お父さん
半年前・・。
「安藤、ちょっといいか!」
「はい」
「君の親父さんのことなんだが・・」
「親父ですか?」
「ああ。先日モスクワ本社の施設移転にあたって、資料室や倉庫を整理していたそうなんだが、そこに君の親父さんが綴ったと思われるあるノートが出てきたそうなんだ」
「はあ」
「1994年と言うからちょうど20年前だ。そこに内部告発ともとれる文面が残されていた。本社と北海道支社との間で10億の巨額な金が動いている。もちろん帳簿には載らない裏金だ!」
「裏金!」
「ノートにはこれに関わったとされる当時の役員や幹部の名前、その手口が詳細に記されている。お前の親父さんは、この情報を何だかのかたちで入手した」
「まさか親父もその裏取引に関係してたんじゃ!?」
「それは今の時点ではわからないが・・」
「まさか親父が・・」
「俺は親父さんはこれには関与してないとみる!なぜなら、この半年後、お前の親父さんは不慮の事故で亡くなってる」
「あっ!」
「おそらく・・知りすぎたってことだな」
「それはまさか・・」
「この情報は本社のごく一部の人間と俺しか知らないことだ。これをどう扱うか、安藤、お前の意見も聞きたくてな」
「俺の意見・・」
「但し相当の覚悟が必要だ!場合によってはお前の家族のこともな。よく考えてみてくれ」・・。
「それであなたはどうするつもりなの?」
「このまま見てみぬふりはできない。その不正な金の動き、そしてその証拠をつかんだ不可解な親父の死。まずは徹底的に調べてみるつもりだ!」
「危険なんじゃあ?」
「そこでお前たちに頼みがある。年が明けたら早々にこの地から離れてくれ!」
「あなた・・」
「お前たちに危険が及ばないとも限らないんだ!そしてこの事は決して口には出さないこと。別居はあくまでも俺とお前の不仲が原因!・・わかってくれ」
そして・・。
「ねー、お父さん今ごろどうしてるかな?」
「元気で働いてるわよ!」
「今は北海道?それともロシア?」
「どうかなあ・・」
「そんなお父さんと一緒じゃ、やっぱお母さんも疲れるか・・」
「理奈・・会いたいお父さんに?」
「そりゃあ・・でも私、お父さんもお母さんも信じてるから!」
「ありがとう理奈」
私は毎日日記をつけている。それは理奈の成長の記録だ。なにげない会話の内容や、日々の暮らし。そして初めてのデートのことも・・。一緒にいたくてもそれが叶わないあの人に、いつか見せられる日がくることを願って!
「あなた、理奈は元気にやってますよ。本当はあなたにすごく会いたがってる!早く元の生活に戻れるよう私たちもこちらで頑張ります。どうかあなたも無理だけはしないようにしてくださいね・・」
昨夜、久しぶりにお父さんの夢をみた!それは、若い頃のお父さんと幼い私。それがどんどん成長して、ついにお父さんに蘭君を紹介する日が・・。
私は蘭君を連れて、お父さんとお母さんの待つ家に。
「お父さん紹介するね!佐藤蘭君」・・。
夢はそこで終わり。お父さんと蘭君がそのあとどんな会話をしたのか・・。
「私また蘭君の夢をみたのよ」
「また俺が悪者の役?」
「違うよ!私の両親に蘭君を紹介する夢」
「えっ!夢でも緊張しちゃいそうだ」
「もう、蘭君たら・・」
「それで?」
「知りたいの?」
「知りたいかなあ・・やっぱやめとくわ!罵倒されて終わりじゃしゃれにならないからね」
「さては続きを聞くのが怖いな蘭君!」
「怖いというか・・」
「それがさ、肝心なところで夢は終わっちゃったの!『こちら佐藤蘭君』って言ったところでね・・」
「なあーんだ!脅かさないでよ理奈ちゃん」
「ごめんね・・でも、いつか現実になるといいなあ」
「うっ・・」
「うっ・・私変なこといっちゃった!?」
「・・・」
「あっ、蘭君黙ってる」
「いやその・・」
「でも、私のお父さんは近くにいないからな・・」
「まだしばらく会えないのか?」
「うん。会いたいなあお父さんに・・」
「理奈ちゃん・・」
「会えるよねきっと!」
「ああ!」
きっと会えるさ!