時速100キロ
瞳がロサンゼルスに旅立って4ヶ月が過ぎ、街はクリスマスムード一色!
だけど私たち受験生には、クリスマスもお正月もない・・なあーんて信じてないけど!
明日はクリスマスイブ、久しぶりに蘭君とデートの約束をしてる。蘭君、私をどこに連れていってくれるの?
川口さんとお父さんのお店も盛況で、明日と明後日は、オールナイトで店を開けるって張り切っている。
そのお店の名前は『エトランゼ』・・お父さんも川口さんも、お気に入りの言葉なんだって!私もすごく気に入ってるよ。
瞳も異国の地で頑張ってるらしい。友達も優しく迎えてくれて、寂しいなんて思わないだって。本当かな?瞳からはもう3通もエアメールが届いてる。和久井くんとの遠距離恋愛も順調みたいだし。
そして蘭君からメールが届いた。
「理奈ちゃん、明日アイススケート行こうか!?」
「うん、わかったわ!楽しみね」
「明日、アイススケートに行こうかって」
「蘭君とのデート?」
「うん」
「理奈、スケート得意だから良かったわね」
「蘭君スケートなんてやったことあるのかな?」
デート当日
「じゃあ行ってくるねー!」
「あっ理奈!手袋持ってる?いつか忘れてったことがあったでしょう」
「大丈夫よ!ほら」・・私は両手を見せた。ちゃんと手袋してますよ。
私は外階段を下り、蘭君の家のチャイムを鳴らした。
すると直ぐにドアが開き、飛びっきりの笑顔の蘭君が飛び出してきた!
「おはよー!理奈ちゃん」
「おはよう」
「よし行こうか!」
「うん」
そして私たちは、バス停でバスを待っている。
「ねえ蘭君、なんでアイススケートに行こうと思ったの?」
「色々考えたんだけど、昨日テレビでアイススケートやっててさ。その場所が今から行くスケート場なんだ」
「そうなんだ」
「すごく広いところだよ。一目で気に入っちゃったよ!」
「楽しみだね」
「蘭君、アイススケート得意なんだね」
「いや、初めて!」
「えっ!?」
バスに乗って約45分、私たちはスケート場に到着した。
そこはアイススケートだけでなく、買い物を楽しんだり食事をしたりでき、ゲームセンターまである大きな施設だ。
意外と近くにこんなところがあるなんて、ちっとも知らなかったなあ。
受付でスケート靴を借り、いよいよリンクへ。
私はアイススケートは得意の方だと思う。北海道にいたときは、マイシューズも持っていたほど!
蘭君、スケート靴を履いて氷の上に立つの意外と難しいよ。大丈夫?
「理奈ちゃんはスケートしたことあるの?」靴を履きながら蘭君が聞いてきた。
「うん、北海道にいたときに」
「あっそうだよね」
リンクにはすでにたくさんのスケーターが、おもいおもいのやり方でスケートを楽しんでいる。
大人の姿はあまり無いな。
「よし、私は準備OKよ!」
「じゃあ滑ろうか」
「うん!」
リンクに先に降りたのは蘭君。すると
「ああっ・・・」
やっちゃったね!
私は慌てて蘭君の元へ。
「蘭君、大丈夫?」
「痛ててっ・・」
「蘭君、一緒に滑ろう!」
私は蘭君を引き起こし手を繋いだ。
こうして蘭君の左手と私の右手はガッチリと結ばれた!
私は蘭君をリードしながら、リンクをゆっくりと回り始めた。
最初は、私に体をあずけっぱなしの蘭君。10分もすると私の腕もさすがにしびれてきた。蘭君の体重を、ほとんど右腕だけで支えているんだもんね。
でも、夏には蘭君が私に、やさしく泳ぎを教えてくれた。今度は私の番!!
滑りはじめて15分くらいたった頃だろうか。私の右腕にかかっていた重さが徐々に小さくなり、蘭君はひとりでリンクの上を滑り出した。さすがだね!蘭君、コツをつかむのが早い。
その時も決して、繋いだ左手と右手は離してないんだよね!
「蘭君、だいぶ上手になったね!さすがー」
「まあーね」
「ちょっと休憩しましょうか」
「うん、そうしよう」
こんな私たち、周りの人たちから見たら完璧なカップルよね!ふふふっ。
「ああー、意外と難しいなあアイススケートって」
「でも蘭君上手だよ」
「そう。あっ理奈ちゃん、俺飲み物買ってくるよ。何がいい?」
「私はポカリ」
「わかった。じゃあ俺も。ちょっと待ってて」
でもなんで、蘭君は滑れないアイススケートに私を誘ったんだろうな?
「はい、お待たせ」
「ありがとう!」
「ねえ理奈ちゃん、理奈ちゃんスケート得意なんでしょ?」
「ん?・・普通かな」
「理奈ちゃんが滑るところ見てみたいな」
「えー・・恥ずかしいよ!」
「いいじゃんか!俺見てるからさ」
「ん・・」
「お願い!」
「じゃあ、ちょっとだけ」
「やったー!」
私は飲みかけのボカリを置きリンクに向かい、静かに滑り出した。
私は2年ぶりにスケート靴を履いた。でも不思議なもので、昔習った滑りの感覚を、身体はまだはっきりと覚えているようだ。
私はもともとスポーツが好きで、なでしこサッカー同様、オリンピックのアイススケートにも憧れを抱いていた。
私はゆっくりとリンクを一周すると、次は後ろ向きで、今度はスピンを試してみた。リズミカルにステップを踏み、いつの間にか夢中になっていた。
すごく気持ちいい!あの頃の感覚が鮮やかに甦る。
そして私は、蘭君の目の前に来たときにジャンプをして一回転!・・したつもりだった。
しかしダメね。着地で見事失敗!尻餅をついてしまった。やっちゃったあ・・。
ちょっとだけばつの悪い思いで、私は蘭君の方に目をやった。
「理奈ちゃん、大丈夫!?」
すると大きな声をあげて、蘭君が私の方に滑ってくる。時速100キロとも思えるすごいスピードで・・。
蘭君、そのスピードじゃあ止まれないでしょう・・嘘・・!?
「あーああ!」
「キャー!」
尻餅をついてる私の体に、猛スピードの蘭君が・・激突!
それはほんの一瞬だった!蘭君は気づいた!?
蘭君の体が私に重なったとき、確かに蘭君の唇が私の唇に触れた!
蘭君の体とどのくらいの間重なっていたのだろう?
近くにいたおじさんに「ケガはないか?」と聞かれるまで、色も音も感覚もない!私の五感は完全に停止していた。
我に返り、焦点を合わせると、目の前に蘭君の顔があった。
「大丈夫です」
「すみません」
さっきのはまさしく
『First kiss now 』
だったよね蘭君!!
私の唇、どんな感じだった・・いつか聞くから教えてね。