いつも通り
「おはよう・・ん?珍しいね、母さんが朝から新聞を見るなんて」
「会社に行く前に父さんが見てたんだけど、シベリア鉄道がどうしたとか言ってたからね。なんのことかと思ってさ・・」
「シベリア鉄道!?」
「20年くらい前にシベリア鉄道で脱線事故があったんだけど、それが列車に重大な設計ミスがあったのが原因だって!」
「列車の設計・・」
「うん、でその会社がね、その事実をずっと隠してたんだってさ」
「理奈ちゃんのお父さん・・」
「ん?理奈ちゃんのお父さんがどうかしたの?」
「列車の設計の仕事ををしてるって!理奈ちゃんから聞いたことあるよ」
「えっ!」
「でも、そこが理奈ちゃんのお父さんの会社とは限らないよね」
「そうね・・」
「じゃあ、行ってきまーす」
「あっ蘭、この事は理奈ちゃんには・・」
「わかってる!俺からはこの話しはしないよ」
「うん」
「おはよう理奈ちゃん」
「おはよう」
「あれ?なんか元気ない?」
理奈ちゃんの表情がやや曇りがちだ。
「そんなことないんだけど、ちょっとお母さんが気になって・・」
「どんなふうに?」
「怖い顔で新聞を見てるし、私が聞いてもなんだか上の空だし・・ちょっと様子が変だったんだ」
「そう」
新聞!間違いない。あのシベリア鉄道の記事だ。やっぱり、理奈ちゃんのお父さんが勤めてる会社なのか?!
「私の勘違いならいいんだけど・・」
理奈ちゃんはまだ新聞の記事の内容は知らないみたいだ。でも、テレビのニュースでもやるだろうから、理奈ちゃんが知るのも時間の問題だな・・。
明日はサッカーの試合だ。理奈ちゃん大丈夫かな・・。
「蘭、そういえばシューズの紐はちゃんと通せたの?」
「えっ!」
なんで今ごろそんな話を。母さんが買ってきてくれた白の紐は、まだ鞄の中だ!
「あなた紐通すの苦手だからさ」
「ああ、大分だよ。ちゃんと出来たから」
「そう」
「明日早いからもう寝るね、お休み」
フウッ!
ブーブー・・あっ!理奈ちゃん。
「なかなか眠れないなあ。蘭君はもう寝ちゃった?」
理奈ちゃん、ニュースで見たんだろうな!お父さんの会社のこと。心配で眠れないんだろうか・・。
「まだ寝てないよ。明日の試合のことで眠れないの?それとも他に心配なことでもある?」
「うん・・お父さんのことでちょっと」
やっぱりそうか!
「北海道にいるんだよね。会いたくてもそう簡単に会える距離じゃないもんね・・」
「うん、でもきっと大丈夫。ゴメンね!遅い時間に。明日の試合頑張ろうね。お休み」
「じゃあ明日!お休み」
俺はベッドに寝転がり、天井を見つめていた。
ちょっと心配だなあ理奈ちゃん。なんとか力になってあげたいけど・・。
「おはよう」
「おはよう、忘れ物ないようにしなさいよ」
「母さん、やっぱり理奈ちゃんのお父さんの会社だったみたいなんだ!」
「昨日の新聞のこと?」
「うん、はっきりとは聞いてないんだけど、理奈ちゃん、お父さんのことが心配だって言ってたからさ」
「そう」
「落ち込んでないといいけど・・」
「うん・・そんな時こそ蘭、男の子が元気付けてあげるのよ!」
「そうだけど、どうやって・・」
「ずっと側にいてあげるの!そしていつも通りにしていればいいのよ」
「それだけでいいの?」
「いつも通りがいいのよ!瞳ちゃんも一也君もいるんでしょ」
「そうだな!いつも通りで行くかあ・・」
「ついでにシュートの一本でもプレゼントしてあげなさい!」
「うん!じゃあ行ってくるね」