光陰矢のごとし
今、卒業式が終った。10日後には私たちも終業式。それが終わればお父さんに会える!嬉しい、すごく嬉しいけど、お父さん、北海道に帰るなんて言わないでね?!・・。
厳かな雰囲気の卒業式。いつもはしゃいでいる先輩たちも、真剣な眼差しだ!
卒業証書を受けとる姿を見ていると、その緊張がこっちにまでつたわってくる。
「理奈、こっちまで緊張しちゃうね」
「うん」
やっぱり瞳もか!
瞳と私は声をひそめていた。
そう、明日から先輩たちはいないんだよな。校舎にも校庭にも、そして部活の時も・・私はふとそんなことを思っていた。
そして 『旅立ちの日に』の合唱。ジーンとしちゃうよ!
いよいよ卒業生の退場だ。
すました顔、笑ってる顔、涙でぐちゃぐちゃの顔・・1年後の私は、いったいどんな顔をしてるかな。
「卒業式かあ・・」
「卒業式よねー・・」
「どうしたんだ二人とも?」と蘭君。
「うん、なんか変だぞお前たち!」
「人生の門出について考えてるのよ!理奈も私も。男子にはわからないわよねー、この感じ。ねっ理奈」
「そうかもね・・」
「なんだよ理奈ちゃんまで」
「毎日をのほほんと生きる一也には、理解不能ってことさ!」
「おい蘭!じゃあお前はわかるのか?」
「もちろん!女心と秋の空ってね・・」
「はあっ?」
蘭君、それ全然違うよ!
「理奈、さすがに今日は部活お休みでしょ!」
「うん!」
「ホットケーキでも食べない!?」
「えっ!制服のままで?」
見つかったら大目玉よ。
「平気平気!」
「うん」ホントに?
「じゃあ俺たちも、お言葉に甘えて!蘭も行くだろう」
「ああ」
お店に向かいながら、私は蘭君に聞いた。
「蘭君、ホントに大丈夫なの?このままの格好で」
「ああ、大丈夫」
「んん?なんか心配だなあ・・」
そしてお店に到着。瞳はなんの躊躇もなく扉を開けた。
「ただいまー!」
「えっ?ただいま・・」
今、ただいまって言ったよね!?
「ここ、瞳のお母さんのお店!」
「・・そういうことか」
知らなかったなあ・・。これなら制服のままでも大丈夫よね。
「こんにちは」
「こんにちは、おばさん!」
「いらっしゃい!」
「お母さん、理奈だよ」
「はじめまして。安藤理奈です」
「こんにちは!瞳の言う通りキレイなお嬢さんね」
「いえ」
瞳のお母さんもすごく素敵な女性だわ。それに、顔が瞳にそっくり!
「そこの角のテーブルにどうぞ。今ホットケーキ焼くからね!食べるでしょう・・」
「うん、おばさん、俺のは特大でお願いします!」
「はいはい!」
「瞳のお母さん、お店やってたんだ!」
「ただの雇われだけどね!」
「ふーん、すごいね」
「すごくないすごくない!」
やっぱりすごいよ!
「理奈ちゃん、おばさんの特製ホットケーキは最高にうまいよ!」
「そうなんだあ!」すごく楽しみ。
「あら、蘭君ほめてくれるの!?」
「ホントのことだから!」
「お世辞でも嬉しいわ!・・瞳、好きな飲み物をみんなにあげてね」
「はーい・・」
お店の中にホットケーキのいいにおいが漂ってきた!急にお腹も空いてきたな。
「はい!お待たせ」
「うー、うまそうー!」
「うん、おいしそう!」
真ん丸なそのホットケーキのあじは・・
「美味しい!!」
「うまいなあ!」
「最高だね!」
「うちのお母さんの唯一誇れるものね!」
「あら瞳、唯一だなんて。ピラフだって天下一品よ!」
「おばさーん、じゃあ今度来たときはピラフでお願いします」
「はいはい、いつでもおいで!」
「やったー!」
「それで、卒業式はどうだったの?」
「うん、なかなかよかったよ」
「あなたたちも来年は卒業だね!中学。1年なんてあっという間よ」
「そうかもね!」
「『旅立ちの日に』・・よかったよね」
私の素直な感想!
「理奈ちゃん、それなあに?」
「卒業ソングです!」
「ふーん。最近は『仰げばとうとし』なんて歌わないんだね」
「あっ!それ歌いましたよ。小学校の卒業式で」
「理奈ちゃん、確か北海道だったわよね!」
「はい」
「やっぱり私なんかは『仰げばとうとし』だなあ。卒業のうたは・・」
「時代だね!お母さん」
「あなたたちの小学校は何だったっけ?」
「『栄光の架け橋』」
「あー、そうそう!・・でも時代はめぐるっていうから、また歌われるようになるのかもよ『仰げばとうとし』」
「そうですよね」と理奈ちゃん。
「♪仰げば~とうとし我が師の恩・・」
「やだお母さん、歌わないでよー」
「いいじゃないよー・・」
「フフフッ」
思い出すなあ!2年前を・・。そうか、あれからもう2年もたつんだよね。瞳のお母さんの言うように、私たちが卒業するときまでなんてあっという間なのかも。
「じゃあね理奈ちゃん」
「じゃあね蘭君」
私は蘭君と別れ家に戻った。
「瞳ちゃんのお母さんがね・・」
「とっても美味しかったよ!ホットケーキ」
「そう!お母さんも今度行ってみようかな」
「うん!」
「お母さんの中学の時って、卒業の歌は何を歌ったの?」
「中学は・・あっそうだ!その頃流行ってた『卒業』って歌だった」
「『卒業』・・どんな感じの歌なの?」
「♪ララララララ・ララララララ・・こんな感じの!」
「ふーん!」
その夜、私は蘭君にメールした。
「うちのお母さんの卒業ソング『卒業』って歌だって!」
「ホント!内の母さんもだよ」
「歳が一緒だもんね!」
「うん!」
『卒業』・・今度聴いてみようかな!
あっという間かあ・・光陰矢のごとし!だったかな。
そういえば蘭君、今日変なこと言ってたっけ!・・女心と秋の空とかなんとか。
私の蘭君に対する想い、決してそんなことはないからね!
先輩たち、卒業おめでとうございます・・。