わかんなくなっちゃったよ
「あれ蘭、まだ起きてたの!」と母さん。
「今寝るとこ!」
「あっそうだ蘭、明日よね!理奈ちゃんのお父さんが来るの?」
「うん。俺も会っとこうかなあ・・」
「なんで蘭が会う必要があるのよ!?」
「それはそのー・・」
「いいから、早くやすみなさい」
「うん、おやすみ」
「おやすみ」・・蘭ったら、フフフッ。
俺は部屋に行きベッドに潜り込んだ。とその時スマホがふるえた!
ブーブー・・メールだ。
「蘭君、まだ起きてる?」
理奈ちゃん、どうしたんだろう?こんな時間に。
「起きてるよ!理奈ちゃん、眠れないの?」
「うん」
「明日、お父さんが来るんだもんね!ワクワクして眠れないんだろう!?」
「うん、そうなんだけど・・」
「他に何かあるの?」なんか元気がないな。
「うん、よくわかんないんだけど・・なんかお父さんに会うのが怖いんだ」
「怖い?」
「うん」
「久しぶりだから緊張してるんじゃないか?」
いくら大好きなお父さんでも、久しぶりに会うとなると、緊張というか照れ臭いというか、そんなのがあるのかもな。
「そうかなあ・・」
メールなんかではとても伝わらない!
「蘭君、今会えないかな!」
「えっ!今?」
「うん」
「わかった!俺の方からいくよ。玄関で待ってて」
ただ事ではないみたいだ!?すぐ行くよ理奈ちゃん。
「わかった」
俺は上着だけ引っかけ部屋を出た!
「蘭!どうしたの?」
「理奈ちゃんが会いたいって!」
「えっ?」
「ちょっと行ってくる!」
「うん」母さんは俺を止めなかった。
しっかりね!蘭。
コンコン・・俺は理奈ちゃんの家のドアを小さくノックした。すると、すぐにドアが開き理奈ちゃんが顔を出した。
「理奈ちゃん!」
「蘭君、ゴメンね!こんな時間に」
「寒いから中に入って」
「うん。理奈ちゃん、怖いって、いったい何が怖いの?」
「それが・・私にもよくわからない。明日、お父さんに会えてとても嬉しいんだけど・・」
「うん」
「会いたくないって言うんじゃないのよ!でも・・」
その時、理奈ちゃんの後ろから声がした。
「理奈、蘭君、そこだと風邪ひくわよ」
「あっ!お母さん」
「すみません!こんな時間に」
「私が蘭君に会いたいって言ったから・・」
「わかってるわ。さあ中へどうぞ!」
「ごめん、私起こしちゃった?」
「うんん、お母さんもなんだか眠れなくてさ」
「お母さんも・・」
「うん・・実はね理奈、理奈にはお父さんが言うまで黙っていようと思ってたんだけど」
「えっ!何?もしかして北海道に帰るってこと」
「それが・・もっと遠いところ!」
「遠いって・・」
「ロシアよ!」
「ロシア!」
「「えっ!」
ロシアって外国のロシア!?えー!そんなところに理奈ちゃんはいっちゃうのか・・?
それから、理奈ちゃんのお母さんがホントのことを色々と話してくれた。理奈ちゃんのお父さんのこと、そして、理奈ちゃんたち家族の今後のことを。
俺は、理奈ちゃんのお母さんが話してくれていることを、なんだか夢の中の出来事として聞いている感じがしていた。現実ではない、これは夢の中のことなんだと・・。
「蘭君、そろそろ戻らないと、お母さんが心配するわ」
「はい」
「理奈、前まで送って行きましょう」
「うん」
「大丈夫ですよひとひで!」
「ダメよ!大人の言うことはきくものよ」
「はい」
理奈ちゃんたちも外階段を下り、俺の家の前まで来てくれた。
「蘭君、ありがとう!」
「おやすみなさい」
「おやすみなさい」
そう言って俺は、家のドアを開け中に入った。
家に戻ると、母さんがまだ起きていてくれた。
「ただいま」
「どうだった?理奈ちゃん」
「それが・・」
俺は母さんに、今聞いてきたことを全部話した。
「そっか!もしかしたら理奈ちゃん、この土地を離れることになるって薄々感じてたのかもね。それがいよいよ明日、現実のこととなってしまう・・」
「・・・」
「蘭、こればっかりは、それぞれの家族のことだからね・・」
「うん・・」
理奈ちゃんはこの事で相当悩んでいたんだね。俺はどうしたらいいんだ?そして
「理奈ちゃんにとっては、家族が一緒にいられるってことが一番幸せなことなんだよ。もし理奈ちゃんからそう言われたら、男らしく『わかった』って言ってあげることね・・お母さん思うんだ!好きなもの同士に距離は関係ないって」・・いつかの母さんの言葉が俺の頭のなかを駆け巡った。
それはわかってるさ!だけど・・。
俺は理奈ちゃんにメールを書こうとした。けど、適当な言葉が浮かばない。
「理奈ちゃん」
・・これしか。
そして
「蘭君、ありがとうね!おやすみ」
そう理奈ちゃんから返信があった。
理奈ちゃん、俺わかんなくなっちゃったよ・・。