エレナ&マリア
いよいよ3月に入った。
心地よい春の風も、まだ少し冷たい雨も、俺達受験生には無関係。嵐が来ても、雷が鳴っても、部屋にこもり机に向かう・・!?
陽射しがあるとぽかぽか暖かいけど、風が吹くと少しひんやり。夜にはまだストーブが欠かせない。
いよいよ3月ね!卒業まで私達受験生は、忙しい日々を送ることになる。
「一也、二次方程式の解の公式ってこれでいいのか?」
「ん?蘭、熱でもあるのか」
「何で?」
「お前の口から、そんな複雑な言葉を聞くとは思わなかったからさ!」
「一応俺だって受験生だぜ!」
「そうだけど・・」
理奈ちゃんの助けもあり、俺は順調に?受験勉強をこなしていた。この調子でいけば△△高校合格の望みも高くなってきた!
一也は模擬試験の結果もよく、担任からは、○○高校合格の太鼓判をおされている言わば秀才だ!スケベだけど。
「大化の改新・・645年」
「蘭君、頑張ってるね!」
「うん。理奈ちゃんが勉強を一緒にやってくれるから、俺、この前の模擬試験、結構できちゃってさ!」
「だって蘭君、最近頑張ってるもん」
公立高校の入試まであと3日だ!
そしてここはエトランゼ
「えっ!本当ですか?」
「ああ、明日ニーナちゃんのお母さんが日本に来るらしい。ニーナちゃんのこっちでの様子を見にね。一週間ほど滞在する予定で、ここにも挨拶に来たいって言ってるらしい」
「明日!」
「そしてここにはその翌日来られるそうだ」
「明後日ですか」
「安藤さん、その日は休暇をとったらどうですか?ここにいたらどうしたって顔を合わせることになる」
「・・・」
「もちろんニーナちゃんのお母さんが、あなたの知ってる女性と同一人物と決まったわけではないが・・」
「・・・」
「店のやりくりなら、1日ぐらいどうにでもなるからね!」
「はあ」
「考えておいてください」
「はい、色々気遣っていただいて、ありがとうございます」
「うん」
翌日
「ニーナちゃん、お母さんは無事日本に着いたのかい?」
「はい!午前中に向かえに行ってきました」
「そう」
「10時間も飛行機に乗って、すごく疲れたって、今私のアパートで眠ってます」
「時差もあるだろうからね」
「はい」
「ご挨拶にって言ってたけど、無理しなくていいんだよ」
「はい、ありがとうございます。でも、明日になれば母も大丈夫だと思います」
「そう・・」
一方
「あー、早く受験なんて終わらないかなあ!」
「一也は余裕だろうに」
「けどさ、俺本番に弱いからなあ」
「一也らしくないじゃんか」
「それにおみくじも凶だったしさ!」
「あれ、まだそんなこと気にしてるのか?!」
「それほどでもないけどさ、やっぱちょっとはね・・」
「でも、あそこで凶を引くのも、相当な強運だと思うけど!」
「蘭、それ誉めてんのか?」
「一応ね!」
翌々日
「本当にいいのかい?」
「はい。私には彼女に会う義務があると思うんです。ですから・・」
「わかったよ!」
そしてニーナちゃんが、お母さんを連れてエトランゼにやって来たのはその日の夕方だった。
「川口さん、私の母、エレナです。」
「初めまして!ニーナの母です」
「初めまして、川口と申します。ニーナちゃんには仕事を手伝ってもらって、本当に助かっています」
エレナと名乗ったこの女性。流暢ではないが、日本語が出来るようだ。
「もう一人、一緒に働いてる者がいるので挨拶させますね」
「安藤さん!ニーナさんのお母さんが見えたよ」
「今なんて?」
「安藤です、ここの料理を作ってる」
「安藤さん・・」
「お母さん、どうかしたの?」
「うんん、何でもないわ」
そして、厨房から出ていった私は、彼女の顔を見るとすぐに確信した!マリアだと。あれから20年以上たつが、彼女の顔を忘れるはずもない。
「マリアさん!」
「うっ!!」
明らかに動揺する彼女の表情を、私は見逃さなかった。
「マリアさん・・ですよね?」
「・・・」
「マリア?」
「・・いいえ、人違いです!私はニーナの母親でエレナといいます」
「えっ?!」・・エレナ!そんなはずはない。
「そうです安藤さん。これは私の母のエレナです」
「失礼しました!私の知人によくに似てたもので、てっきり・・」
「そうでしたか」
「本当に申し訳ありません」
「いえ、そんなに気になさらないでくたさい」
マリアは私のことを忘れてしまったのか・・。
教室では
「いよいよ明日、公立高校の入学試験です!今日は皆、早めに寝るようにしてください。それから、くれぐれも寝冷えなどしないように」
「布団に入っても眠れそうにないなあ」
「そうだね」
先生の言うように、明日に迫った高校入試。今までの人生で最大のイベントと言ってもいい!
夜、理奈ちゃんとほんの少しだけメールをやりとり。そして、俺は布団をしっかりとかぶった!まだまだ冷えるからな、風邪なんかひかないようにしなくちゃ・・。
明日はいつもより出掛けるのが早いから、遅れないように気を付けないと!
蘭君も言ってたけど、今夜すんなり眠れるかな!?
「明日はお互い精一杯頑張ろうね!」・・蘭君とそんなメールをかわし、私は布団に入った。