ダッシュで帰るぞ
いよいよその日が来てしまった。期末テストだ!
「蘭君、いよいよだね!」
「俺、今回はちょっと自信あるんだよな」
「すごいね!」
「一応ね・・」
「私はこっちに来て初めてのテストだから少し不安だな」
「そっかあ・・でも理奈ちゃんなら心配ないよ!」
「どうして?」
「隣には俺がいるんだからさ!・・」・・ややカッコつけ過ぎたか!?
「でも、今日は出席簿順に並ぶんでしょ?!」
「うん!それでも心配ないよ」
俺は出席番号7番、理奈ちゃんは女子の1番。机は6列。だから必然的に隣同士なんだ!
「おはよう!」
「おはよう!」
俺と理奈ちゃんは、一番前の席に並んで座った。
「お前らいつも隣同士だな!」
「安藤と佐藤だかね!」
「なんだそれ・・?」
「一也の答案を覗きたいところだけど、この距離じゃあ無理だな!」
一也の席は、俺と対角線上の一番端っこだ!
「蘭君、カンニングはダメよ」
「もちろん冗談だよ・・それより、瞳はまだ来てないのか?」
「そうなんだよ。あいついつも来るの早いんだけどな」
「何かあったのかな?」
「もうすぐ朝のHR 始まっちゃうぜ・・」
「心配ね・・」
そんな瞳、心配をして損をした!HR 開始1分前、ミセス横山とほぼ同時に教室に滑り込んできた。大分息が切れている。
「田村さん、もう少し余裕をもって家を出るようにね」
「すみませーん!」
俺はかるく後ろを振り返り、瞳の様子をうかがった。すると両手を小さく広げて『セーフ』のポーズ。とりあえずなんでもなさそうだな・・。
HR が終わり10分間の休憩。
「ふうー、マジ遅刻するかと思ったわ!」
「いったいどうしたんだ?」
「コンパス」
「コンパス?」
「コンパスを忘れたんじゃないかと不安になってさ、筆入れをみたのよ。そしたら、やっぱり入ってなくてさ。慌てて取りに帰ったの!」
「コンパス使うの?」
「なに言ってるのよ蘭、今日は期末なんだから図形の問題が出るでしょう!」
「えっ!」
「蘭君持ってきてないの?」
「うん」
「この能天気が!」と瞳の一言。
「私が貸してあげるわよ」と優しい理奈ちゃん。
「ホント!」
「初めに先生に断っておけば大丈夫よ!」
「あーよかったあー!」
なんやかんやで期末一日目が終了した。あと二日だ!
「おい蘭!今日はお前の家で勉強会やらないか」
「はあ?」
「はあじゃないよ!勉強会。どうだ瞳?」
「うん、賛成!」
「理奈ちゃんは?」
「えっ!・・うん」
「よし、昼飯食ったらすぐ行くからさ!」
「ん・・ああ、わかった」
なんか嫌~な予感!
「じゃあ蘭君、あとでね」
「うん」
「ただいまー!」
あっそうか、誰もいないんだっけ。
母さんはまだ仕事から戻っていない。テーブルにはチャーハンがラップしてある。翼もまだだよなあ・・。
やっぱ誰もいないと淋しいもんだよね。
すると理奈ちゃんからメールが届いた。
「蘭君ひとり?」
「うん」
「お昼ご飯は?」
「チャーハンがある」
「よかったら家で一緒に食べない!?私もひとりだから」
そっか、理奈ちゃんもひとりなんだ・・。
「わかった!じゃあ、今から行くね!」
「はい」
俺はチンしたチャーハンとスプーンを持って、外階段を上がった。
ピンポン
「はーい」
「あっ、俺だけど・・」
「いらっしゃい!さあ、上がって!」
「うん、お邪魔します」
「わー!美味しそうなチャーハンだね」
「うん・・あれ?!」
「実は私もチャーハンなんだ!」
「そうなんだ!理奈ちゃんのもメチャ美味しそう」
「ねー、半分っこしない!」
「OK!」
さて、理奈ちゃんチャーハンの味は・・。
「うまい!!ケチャップ味だ」
「うん、私がケチャップ大好きだから!」
「蘭君のもいただくね・・」
「どう?」
「うん、すごく美味しい!!すごく香ばしい感じで」
「仕上げに醤油をたらすのが秘訣なんだって!母さんが」
「なるほど・・それでか」
同じチャーハンでも、それぞれのお袋の味があるんだね!
