まだ少し温かいでしょ
「ただいまー!」
「おかえりなさい。理奈、手袋忘れてたでしょう」
「うん、でも蘭君が貸してくれた!」
「あら!」
「あっ!返すの忘れちゃったわ・・」
「あらあら、外すのがもったいなかったんじゃない?!」
「そうかもね」
「楽しかった?」
「そりゃあもう!!」
明日の朝、返さないとなあ手袋。
「△△公園だったんでしょ!?」
「うん。結構広くて色々遊べたよ!アスレチックとか釣り堀とか」
「ヘエー、釣り堀まで・・理奈得意だもんね!魚釣り」
「でも今日は全然だめだった」
「この時期、あまり池に魚を放してないんじゃない?」
「そうなのかなあ」
「だって、寒くて釣りをする人なんてほとんどいないでしょう」
「うん、私たちだけ・・」
「魚を飼えば、餌代もバカにならないからね」
「なるほどね!」
「お母さん、まだ蘭君に会ったことないんだよね」
「ああ、私も蘭君のお父さんとお母さんに会ったことないなあ。翼くんだけだ」
「弟さんがいるんだったわね」
「うん」
そして私は布団に入り電気を消した。
とその時、ふと手袋のことが頭に浮かんだ!
私は電気をつけ、つくえの上の手袋を手に取った。
「よし!」
私は蘭君の手袋を両手にはめ、再び電気を消した。
そして月曜日・・。
扉を押して、蘭君が現れた。
「おはよう」
「おはよう蘭君!ごめん、これ返し忘れてた」
私は手袋を差し出した。
「ああ、いつでもよかったのに・・」
「だってこれがないと手が冷えちゃうでしょう。私は自分のがあるから」
「うん」
まだ少し温かいでしょ蘭君。
『はあー』
蘭君の吐く息は真っ白!
『はあー』
真似して私も・・。やっぱり真っ白だ!
なんか、さっきから蘭君の視線が気になるなあ・・。まさか告白!このタイミングで。・・それはないか。
「私の顔に何かついてる?」
「いや、理奈ちゃん、肌が白いからホントに寒そうで・・」
「白いでしょ私の顔!」
「悪い意味で言ったんじゃないよ!」
「わかってるわ。でも小さい頃は、この肌の色のせいでよくからかわれたなあ・・」
だからこの伊達メガネで誤魔化してるの。
「そうなの?」
「子供ってそういうのあるじゃない!」
「そうだな・・ごめん!嫌なこと思い出しちゃったね」
「うんん、平気よ!」
子供の頃は、この白すぎる肌がホントに嫌だった。お母さんの肌の色とも違ってるし・・。
それが理由で仲間はずれにされたこともあった。
「ん?蘭君、まだ気にしてるの」
「・・うん」
「私の肌が白いのは仕方ないのよ!お父さんのお父さん、つまり私のおじいちゃんはロシア人なのよ」
「えっ!」
「だから私はクォーター!」
「クォーター?」
「4分の1はロシア人ってこと!」
「ふーん」
蘭君は私の顔をじっと見ていた。
「そう言えばさあ、昨日写真を1枚も撮らなかったね」
私は話題を変えた。
「うん。記念に撮っておくべきだったかな」
「ねー蘭君、今撮らない!」
「えっ!今」
「デートの続きのつもりでさ!」
「ああ」
「ちょっと待って!」
実はスマホ持ってきてるんだ!計画的犯行。
「内緒ね!」
そう言って私はスマホを取り出し、ペロッと舌を出した。
「俺が撮るよ」
「うん」
私はメガネを外し、蘭君の顔に大接近!!
バクバク音をたてる心臓。
「撮るよ・・はいチーズ!」
蘭君が撮った写真を見せてくれた。
「わー!蘭君かっこよく撮れてる」
「理奈ちゃんも・・」
「えっ?」
「カ・ワ・イ・イ」
「頬っぺがくっついてるみたいだね!」
角度のせいかな?!二人の頬っぺは完全にくっついてる。
「うん」
「後で蘭君のスマホに送るね!」
「あっ!ヤバイよ理奈ちゃん。急がないと学校に遅刻しちゃうよ」
「ホント急ごっか!」
私たちは走り出していた!
「そんなにゆっくりしてたつもりないけどなあ!」
「話に夢中で、それに写真まで撮って・・ホントにデートの続きだね!」
「まったくだ!」
教室には、朝のHR 5分前に到着!
『ハアーハアー・・』
二人とも息を切らしている・・。そこに和久井君。
「怪しいなあ!もしかして朝からデートか・・」
「えっ!」
「えっ!・・そうなのか!?」
「・・違うよ!」
「違います!デートは昨日」
「理奈、蘭とデートしたの」
今度は瞳だ!
「しまった・・」
「白状しなさい・・」
「あっそうだな!今度4人でどこかでか出掛けない?」
「理奈、4人って誰のことよ?」
「蘭君でしょ、私でしょ、瞳でしょ・・それから和久井君」
「それいいかもな」
「じゃあ決まりね!」
「ちょっと・・」
「嫌なの瞳?」
「嫌というか・・」
「一也はOK だよな!」
「あっ・・ああ」
「はい決定!」
瞳、なに恥ずかしがってるのよ!
部活が終わるとまたあの放送が・・。
『皆さん下校の時間になりました・・』
「今日は何の曲だろう?」
「楽しみね!」
そして・・。
♪ラララーラララ・・・♪
「ん?知らない曲だなあ・・」
「私も。でも聞いたこともあるような・・」
「そう」
「うん、確かに聞いたことある!・・♪ンンン
そうだ!お父さんがよく聞いていた。サイモンとガーファンクルもそうだけど、この曲も。
「ただいまー」
「おかえり」
「お母さん、お父さんがよく聞いてた曲で
♪ンンン・ンンン・・♪
ってあったよね。
私はメロディーを口ずさんだ!
「あーあ、ボブ・ディランね!」
「ボブ・ディラン?」
「風に吹かれて!お父さん、好きだったわよ」
「じゃあ、やっぱり私も聞いてたんだこの曲」
「うん。例の放送部のあれで?」
「うん、かかってた曲よ!」
♪ンンン・ンンン・・♪
風に吹かれてかあ・・。