インフルエンザ
理奈ちゃんがうちの学校にやって来て10日ほどが過ぎた。
あれ?なんか頭が痛いなあ・・。
「蘭、早く起きないと遅刻するわよ!」
「・・・」
「ん?・・蘭!遅刻!」
「僕起こしてくる」
そう言って俺の部屋にやって来たのは翼だ。
「蘭!早く起きなさいって!」
「・・・」
「蘭・・」
「翼、蘭は起きた!?」
「起きないよ!返事もしない」
「えっ?」
そして、母さんも俺の部屋にやって来た。
「蘭、どうかしたの?」
「・・頭が痛い~」
「あら!風邪かしらね。今、体温計持ってくるね」
「蘭、大丈夫?」
「ダメ・・」
「ほら、これで体温を測って」
俺は体温計を脇の下に恐る恐る差し込んだ。
「うっ冷たっ!」
『ピピピピ』
俺は無言でそれを母さんに渡した。
「げっ!38度もあるわ。今日は学校は休みだね・・」
「蘭は風邪かあ!」
「翼、お兄ちゃんに近づいたらダメよ!」
「うん」
「横山先生、佐藤蘭は今日風邪で休むらしい。今、親御さんからファックスが届いたよ」
「そうですか。インフルエンザかしらね・・」
「流行してるからな!他の生徒たちにも気を付けるよう言ってください」
「はい」
このところ登校はいつも理奈ちゃんと一緒だ。今日は俺が来ないから心配してるだろうか・・。
「おはよう」
「おはよう、あれ?蘭は一緒じゃないの?」
「うん、待ってても来なかったんだよね?!」
「どうしたんだろうね・・」瞳も心配そうな顔つき。
「今日は蘭が風邪でお休みです。38度の熱だそうで。この時期、インフルエンザがたいへん流行してますから、皆さんも予防はしっかりしてくださいね!このクラスも、今2人インフルエンザで休んでるけど、蘭も入れたら3人だわね」とミス横山。
「蘭がインフルエンザ!?見舞いにいってやらないとな」
「一也、見舞いはやめた方がいいんじゃない。一也までインフルエンザになったらたいへんよ」
「そうですね。まだはっきりインフルエンザとわかったわけではないけど、お見舞いは遠慮しておいた方がいいかな・・」
うー、寒い!それに喉も痛いし関節まで・・。熱はどんどん上がってる感じだし!あー、俺はいったいどうなってしまうんだ・・。
そして翌日。
「蘭、病院いってインフルエンザの検査をしてもらうよ!」
「やっぱりインフルエンザかな?」
「うん、熱が39度もあって、ちっとも下がらないからね」
「はあっ」
結局、結果はインフルエンザだった。
「やっぱり蘭はインフルエンザだったって。さっきお母さんから連絡があったわ」
「おー、かわいそうな蘭」
「一也、それ心こもってないぞ!」
「安藤さん、安藤さんは確か蘭と同じマンションよね!」
「はい!」
「悪いんだけどこれ届けてもらっていいかな」
「はい」
あー、何もやる気が起きないよ!喉が痛いからご飯もろくに食えないし。今ごろ理奈ちゃん、何してるかなあ?
