シーザー
「おはよう理奈ちゃん」
「おはよう蘭君」
俺は、夢で見たことは理奈ちゃんには話さないでいた。話すと、それが現実になってしまうような気がして・・。
「お父さん、春休みに来てくれるって!」
「そう!よかったね理奈ちゃん」
「うん。それで沖縄行ったらお父さんにもお土産を買おうと思うんだけど、蘭君に選ぶの手伝って欲しいな」
「そんなのお安いご用だよ!」
「ありがとう!私絶対迷っちゃうと思うのよね、選ぶとき・・」
「うん、わかった」
こうして理奈ちゃんと楽しく会話ができる。悪い方に考えるのはもうやめにする!
「おはよう蘭、理奈ちゃん」
「おはよう」
一也のやつ、またパンフレット持ってきてるよ!こりないやつだな。
「一也、修学旅行の行程はもう決まってるんだから、そんなもの見てもしょうがないだろう!」
「あれ蘭、知らないのか?二日目に自由時間があるの」
「自由時間?」
「ああ」
「なるほどねー・・」
それにしたって、そんなもの必要ないだろう。
そして修学旅行当日。
あれは持ったし、あれも入れたし・・。
「蘭、準備できたー!?」
「出来た出来た!」
「じゃあ早く食べなさい!たまごかけご飯」
「はいはい。あれ?野菜ジュースは・・」
「今日はなーし!かわりにお味噌汁飲んで」
買い忘れか・・。
今日はいつもより約30分早く家を出る。
「じゃあ行ってくるね!」
「いっぱい楽しんでおいで!」
「蘭、お土産を忘れるなよ」
「わかってるよ!じゃあね」
途中で一也と瞳に合流。一旦学校に集まり、バスで空港に。
「うわーデカ!」
「一也、飛行機乗るの初めてだっけ?」
「うん、今からワクワク」
「蘭は?」
「俺も初めてだ!」
「瞳も初めてで、理奈ちゃんは?」
「私は北海道からこっちに来るときに一度」
「あっそうだよな」
「耳がツーンとしたのおぼえてるな!」
「気圧の関係ね!そういうときは、唾を飲み込むと治るのよ」
「うん、確かそうだった!」
「瞳、詳しいじゃんか」
「常識よ・・」
「一也、飛行機って何でできてるんだ?」
「そりゃあ鉄とかの金属だろう!」
「鉄かあ・・あんなでかい鉄の塊が、なんで空を飛べるんだろうな?」
「蘭君、もしかして怖いの?飛行機」
「うっ!・・そんなことないけど、ただ疑問に思っただけさ」
「飛行機が苦手な人って、そんなことばかり考えてるからダメなんだって!」
「蘭は意外と臆病なのよね!」うるさい!瞳。
「フフフッ、そうなの蘭君・・」
「そんなことは・・ない・・さ」
そしていよいよ飛行機へ・・。
残念なことに、席は4人ともバラバラだ。
俺は席に座るなり、素早くシートベルトを締めた。カチャ!
飛行機はゆっくりと動き出した。
ドキッ、ドキッ、ドキッ・・。鼓動が聞こえる。
そしてあり得ないほどの加速感が、たちまち俺の体を支配した!うーッ。
やがて体が浮き上がる感覚とともに後ろに傾いた!
ドキッ、ドキッ、ドキッ・・。
隣の席が理奈ちゃんだったら、俺は間違いなく手をぎゅっと握ってただろう!しかし、隣にいるのは知らない男性。手を握るわけにはいかず・・。
空に上がると耳がツーン!
唾を飲み込む・・くそ!ちっとも治らないじゃんか。
約2時間の空の旅。俺はほとんど、前のひとの後頭部を、ただひたすらにらんだままでいた・・。
もう絶対に飛行機は乗らない!俺はそう心に誓った。が、それは無理だということをすぐに悟った。あー・・。
飛行機を降りると、私は蘭君のところに駆け寄った。
「蘭君!」あれ?返事がない。
蘭君は遠く前を見つめ、隣の私のことにちっとも気づいていない。
蘭君の飛行機嫌いってホントだったんだ!
「蘭君」私はポンと肩をたたいた。
「あっ!理奈ちゃん」
蘭君、表情が死んじゃってるよ。
「大丈夫?」
「ああ」
私が隣にいたら、ずっと手を握ってあげれたのに・・。
そして私たちは那覇空港に到着した!
ヤッホー!
首里城に守礼門、美ら海水族館におきなわワールド、玉泉洞 。タコライスに沖縄そば。万座毛にコバルトブルーの素敵な海・・。
俺たちは琉球の旅を満喫した!
「何がいいかなあ?蘭君」
「ん・・やっぱ食べ物より後々残るものがいいよ!」
「そうね!記念になるものね・・あっ、これかわいい」
「ホントだ!」
理奈ちゃんがかわいいと手に取ったのは、サイコロよりも一回り大きいシーザー。
「でも、これお父さん喜ぶかなあ?」
「ん・・微妙だね」
「理奈ちゃん、これなんてどうかな?」
「キーホルダー?」
「うん。お守りになってるよ!」
「あっ!それいいかも」
「蘭、お土産物決まったか?」
「まだだけど。一也、お前もうそんなに買ったのか!しかも食べるものばっかり」
「これが一番いいんだよ!」
そんなもんかねー・・。
「あれ?理奈は」と瞳。
「ん?」
理奈ちゃん、どこいったんだ?
俺は母さんと翼のお土産物を選んでいた。
「あっ、蘭君、ゴメンゴメン」
「理奈ちゃん・・」
「お父さんのお土産物、蘭君が選んでくれたものにしたわ!」それにもうひとつね!
「うん、きっと喜ぶよ!」
「お母さんにはこれ!」
「あっ!綺麗だね」
「星の砂よ!蘭君のお母さんもこれがいいんじゃないかな」
「うん、それにする!」
なんでも理奈ちゃんの言う通り・・。
「蘭、理奈、そろそろ時間だよ!」
「わかったあー!」
それから俺と理奈ちゃんは、おそろいのクッキーを買ってと・・。
でかい風呂にゆったりつかり・・たまに泳いで・・気分はリラックス。
二泊三日の沖縄旅行ももうすぐおしまいだ。なんだかあっという間!
「蘭君!はいこれ」
「なに?」
「私と同じもの!後で開けてみて」
「うん」
私は帰りの空港で、蘭君にあるものを手渡した。私と同じものを、蘭君にも持ってて欲しいから・・。
楽しい修学旅行も終わり。沢山の思い出が出来たなあ!
さあ、また飛行機で空の旅だ!蘭君大丈夫かなあ?
俺は飛行機の座席に腰掛けて、理奈ちゃんからもらった箱を開けてみた。
「あっ!シーザー」
俺は立ち上がり、後ろのちょっと離れた席の理奈ちゃんを見つめた。理奈ちゃんも、俺に気づいてくれたらしく笑顔!
「シーザー、ありがとう!」
俺はくちびるだけ動かしてそう言った。