やっぱりひとりより二人で食べるご飯は、何倍も美味しいよね!チャーハン最高!
「じゃあ、俺先に戻ってるね」
「わかった。私もすぐに行くね!」
しばらくすると玄関のチャイムが鳴った。
ピンポン
ドアを開けると、既に3人が揃っていた。
「お邪魔します」
「まだ誰もいからさ・・」
「そっか・・」
「今日はなにもないぞ!おやつ」
「コンビニで何か買ってくればよかったな!蘭、俺たちで買ってこようか!」
「そうだな」
「じゃあ、ちょっと行ってくるな!」
「うん、お願い!」
そんなことで、俺と一也はコンビニに向かった。7~8分ほど歩くとコンビニだ。
その時、俺の頭に嫌~な光景が広がってきた!
「あっ!」
「ん?どうした蘭」
あの二人に俺の部屋を見られたら非常にヤバイ!机、ベッド、本棚、タンスの置いてある位置が、理奈ちゃんの部屋とそっくりなんだ!気付かれる。完璧に気付かれる・・・!
「いや、なんでもない。早くお菓子買って帰ろうぜ!」
「ああ」
ホントはそれどころじゃないんだよ!一也。
コンビニに入ると、俺はぱっぱっと適当につかみ、かごに放り込んだ。もう何でもいい!早く、早く家に帰らないと・・。
こんなときに限って一也のやつ、あーでもない、こーでもないとなかなか買うものが決まらない!あーもー・・イライラ・イライラ・・。
やっと買うものが決まり、レジでお金を払って・・。
「一也、ダッシュで帰るぞ!」
「えっ?」
俺は一也の返事も聞かず走り出していた。
俺の部屋だもんな!本人がいないときに勝手になんか入らないはずだ。瞳が入ろうとしても、理奈ちゃんが止めてくれるはず!うん、きっとそうだ・・。俺はそんなかすかな望みをもって走り続けた。
外階段を一気に上り、俺は家のドアを開けた!
呼吸の乱れをぐっとこらえて、極めて冷静に家の奥に進むと、リビングの椅子に二人の姿はあった。
後ろから来た一也の呼吸は、激しく乱れている。
「あっ、ありがとう」
「一也、何であんただけ、そんなにハアーハアーいってるの?」
「ダッシュした!」
「えっ?」
見たのか?見てないのか?・・判断がつかない。
とその時
「クスクスッ・・」
瞳の顔がにやけた!
そこで俺はすべてを悟ってしまったのだ。それでも一応、俺は瞳に聞いた。
「見た?」
「・・うん」
「理奈ちゃんは?」
「・・うん」
俺の顔は激しく燃え上がった!
それから俺たちは、お菓子を食べながら勉強をした。もちろん、俺の頭には何も入ってこない・・。
「あーあ、そろそろ終わりにしましょうか!」
「そうだな!」
「今日はいいものも見れたことだし・・」
「ん?なんだよいいものって」
「いいものは、いいものよ!」
「なんだよ瞳、教えてくれよ」
「だーめ!」
「フフフッ」
そして3人は玄関の方へ向かった。
「じゃあ、明日な蘭」
「ああ」
「じゃあね蘭」
そして理奈ちゃん。
「階段まで行くよ」
「うん、ありがとう」
「あのさ・・」
「なんか、嬉しいよ蘭君!」
「えっ?」
「じゃあね・・メールするね」
「うん」
理奈ちゃん・・。
そして
ブーブー
「蘭君、まだ起きてる?」
「起きてるよ」
「ベッドの上?」
「そう」
「じゃあ、私の真下に蘭君いるんだね!」
「そうなるかな・・」
「明日もテスト頑張ろうね」
「うん」
「おやすみ」
「おやすみ」
俺はしばらくの間天井を見ていた!
理奈ちゃん、おやすみ。