お願い決めて!
蘭君も外階段を使って1階に下りるに違いない。
「行ってきまーす!」
昨日と同じ時刻に私は家を出た。昨日は私の方が少し早かったんだよな。私は階段を下りながら考えていた。蘭君が来るのを待ってみようかな・・でもなんだか恥ずかしい。
そんなことを思いながら出した結論は、1分間だけ蘭君を待つというものだった!
私は2階まで下りると、手すりにお腹をくっつけるような格好で表をぼんやり眺めていた。
1、2、3・・・58、59、60!やっぱり来なかったか。別に不思議でもなんでもないよな!家を出る時間が5分や10分前後しても・・。
私は少しため息をつき、階段を下りた。
道をゆっくり歩く私。その時、蘭君は私の後からやって来る!そんな気がした。そして
「安藤さん」
それはすごく小さな声だった。
「佐藤君」
振り向くと、蘭君がこにらに向かって走り出した。
「おはよう」
「おはよう」
昨日と同じ、爽やかな笑顔の蘭君だ!吐く息は真っ白。
「昨日さ、帰ってから検索してみたんだ。コンドルは飛んで行く」
「えっ?!」
「サイモンとガーファンクルって人たちが歌ってるんだよね!」
「うん・・」
私も『蘭』を検索したなんて口がさけても言えない!
「俺、先に行くね!」
校門まで一緒に来たところで、蘭君は走って校舎に入ってしまった。やっぱり教室まで一緒だとさすがにまずいか・・。
私は教室にはまっすぐ行かず、職員室に立ち寄った。頼んでいた制服が届いているはずだったからだ。
「おはよう」
「理奈、おはよう」
私は席に着いた。そこに和久井君がやって来た。
「やっぱり怪しい」
「何がだよ」
「二人ともなんで挨拶しないんだ?!今日初めて会ったんなら『おはよう』ぐらい言うだろう普通」
えっ!そんなところまで監察してるの?!
そこに瞳が登場!
ちょっとしつこい和久井君を、あっという間に追い払ってくれた。ありがとう瞳。
私は箱のふたを開け、新しい制服を覗いてみた。
新しい制服かあ!これで私も正式に○○中の一員ってことかな。でもこの制服には思い出もあるし、デザインもなかなかオシャレだし、捨てちゃうのはもったいないよな。かといって、とっておいてももう着ることはないかあ・・。
「制服届いたんだ!」
「うん、明日からこれで登校するわ」
「今までの制服はどうするの?」
蘭君、そんなこと聞いてどうするの?
「捨てちゃうのはもったいないし、しばらくはとっておくかな。でもどうして?」
まさか、この制服が欲しいとか・・?さすがにそれはないか。
「いや、別に意味はないけど・・」
でも蘭君ならあげてもいいかな!大切にしてくれそうだもん。なんてね・・。
そして部活。
あっ!蘭君頑張って走ってるな。
「基礎練が終わったら、男女混合でミニゲームをやります」
「えー!」
ん?男女混合のミニゲーム・・。ということは蘭君と一緒だ!
「普段はおしとやかな私たちも試合は別よ!」
「はい!」
「集合!ではチーム分けをします」
あっ!蘭君がこっちを見てる。こんなとき、どんなふうに合図を送ればいいのかな?
そして私は蘭君に向かってウインクをした!気づいたかな蘭君・・。
どうか蘭君と同じチームになれますように!
そしてチーム分けの名前が呼ばれていく・・。
「・・佐藤・・安藤。今呼ばれた者がAチーム。それ以外の者はBチーム」
やったあー!蘭君と同じチームだ。
ポジションは蘭君がFW、私はMF!
私はそっと蘭君に近づきささやいた。
「パス、出すからね」
『ピー』
男子、気合い入ってるなあ!でも、やる気が全部空回りしちゃってるみたい。女子には全然ボールが回ってこない。私がボールに触れたのは、ワンタッチの1回だけ。
もっとパスを回して攻めて行かないと、得点は望めない。サッカーはチームプレーよ!
前半が終わって0対2でBチームのリード。
「こらー!男子、張り切るのは結構だが、ひとりひとりが勝手なことばかりしていてもダメだ。打開策を自分たちで考えて、後半のプレーで見せてくれ」
その時、蘭君が思いがけない発言をした!
「安藤さんにボールを集めよう!ドリブルの突破力、ボールのキープ力とも男子に負けてない」
「そうね、理奈ならいけるわ!彼女を起点にゲームを組み立てましょう」
「わかった!」
ありがとう蘭君!
『ピー』
蘭君がせっかくあんなふうに言ってくれたんだ。気合いを入れて行くわよ!
ボールが私のところにも回ってくるようになった。このボール、なんとしても蘭君に届けないと・・。
私は夢中でドリブルをしかけ、そして視界に蘭君が!
「蘭君!」
私は思わずそう叫び、ボールを蘭君めがけて思いきり蹴飛ばした。お願い決めて!
蘭君は私のパスを見事に受け止め、思いきり左足を振り抜いた。キーパーも一歩も動けない!そして、ボールは激しくゴールネットを揺らした。
「やったあー!」私は大きな声で叫んでいた。
蘭君と私はハイタッチ!・・初めて蘭君に触れた瞬間。
そのあとも、蘭君のシュートは輝きを放っていた!
見事ハットトリック達成!やったね蘭君。
そして試合はAチームの逆転勝利!
「やったなあ蘭!」
「99パーセントは安藤さんのおかげたけどな」
「ハァハハ・・」
「そんなことないです!佐藤君のシュート完璧でした!」
「安藤さんが言うんじゃ、そういうことにしておくか!」
本当に蘭君の実力だよ!
『皆さん下校の時間です・・・』
あっ、放送が始まっちゃった。急がないと・・。
「佐藤君!ごめん遅くなっちゃった」
「さあ、帰ろうか」
『♪♪♪♪・・・・』
「あっ!同じ曲だ」
「うん!放送部の人たちもこの曲が気に入ってるんだな!」
「そうみたいね・・」
流れてきた曲は、私の好きなコンドルは飛んで行くだった。