まるでロケットのごとく
「お母さん、ぼくもスケートしたいなあ」
「ん?・・お母さんスケート出来ないからなあ」
「じゃあ、お父さんは?」
「どうかなあ、お父さんが滑ってるところ見たことないわね」
「蘭!蘭はスケート出来る?」
「ん・・ムリ!」
「チェッ!」
「母さん、このスケート場意外と近いんじゃない?」
「うん、車で30分もかからないんじゃないかな」
「そうなんだ」
俺たちはテレビを見ていた。そこには広大なスケートリンクが映し出されていて、そこを何人もの人たちが、楽しそうにアイススケートを楽しんでいる。行ってみたいなあ・・。
「蘭、明日翼と母さんは、お友だちの家にクリスマスパーティーにご招待されてるんだけど、蘭も一緒に行く?」
「何時から?」
「お昼からよ」
「じゃあパス!」
「そう、お友だちと何か約束してるの?」
「うん、まあーね」
「ああ翼、理奈ちゃんならアイススケート上手かもよ、理奈ちゃん北海道出身でしょ」
「じゃあ、理奈お姉さんに連れてってもらおうかなあ」
「今度頼んでみたら」
「うん!」
そっか!理奈ちゃんアイススケート得意かもなあ・・。よし!明日のイブのデートはアイススケートだ。
そして、俺は直ぐに理奈ちゃんにメールをした。
「理奈ちゃん、明日アイススケート行こうか!?」
「うん、わかったわ!楽しみね」
よしOK!
デート当日
「いいなあ蘭だけ」
「しょうがないだろう翼、翼はクリスマスパーティーがあるんだから」
「次は一緒に連れてってね!」
「ああ、約束する!」
♪ピンポン
「じゃあ行ってくる」
「気を付けてね」
そして俺はドアを開けた。
「おはよー!理奈ちゃん」
「おはよう」
「よし行こうか!」
「うん」
理奈ちゃん、今日はちゃんと手袋してるな!
去年の冬、△△公園に行ったとき、理奈ちゃん手袋してなかったっけな。懐かしいなあ、あの時のプチデート。
そして俺たちはバス停にいた。
「ねえ蘭君、なんでアイススケートに行こうと思ったの?」
「色々考えたんだけど、昨日テレビでアイススケートやっててさ。その場所が今から行くスケート場なんだ」
「そうなんだ」
「すごく広いところだよ。一目で気に入っちゃったよ!」
「楽しみだね」
「蘭君、アイススケート得意なんだね」
「いや、初めて!」
「えっ!?」・・やっぱ驚くよね!
バスに乗って約45分、俺たちはスケート場に到着した。
受付でスケート靴を借り、いよいよリンクへ。
「理奈ちゃんはスケートしたことあるの?」靴を履きながら俺は聞いた。
「うん、北海道にいたときに」
「あっそうだよね」・・やっぱりアイススケート経験者だ。母さんのよみは当たったな!
リンクにはすでにたくさんの人がスケートを楽しんでいる。緊張するなあ。なるべく周りの人たちに迷惑を掛けないようにしないとな。
「よし、私は準備OKよ!」
「じゃあ滑ろうか」
「うん!」
俺は無謀にも理奈ちゃんより先にリンクに立った・・いや、立ってない!
「ああっ・・・」
俺の足は、俺の意思に従うことなくあっちにこっちに!結果、俺は1秒もたたずに尻餅をついてしまった。カッコつけずに、理奈ちゃんのあとについていけば良かったった・・。
「蘭君、大丈夫?」
「痛ててっ・・」
「蘭君、一緒に滑ろう!」
惨めにも女の子に助け起こされた俺は、そのまま理奈ちゃんの右手をぎゅっと握り続けた。
理由がどうであれ、俺たちの手と手は、ガッチリと結ばれることとなった。ラッキー!