「蘭、買い物いってくるけど、何か食べたいものある?」
「特にな~い」
「困ったなあ!とりあえず行ってくるね」
食べたいものさえ思いつかないよ・・。
『ピンポン』
「はい」
「こんにちわ、安藤です」
「はい」
翼は玄関のドアを開けた。
「こんにちわ、もしかして翼君?」
「そう。お姉さんは蘭の友達?」
「うん」
「どう?蘭君の様子は・・」
「布団で寝てるよ!」
「そっか!じゃあ翼君、これを蘭君に渡してくれるかな。お手紙なんだけど」
「あっ!ラブレターだ」
「えっ!・・うん、まあそんなとこかな」
「わかった!」
「それからこっちは学校から!じゃあお願いね!」
「はい」
「バイバイ」
「バイバイ」
「翼、誰か来たのか~」
「お姉さんがラブレターだって!」
「えっ!ラブレター・・」
俺は手紙を受け取った。
『蘭君へ』
「理奈ちゃんだ!お姉さんはどうした?翼」
「もう帰ったよ!」
「ええぇー・・」
理奈ちゃ~ん。
「ただいまー」
「お帰り、お母さん」
「蘭、ヨーグルトとフルーツゼリー買ってきたよ。翼の分もあるからね」
「蘭、ラブレターもらったんだ!お姉さんから」
「ラブレター?」
「うん、学校のお友だちだよ」
「あら、誰かしらね?」
「上の階のお姉さん!」
「あーあ、理奈ちゃんね!」
ドキドキ・ドキドキ!
理奈ちゃんからのラブレターだ!何が書いてあるんだろう・・?便箋が変わった折り方で、きれいに四角く折ってある。これは女子たちがよくやる折り方だ!
俺はゆっくりゆっくり手紙を開けた。
佐藤君へ
理奈ちゃんのきれいな文字が並ぶ。
昨日今日と、学校休みだったけどからだの具合はいかがですか?今日、佐藤君がインフルエンザだと、横山先生から聞きました。治るまでまだ何日かかかるね。佐藤君に会えないのはすごく寂しいけど、ゆっくり休んで早く元気になってね!
『△△△@□□□・・・』
私のアドレスです。
気が向いたら連絡ください。
理奈。
うひー!
俺は早速スマホにアドレスを追加した!
名前なんてしようかなあ・・安藤OR理奈ちゃんOR 理奈。ん?・・よし決めた!・・保存。
俺はヨーグルトを食べていた。
「蘭、お姉さんのラブレター、なんて書いてあったの?」マスク姿の翼だ。
「なんだっていいだろう!それより部屋に入るなよ。インフルエンザがうつるから」
「ちぇ!教えてくれたっていいじゃん」
「ガキには早すぎるよ」
「僕だってラブレターもらったことあるよ!美雨ちゃんに」
「えっ!」
翼のやついつの間に・・。
「ただいま」
「お帰りなさい」
「蘭の様子はどうだ?」
「まだ熱が下がらないわ」
「明日、明後日は土日で学校は休みだけど、月曜もダメそうかな」
「うん、クラスの子にうつっちゃったら大変だから!」
「そうだな。翼は大丈夫か?」
「僕は元気だよ!マスクもちゃんとしてるしね」
「なら良かった」
「お父さん、理奈ちゃんって知ってる?」
「理奈ちゃん?誰だ・・」
「上の階のお姉さんだよ」
「ああ、蘭と同じクラスの!」
「蘭、ラブレターもらったんだよ!お姉さんから」
「ラブレター?」
「私の留守の間、訪ねて来てくれたみたいなのよ。学校のプリントを持ってね。その時に手紙もあったんだって!」
「ふーん、蘭もなかなかやるじゃないか!」
「お母さんはすごくきれいな女性だから、理奈ちゃんもきっと美人よ!」
「うん、すごくきれいだったよ!」
「そうか・・」
ん?・・いざメールをしようと思っても、なかなか言葉が出てこないなあ・・。
俺も理奈ちゃんに会えなくて寂しいです?
早く理奈ちゃんに会いたいです?
手紙読んだよ、ありがとう?
ダメだ!とても恥ずかしくて書けないよ・・。
仕方ない!
「翼、翼!」
「何?」
「ちょっとだけ俺の隣に来て!」
「ん?」
「いいから早く!」
「インフルエンザがうつっちゃうよ!」
「少しだけなら大丈夫さ」
「うん」
「いくぞ!はいチーズ」
カメラにはマスク姿の俺と翼!
この写真に吹き出しを付けて・・。
『元気です!』
理奈・・送信!
届いたかなあ!