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それだけの文字

私は蘭君にメールをした。

「蘭君、まだ起きてる?」


明日、いよいよお父さんがこの街にやって来る。私とお母さんに会うために!

2ヶ月ぶり。たった2ヶ月なのに、ずっと会ってなかったようなそんな不思議な感覚だ。

この日をどれだけ楽しみにしていたことか!でも、なぜなんだろう?お父さんに会えることが嬉しくて嬉しくてたまらないのに、心のどこかなのか、頭のどこか隅っこなのか、お父さんに会うのが怖い。そんな気持ちが確かに存在してる。


プープー・・蘭君からだ。

「起きてるよ!理奈ちゃん、眠れないの?」

「うん」

「明日、お父さんが来るんだもんね!ワクワクして眠れないんだろう!?」

「うん、そうなんだけど・・」

「他に何かあるの?」

「うん、よくわかんないんだけど・・なんかお父さんに会うのが怖いんだ」

「怖い?」

「うん」

「久しぶりだから緊張してるんじゃないか?」

「そうかなあ・・」


メールなんかではとても伝わらない!


「蘭君、今会えないかな!」

「えっ!今?」

「うん」

「わかった!俺の方からいくよ。玄関で待ってて」

「わかった」ありがとう蘭君。


私は上着を羽織り、そっと部屋を出て玄関に向かった。


コンコン・・ドアを叩く音。蘭君が前に到着した合図だ!

私はゆっくりとドアを開けた。

「理奈ちゃん!」

「蘭君、ゴメンね!こんな時間に」


明日、あのひとの口から理奈に告げられる。ロシアに移住するということを!やっとこの街に慣れてきて、友達もそして蘭君という素敵な彼氏もできたというのに、それを引き裂いてしまう・・。

そんなことを嫌でも考えてしまい、とても寝付けない。

私はワインでも飲もうとリビングに向かった。

すると玄関に人の気配が・・それが理奈と蘭君であることはすぐにわかった。

理奈も何か感じ取っているに違いない。


「寒いから中に入って」

「うん。理奈ちゃん、怖いって、いったい何が怖いの?」

「それが・・私にもよくわからない。明日、お父さんに会えてとても嬉しいんだけど・・」

「うん」

「会いたくないって言うんじゃないのよ!でも・・」


私は、薄暗い玄関の灯りで話す二人のもとへ行き、声をかけた。

「理奈、蘭君、そこだと風邪ひくわよ」

「あっ!お母さん」

「すみません!こんな時間に」

「私が蘭君に会いたいって言ったから・・」

「わかってるわ。さあ中へどうぞ!」


「ごめん、私起こしちゃった?」

「うんん、お母さんもなんだか眠れなくてさ」

「お母さんも・・」

「うん・・実はね理奈、理奈にはお父さんが言うまで黙っていようと思ってたんだけど」

「えっ!何?もしかして北海道に帰るってこと」

「それが・・もっと遠いところ!」

「遠いって・・」

「ロシアよ!」

「ロシア!?」ロシアって、いったいどういうこと。

「「えっ!」さすがに蘭君も驚いてる。


それからお母さんは教えてくれた。お父さんは今まで勤めていた会社を辞め、ロシアに住む友人の誘いで、その異国の地で造船の仕事に就こうとしているということを・・。そして、私たちもその異国の地に行くことになるかもしれないということを。


「蘭君、そろそろ戻らないと、お母さんが心配するわ」

「はい」

「理奈、前まで送って行きましょう」

「うん」

「大丈夫ですよひとひで!」

「ダメよ!大人の言うことはきくものよ」

「はい」


「蘭君、ありがとう!」

「おやすみなさい」

「おやすみなさい」

そう言って蘭君は、家のドアを開け中に姿を消した。


「さあ、戻りましょう」

「うん」


「お母さん、ワインでも飲もうかなあ・・」

「お母さん・・さっきの話、もう決まりなの?」私、ロシアなんて嫌だよ!

「まだ正式には返事をしていないらしいんだけど!その誘ってくれたひとには」

「そう」

「ゴメンね理奈、せっかくこっちの生活に慣れてきたところなのに」

「うんん。でも、お父さんが行くっていったら、私たちも一緒に行かないとダメだよね・・」

「理奈・・」

「・・わかったわ!私寝るね」

「うん」

「おやすみなさい」

「おやすみ」ゴメンね理奈!


やっぱりか!私の嫌な予感はこれだったんだ・・お父さん・・。


部屋に戻ると着信のランプが小さく点滅していた。

「理奈ちゃん」

メールにはそれだけの文字。


蘭君にも心配かけちゃったなあ!でも蘭君、蘭君が私ならどうする?蘭君、私はどうしたらいいの・・。


「蘭君、ありがとうね!おやすみ」



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