俺は理奈ちゃんにリードしてもらいながら、リンクをゆっくりと回り始めた。
当然俺の左右の足は勝手な動きをつづけ、俺に尻餅をつかせようとする。だから俺は、全体重を理奈ちゃんの右腕に預け、なんとか氷の上を進んでいる。
理奈ちゃんゴメンね!さすがにきついよね、この体制は。
100パーセント理奈ちゃんに頼りきってた俺も、どのくらい過ぎてからだろうか、なんとか自力で氷の上を立てるようになり、足のコントロールも徐々にきくようになってきた。
ほら!もう普通に手を繋いでるだけになったぞ。
「蘭君、だいぶ上手になったね!さすがー」
「まあーね」
「ちょっと休憩しましょうか」
「うん、そうしよう」
ふうっ、あしがつりそうだったよ。
なんとか滑りもかたちになってきて、周りを見渡す余裕も出来てきた。どんな風に映ってるんだろうな俺と理奈ちゃん!?
「ああー、意外と難しいなあアイススケートって」
「でも蘭君上手だよ」
「そう。あっ理奈ちゃん、俺飲み物買ってくるよ。何がいい?」
「私はポカリ」
「わかった。じゃあ俺も。ちょっと待ってて」
俺は小銭をもって自販機に向かった。もう喉がカラカラだ!
「はい、お待たせ」
「ありがとう!」
ポカリをグイグイ飲みながら考えていた。足手まといの俺なんかが隣にいたら、理奈ちゃんは思いきり滑ることが出来ない。それにカッコよく滑る理奈ちゃんが見てみたい!
そこで、俺は理奈ちゃんにおねだりをすることにした。
「ねえ理奈ちゃん、理奈ちゃんスケート得意なんでしょ?」
「ん?・・普通かな」
「理奈ちゃんが滑るところ見てみたいな」
「えー・・恥ずかしいよ!」
「いいじゃんか!俺見てるからさ」
「ん・・」
「お願い!」
「じゃあ、ちょっとだけ」
「やったー!」
理奈ちゃんは飲みかけのボカリを置きリンクに向かい、静かに滑り出した。
やっぱり理奈ちゃんはスポーツウーマン!何をやってもさまになってるよなあ。ああ、泳ぎだけは苦手だったっけ!?
理奈ちゃんはゆっくりとリンクを一周すると、次は後ろ向きで、今度はなんとスピンまで。リズミカルにステップを踏み、いつの間にか俺は、理奈ちゃんの華麗な滑りに引き込まれていた!
ん?周りの何人かの人も、理奈ちゃんの滑りに魅了されてる感じ。さすがだな!理奈ちゃん。
そして理奈ちゃんは、軽やかに俺のの目の前に。そしてジャンプ!しかもくるっと一回転。でもその次の瞬間・・
「あっ!」
飛び上がった理奈ちゃんの体は、着氷にわずかに失敗し、転んでしまった。
俺は無我夢中で理奈ちゃんのところに駆け寄った!
「理奈ちゃん、大丈夫!?」
そして、氷の上に左足が乗った瞬間、俺の体はまるでロケットのごとくスピードをあげ、しゃがみこむ理奈ちゃんの体に突っ込んでいった!
「あーああ!」
「キャー!」
俺の体は真上から、理奈ちゃんの体に重なった。
ん?・・マジで!?・・今、理奈ちゃんの唇に俺の唇が・・ふ・れ・た。
理奈ちゃん、気づいた?今の出来事に!?一瞬だったけど、ほんの一瞬だったけど、確かに触れたよ!唇が・・。
理奈ちゃんの体とどのくらいの間重なっていたのだろう?
近くにいたおじさんに「ケガはないか?」と聞かれるまで、心も体も、思考も動きも、すべてが止まっていた!
我に返り、焦点を合わせると、目の前に理奈ちゃんの顔があった。
「大丈夫です」
「すみません」
さっきのはまさしく
『First kiss now 』
だったね理奈ちゃん!!
ファーストキスの相手が俺で良かった!?いつか聞くから教えてよ理奈ちゃん。




