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私にはちょっと気になることがある。それは蘭君のこと・・。

昨日一緒に帰ってたとき「ゴホン」と一度咳をしたこと。

たった一度だけのことだったから、そのときはそれほど気ににはならなかったけど。

でも、お休みのメールの時もなんとなくいつもの蘭君のメールとは違ってた気がする。いつもの蘭君なら、もっと蘭君らしさというか・・。それが昨日のメールにはなかった。

今日の試験のことがあって緊張してたのもあると思うけど・・。

そんなことを思い出しながら、私はベッドを降りた。


「おはよう」

「おはよう。お弁当ここに置いてあるかなね」

「うん、ありがとう」

「それとこれマスク!持っていきなさい」

「マスクかあ・・」

「うん、念のためにね!」

「うん」・・これはもしかしたら蘭君に必要かもな!?


「じゃあ行ってくるね!」

「頑張ってね!」

「うん」


外階段に出ると、すぐに蘭君が現れた。そして私の勘は、嫌な方に当たってしまうことになる。


「蘭君、おはよう!」

「おはよう、理奈ちゃん」

「ん?蘭君・・」

やっぱり少し調子が悪そうだな。

「さあ行こう!理奈ちゃん」

「蘭君」・・私は蘭君のおでこに手をあてた。

「あっ!熱があるよ蘭君」

「うん、でも大丈夫!薬も飲んできたし」

「だけど・・」

「それに今日は休めないだろう」

「うん、でもあまり無理しないでね」

「うん」


私たちは電車に乗り△△高校に向かった。車内には私たちの他にも、受験生と思われる人たちが結構乗っていた。


そして20分ほどで△△駅に着いた。

「やっぱ緊張するよなあ」

「そうだね。蘭君、熱の方は?」

私は蘭君の身体の方が心配だよ。

「平気、全然気にならない」

「そう、良かった!蘭君、人という字を手のひらにかいてゴクンって飲み込むと緊張しないっておまじない知ってる?」

「うん、聞いたことある。周りの人を飲み込むってやつだよね」

「私、席について問題が配られたら、皆に見つからないようにやろうと思うんだ!」

「理奈ちゃんも緊張してる?」

「うん」

「俺もやろう!ゴクンって」


そして私たちはいよいよ試験会場に。すると

「ゴホン、ゴホンッ」

「蘭君、これ使って!」

私は、お母さんが渡してくれたマスクを蘭君に差し出した。

「マスク・・」

「今朝お母さんが渡してくれたんだけど、私は大丈夫だから」

「うん、ありがとう」

これで少しは喉が楽になると思うよ!


蘭君と私は、受験番号を確認し席についた。蘭君の席は、私の右後ろ。

「ゴホン、ゴホンッ」

あっ!まただ。

私はちらっと蘭君の方を覗いた。マスクをしっかりと鼻と口に当ててる。頑張って蘭君!


いよいよ問題が配られていく。そして、私の机の上にも、蘭君の机の上にも白い答案用紙が置かれた!ついに来たんだこの瞬間が・・。

そして私は右後ろの蘭君に心の言葉で呼び掛けた。

「蘭君、約束のサイン送るよ!」

私は左手で拳をつくり、右の肩をトントンと2回叩いた。気づいてくれた!?蘭君。


私は蘭君以外には気づかれないように、左手の手のひらに『人』という字を書き素早く飲み込んだ!

蘭君、蘭君もやってる?・・。


「では、1教科目始めてください」

いよいよ試験開始!

私は問題全体をまず見渡した。出来る問題からやる!それが試験の鉄則だよね蘭君!

「あっ!」私は心のなかで大きく声をあげた。1~2番の問題は、この前蘭君と一緒に勉強したところだ。蘭君もきっと、しめしめなんで思ってるだろうな。


あっという間に午前の部が終り、蘭君とお昼ご飯を食べた。

「蘭君、どうだった?」

「ん・・なんとか・・かな。でも、思ったよりできたと思う」

「この間勉強したとこもいくつか出てたよね」

「うん、おかげで助かったよ!」

とそのとき

「痛ててっ!」と蘭君。

「頭痛いの?」

「うん、ちょっとだけね・・」

私は再び手のひらを蘭君のおでこに。

「あっ!熱い」朝より確実に熱くなってる!

「・・・」

「保健室で診てもらおうか?」

「いや、大丈夫だよ。薬も持ってきてるし」

「ホントに大丈夫?」

「うん」

蘭君は、お昼ご飯はなんとか食べられたみたい。私もお母さんの作ってくれたお弁当を・・でも、蘭君のことが気になって、味がよくわからなかった。蘭君も熱があるから、あまり美味しくは食べられなかったろうなあ・・。

蘭君が風邪薬を飲むのを、私はそばでそっと見ていた。


そして午後の試験が始まった。

私は試験に集中!


