似てる
「蘭、どうなの?受験の方は」
「どうって何がさ?」
「△△高校、受かる見込みがあるのかってことよ」
「多分大丈夫!初詣行ったとき、絵馬にも書いたし、おみくじは大吉だったから」
「神頼みねー・・」
「それより一也の方が危ないんじゃないか!?」
「一也君頭いいじゃない!」
「凶だったの!おみくじ」
「えー!初詣のおみくじにも凶だなんてあるのね」
「あるんだってさ!」
「でも、ものは考えようでさ、これからどんどんどんどん上り坂で、受験の時は最高潮なんじゃない!?」
「かもね。でも母さん、おみくじには『大凶』ってのもあるからね」
「あっそうよね」
「蘭、ニーナちゃんて外人なの?」
「うん、ロシアの人だってさ」
「ロシアって、理奈お姉さんが行くかもしれなかったとこだよね」
「うん、翼、よく覚えてるじゃんか」
そういえばニーナさんて、理奈ちゃんにどことなく似てたよなあ!?
理奈ちゃんも4分1はロシアの人なんだから、似てても不思議はないか。
一也のやつそろそろ立ち直ったかな?メールでもしてみるか。
「一也、何してるんだ?勉強終わったらどこか行かないか」
送信!
プルプル
「出掛けるのやめとく!ケガするとヤバイから」
ありゃ、ダメだこりゃ!
そしてエトランゼでは
「川口さん、ちょっとお話があるんですが」
「ん?ここではダメな話ですか」
「ええ」
「いいですよ。じゃあ、今夜軽く一杯行きましょうか」
「すみません」
私は怯えていた。突然このエトランゼに現れたあのニーナという女性に。
アルバイト募集の張り紙を見て訪ねてきたというが、その女性がニーナという名前だとは、ましてやロシア人とは、この間の新年会の時まで知らなかった。
「話、聞きましょうか」
「はい、実はニーナちゃんのことなんですが」
「やっぱりそうでしたか」
「やっぱりって、私が何を話すか知ってるんですか?」
「いえいえ、そうじゃないですよ。ただ、安藤さん、ニーナちゃんを見てから様子がどうもおかしかったから・・」
「はあ」
「何か事情がありそうですね」
「私がまだ18才の時でした。川口さんもご存じの通り、私の親父はロシアと北海道を行き来する仕事をしていて」
「知ってます。安藤さんもそこで働いていたんですものね」
「当時まだ私は大学1年で、親父に連れられてロシアに行ったことがあるんです。親父は仕事が忙しくて、私の相手などする暇はありませんでした。ある日、今日は泊まりがけの仕事になしそうだから、外で適当に飯を食えと言って、お金だけおいて仕事に出掛けてしまったんです。残された私はその夜、夕食をとるためにある店に入ったんです。そして初めてそこでウオッカを飲んだんです」
「ウオッカですか、それはまた強い酒を!」
「ええ、当然私は、歩くことも立ち上がることもできないほど酔っぱらってしまって、気づいたらもう朝になっていて、隣には知らない歳上の女性がいたんです」
「動けないあなたを放っておけなかったのでは?」
「ええ」
「それでその女性とは?」
「会ったのはそれが最初で最後でした。ただ、私が日本に帰ってからも、文通という形で付き合いは続いていたんです。彼女は日本語が少し出来たので」
「なるほど」
「そして何通めかの手紙に、とんでもないことが書かれていたんです・・妊娠したと」
「・・・」
「そして、もう子供の名前も決めていて、女の子だったら・・ニーナがいいと。私は怖くなり、それ以来くる手紙に目も通さず返事も書きませんでした。当然、親父にも言えるはずもなく」
「うん、それでその歳上の女性とはどうなったんです?」
「やがて手紙も来なくなりそれっきりです」
「そんなことがあったんですか!それでその時の子がニーナちゃんだと」
「確信はありませんが、偶然にしては出来すぎてる話です」
「その女性の名前は?覚えてるんでしょ」
「ええ!でも違ったんです」
「違う?」
「母親の名前を聞いたんですニーナちゃんに。そうしたら、私の記憶している名前と。しかし、偽名なんていくらでも使えますから・・」
「そうですね」
「それにニーナちゃん、似てるんですよその時の女性に」
「この事はまだ誰にも?」
「もちろん、言えるはずがありません」
「しばらく様子を見ることぐらいしか出来そうもないな」
「ええ」
「安藤さんも気が気ではないだろうが、娘さんにしてもニーナちゃんにしても、心に傷を残すようなことだけはしちゃいけない!」
「はい」
もうすぐ冬休みも終り。今日は私の家で受験勉強中。そして、落ち込んでいた和久井くんも復帰!瞳のメールに目が覚めたとか?!
「で、瞳はなんて書いてきたの?」
「おみくじくらいで落ち込むなって!凶の下にはまだ大凶があるんだからって」
「それで一也、元気が出たのか?」
「俺より最悪な奴がいると思うとさ・・人間ってそんなもんだろ」
「そんなもんか!」
「私今度ニーナさんにロシア語習おうかな」
「習ってどうするの理奈ちゃん」
「別にどうもしないけど。ロシア語がしゃべれたらなんかいいなって」
「俺なんか英語でもちんぷんかんぷんだからな!ロシア語なんて無理だな」
「俺も。どうせならアメリカ人の方が良かったな。そうすれば英会話が習えたじゃん!」
「一也はその方が良かったよな!将来の留学のために」
「ニーナさんてアパートで独り暮らしなんだって」
「ふーん。俺も独り暮らし憧れるなあ!」
「私は逆に怖いと思うな。特にニーナさん、外国での独り暮らしなんだから!それに女性で美人だし」
「そんなに美人なのか?」
「理奈ちゃんにどことなく似てる感じ!」
「早く会ってみたいな」
私に似てるかあ。実は私もそう思っちゃったんだ。ニーナさんの第一印象で。
だからって蘭君、ニーナさんを好きになんかなっちゃダメよ!