卒業ソング
「行ってきまーす!」
「はい、頑張ってねー!」
「母さん、何を頑張るのさ?」
「えっ?今日卒業式でしょ」
「そうだけど・・」
「だから頑張って卒業生を送ってきてって」
「・・うん・・?」
俺が頑張ってもしょうがないよな。
そして卒業式も無事終わり・・。
「卒業式かあ・・」
「卒業式よねー・・」
物思いにふける・・そんな感じの女性陣。
「どうしたんだ二人とも?」
「うん、なんか変だぞお前たち!」
「人生の門出について考えてるのよ!理奈も私も。男子にはわからないわよねー、この感じ。ねっ理奈」
「そうかもね・・」この気持ち?
「なんだよ理奈ちゃんまで」
「毎日をのほほんと生きる一也には、理解不能ってことさ!」
まあ、俺もだけど。
「おい蘭!じゃあお前はわかるのか?」
「もちろん!女心と秋の空ってね・・」
「はあっ?」
ちょっと違うか。
「理奈、さすがに今日は部活お休みでしょ!」
「うん!」
「ホットケーキでも食べない!?」
「えっ!制服のままで?」
「平気平気!」
「うん」
「じゃあ俺たちも、お言葉に甘えて!蘭も行くだろう」
「ああ」
そして俺たちは喫茶店に向かった。
「蘭君、ホントに大丈夫なの?このままの格好で」
「ああ、大丈夫」
「んん?なんか心配だなあ・・」
心配いらないよ理奈ちゃん。
やがて店に着くと瞳は扉を開けた。
「ただいまー!」
「えっ?ただいま・・」
「ここ、瞳のお母さんのお店!」
「・・そういうことか」そういうこと!
「こんにちは」
「こんにちは、おばさん!」
「いらっしゃい!」
「お母さん、理奈だよ」
「はじめまして。安藤理奈です」
「こんにちは!瞳の言う通りキレイなお嬢さんね」
「いえ・・」
「そこの角のテーブルにどうぞ。今ホットケーキ焼くからね!食べるでしょう・・」
「うん、おばさん、俺のは特大でお願いします!」
「はいはい!」
「瞳のお母さん、お店やってたんだ!」
「ただの雇われだけどね!」
「ふーん、すごいね」
「すごくないすごくない!」
「理奈ちゃん、おばさんの特製ホットケーキは最高にうまいよ!」
「そうなんだあ!」
「あら、蘭君ほめてくれるの!?」
「ホントのことだから!」
「お世辞でも嬉しいわ!・・瞳、好きな飲み物をみんなにあげてね」
「はーい・・」
お店の中にホットケーキのいいにおいが漂ってきた!
「はい!お待たせ」
「うー、うまそうー!」
「うん、おいしそう!」
4人はほぼ同時にホットケーキを口の中に・・。
「美味しい!!」
「うまいなあ!」
「最高だね!」
「うちのお母さんの唯一誇れるものね!」
「あら瞳、唯一だなんて。ピラフだって天下一品よ!」
「おばさーん、じゃあ今度来たときはピラフでお願いします」
「はいはい、いつでもおいで!」
「やったー!」
一也のやつ調子にのって・・。
でもその時は俺も絶対食べる!
「それで、卒業式はどうだったの?」
「うん、なかなかよかったよ」
確かに。泣いてる卒業生もいたもんな。
「あなたたちも来年は卒業だね!中学。1年なんてあっという間よ」
「そうかもね!」
「『旅立ちの日に』・・よかったよね」
「理奈ちゃん、それなあに?」
「卒業ソングです!」
「ふーん。最近は『仰げばとうとし』なんて歌わないんだね」
「あっ!それ歌いましたよ。小学校の卒業式で」
「理奈ちゃん、確か北海道だったわよね!」
「はい」
「やっぱり私なんかは『仰げばとうとし』だなあ。卒業のうたは・・」
「時代だね!お母さん」
「あなたたちの小学校は何だったっけ?」
「『栄光の架け橋』」
「あー、そうそう!・・でも時代はめぐるっていうから、また歌われるようになるのかもよ『仰げばとうとし』」
「そうですよね」と理奈ちゃん。
「♪仰げば~とうとし我が師の恩・・」
「やだお母さん、歌わないでよー」
「いいじゃないよー・・」
「フフフッ」
家に着くと・・。
「あら、瞳ちゃんのところで!」
「ああ、4人でね!」
「あそこのホットケーキ、美味しいのよねー。ちょっと昔風の感じでさ」
「母さんの卒業ソングは何だった?」
「何よ突然?」
「卒業式に歌った歌だよ」
「母さんは・・『卒業』って歌」
「そのまんまじゃん!」
「当時すごく流行ってたのよ!」
「ふーん」
あと1年で卒業・・まだピントこないな。その時は何のうたを歌うことになるのかな?
それより、理奈ちゃんと一緒に卒業出来るよね・・。