理奈お姉さんを迎えに行ったんだよ!でも恥ずかしくて会えなかった」
「げっ!なんで知ってるんだ翼?」
「見てたもん!階段から」
「なにー・・」
翼のやつ、ひとの行動ばっかりチェックしやがって。
「そう、笑顔だったか・・」
「うん、すごく楽しそうだった!あの様子だと、まだあの話はしてないみたいだな」
「帰ってすぐっていうのもね・・」
「一緒にいた人、理奈お姉さんのお父さん?」
「ああ」
「どんな感じのひとだった?理奈ちゃんのお父さんって」
「母さん、どうしてそんなこと聞くのさ?」
「えっ、別に理由なんかないわよ」
「ふーん・・よく顔は見なかったけど、結構背が高かったな!それにネクタイしてた金色の」
「金色の・・?」
「さーてと、お買い物に行かないとな。蘭、翼、どっちか一緒に行こう!」
「俺は遠慮しとく」
「じゃあ翼ね!」
「僕!?」
「何かお菓子買ってあげるからさ」
「ホント?」
「ホントよ!」
「じゃあ行く」
中学にもなって、母さんと一緒なんて恥ずかしいもんな。それに、どうせ荷物もちだし・・。
「ただいまー」
「父さん、今日は早いんだね!」
「ああ、土曜日だし早めに帰してもらったんだ」
「ふーん」
「母さんは買い物か?」
「うん、翼とね!」翼は荷物係さ!
「そうだ、理奈ちゃんとこのお父さんはもう着いたのか?」
「うん、さっき3人で帰ってきてた」
「そうか」
「父さんも知ってるよね!理奈ちゃんたち、ロシアに行っちゃうかもしれないってこと」
「ああ」
「嫌だなあ、もしそれが現実になったら・・」
「寂しくなるよな!」
「北海道でも遠いのに、外国だなんてさ。学校とかどうするんだろう・・」
「どこの国にも日本人学校っていうのがあると思うけどな」
「そっか、ロシアにも日本人って住んでるのか」
「同じ年頃の子もきっといるだろう」
「だといいけど・・」
でもそこで好きな男子とかできちゃったら困るけどね。
「ただいまー!」
「ふうー、翼、ありがとね!」
「ああ、もう腕がパンパン」
「お帰り。そんなに重いものを持ったのか?」
「あれ、お父さん、帰ってたの!」
「ああ」
「だってさ、ニンジンでしよ、ジャガイモでしょ、ブロッコリーでしょ、玉ねぎでしょ、それに牛乳も・・」
「ご苦労さん!」
「わかった!今日はホワイトシチューだね」
「あら、よくわかったわね」
「普通わかるでしょ!あれ?肉は」
「ちゃんとあるわよ!冷凍庫に」
「いただきまーす!」
今頃理奈ちゃんとこも夕飯だろうか。もしかしたらその時話すのかもな・・。
「理奈ちゃんとこは何かしらね?お夕飯」
「カニ鍋かな!?」
「イクラ丼かもね!」
呑気な大人たちめ。
ブーブー・・夜の10時過ぎ、理奈ちゃんからメールが届いた。
俺はしばらくスマホをみつめ、メールを確認することをしなかった。しなかったじゃなく、出来ないんだ!怖くて・・。
ブーブー・・そしたら理奈ちゃんから2回目のメール。
さすがにこれ以上は・・。俺は覚悟を決めてメールを開いた。
「お父さん、無事に家に着きました。色々話ができて楽しかった。でも、ロシアに行くとかいう話は、今日はなかったです!」
俺は心の中でフーッっと息を漏らした。
「蘭君、起きてる!?」
「起きてる。そうなんだ。わかった!」
俺はなんともそっけのない返事を返してしまった。
「お父さんに蘭君のこと言ったら、ぜひ会ってみたいって!蘭君どうする・・」
どうするって・・ん?
「会ってはみたいけど、やっぱ照れ臭いなあ」
「そっかあ・・じゃあ明日、家族みんなで家に来ない!実はね明日北海道からカニが届くのよ。ちょっと待ってて、お母さんに聞いてみるから・・」
5分後。
「お母さんもお父さんもそうしましょうって!今お母さんが、蘭君のお母さんに電話してるよ」
俺は母さんのところまでダッシュした!
「えー、そうですか・・ええ、主人も子供たちもカニは大好物です・・・」
電話を終えた母さんに、俺は聞いた。
「理奈ちゃんのお母さんでしょ!」
「うん!明日カニパーティーをしませんかって!?」
「あなたどうしましょうか?」
父さん、OK だよね!?
「いやあ、それはちょっと図々しいんじゃないか・・」えっ?
「うん、そうよね!まだご主人の顔を見たことないのにね・・」
ダメなの?
「うん。でもカニも欲しいなあ~」
「ちょっとどっちなのよ?!あなた」
「蘭は・・当然行きたいよなあ」
「うん、もちろん!」絶対行く!
「そうしたら、野菜とかをうちが用意するってことでどうだろう・・」
「ああ、そうね!それでいきましょう。早速電話しとく」
「理奈ちゃん、明日家族でお邪魔することになったよ」
「うん、今電話中だよ、お母さんたち」
「野菜とかをうちが持っていくってさ!」
「ふーん、なるほどね!」
「明日楽しみだね」
「うん、すごく楽しみ」
「そうだ蘭君、今日夕方、外階段を上がっていくとこ見かけたよ!」
理奈ちゃんにも見られてたか。
「ちょっとね・・」
そんなわけで、明日は安藤家と佐藤家合同のカニパーティーが開かれることになった。ラッキー!翼も喜ぶぞー!
でも、何か大切なこと忘れてませんか?皆さん・・。