そしていよいよ最後の教科。

そこで私は蘭君に謎のサインを送った・・蘭君、最後の1教科だよ!!って。


私はまた試験に集中した。

でも右後ろで蘭君が時々咳き込むと、私の気持ちは蘭君の方に向いてしまう。それでもなんとか最後まで問題を終えることができた。残り時間はまだ15分もある。

蘭君はどうだろう?

私は周りに気づかれないように、ちょっとだけ右の方を向くと、蘭君の手元をかすかに視界にとらえることができた! 。

書いた答えを消ゴムで消してるのだろうか・・ なんとなくイライラして落ち着かない様子。でも私にはなにもしてあげれない。熱があるなかで試験に集中するのは難しいだろうけど、蘭君には最後まで頑張って欲しい。

落ち着いて、落ち着いて!蘭君・・私はそんな思いで、わざと大きく肩を動かし、深呼吸をして見せた。蘭君、蘭君・・。

あっ!蘭君が私と同じように深呼吸をしてるのがわかる。そう、それで少しは落ち着けるはずよ。蘭君、ファイト!!

わかる!蘭君のヤル気スイッチがON になったのが・・。

そして試験は終了した。


「蘭君、熱は?」

私は蘭君のおでこに手をあてた。これで3度目。

「・・・」

「熱いね!待ってて、私、先生に伝えてくる」

「ごめん」

私は教壇にいた先生の所に走った。


「熱があるって?」

「はい」

「とりあえず保健室に行こう。歩けるかい」

「はい」

蘭君は先生に支えられて、保健室に向かった。私もそのあとをついていった。


保健室には女の先生がいて、蘭君をベッドに寝かせてくれた。熱を測ると38度5分。やっぱり高熱だ!

「お医者さんで診てもらった方がいいわね。△△医院に連絡してみます」そう言うと、先生は受話器を握った。

「じゃあ僕は親御さんに連絡します」

そう言ってくれたのは男の先生。私は蘭君のお母さんの携帯番号を先生に教えた。蘭君のお母さん、心配するだろうなあ。


「佐藤君、起き上がれるかい?」

「はい、大丈夫です」

「僕の車で病院まで行こう」

「はい」

「あっ、私も一緒に行きます!佐藤君とは御近所なので」

「わかった」

「じゃあ幸先生、お願いします」

「わかりました」

「学校には私から伝えておきます」

「お願いします」

男の先生の名前は幸。名字なのか名前なのかわかんないけど。でもこういう場合普通名字で呼ぶか!


こうして、蘭君と私は、幸先生の車で△△医院に向かった。

「佐藤君、大丈夫?あと5分ほどで病院だからね」ミラーに幸先生の顔が映る。

「ご迷惑をお掛けします」

「そんなに気にすることはないよ。受験勉強頑張りすぎたかな・・?」

「いえ・・」

「二人は同じ中学みたいだね」

「はい。家も同じマンションの上と下なんです」

「そうなんだ・・もうそこの角が病院だ」


△△医院に着くとすぐに診察室に通された。そして蘭君は点滴をうたれ、いつの間にか眠ってしまっていた。ゆっくりと休んで!蘭君。


程なくして、診察室に蘭君のお母さんが慌てた様子で飛び込んでき。

「蘭!」

「蘭君のお母さん!」

「あっ、理奈ちゃん。ついててくれたの、ありがとうね!」

「あの、私、△△高校の幸と言います」

「あっ、高校の先生でしたか。この度は息子が大変お世話になりまして・・」

「いえ、佐藤君は今、点滴をして水分を補給してるところです。これで汗をたっぷりかけば熱も下がるだろうって、お医者さんが」

「そうですか。ありがとうございます」

「それじゃあ僕はこれで」

「ありがとうございました」

「先生、ありがとうございました」

「うん、お大事に!」

幸先生はそう言うと、診察室を出ていった。


「理奈ちゃん、ごめんねこんな日に」

「いえ、私はなにも・・」

「ところで入試の方はどうだったのかしらね?」

「ちゃんと最後まで頑張りましたよ!蘭君」

「そう・・」

蘭君のお母さんは、そこでようやく安心した顔になった。

点滴が終わっても、まだ蘭君はぐっすりと夢の中。

私もなんだか疲れちゃったなあ・・。このまま蘭君の隣で眠りたい気分。

色々あったけど、なにはともあれ、これで私たちの高校入試は終わったのだった。



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