ラン
日曜日もいい天気で、俺達は午前中海水浴でワイワイ騒ぎ、今、父さんの運転する車で家路に向かっている。
車内には焼き鳥の匂いがぷんぷん!
俺たちが海水浴で騒いでる間、川口さんがみんなのために焼いてくれたものだ。
「それにしても翼、体真っ黒に焼けたわね!」
「ホント、子供たちは皆真っ黒だ」
「2日間ともいいお天気でしたものね」
「そういえば昔やらなかったかい?背中にテープを貼って文字を書くやつ」
「父さん、なにそれ?」
「あーあ、よく恋人同士でやるやつですよね」
「ほら、背中にテープを貼って体を焼くと、テープのところだけ白く残るだろう」
「佐藤さん、昔の恋人とやったんですか?・・『LOVE 』とか」
「まあね」
「あら?!私は記憶にないわ。あなた誰とそんなことやったんですか」
「えっ?」
「佐藤さん、ひっかかりましたね!」
「いや、誤解ですよ、誤解!」
「アハハハッ」
父さんたちにも青春時代って言うのがあったんだなあ・・。
「蘭君」
「なに?理奈ちゃん」
「夜中にさあ目を覚ましたでしょ。その時、わたしの方が先に眠っちゃったよね」
「うん」
「それでさあ」
「それで?」
「それで・・・やっぱいいや」
「気になるよ理奈ちゃん」
「ごめん・・それとね・・」
「うんん」
「・・・」どうしたんだ理奈ちゃん?
やっぱり恥ずかしくてとても聞けないな。それともうひとつイタズラしちゃったんだ!今朝、蘭君がまだ眠っている間に。だってTシャツがまくれてたんだもん。
「蘭、なにもじもじしてるの?」
「なんかさっきから腰の辺りがかゆいんだよ」
俺は手をまわしごりごりとかきはじめた。
「ふうっ」
「なおった?」
「なんとか」
その時俺は気づいた。かいてた指の先端に、何かがまとわり付いているのを!
なんかベトベトする物体だ。
これか!かゆみの正体は。
ん?理奈ちゃんがこっちを見てるぞ。
あっ、笑ってる。
なんで・・?
「瞳、いつだっけ?ロサンゼルス行っちゃうの」
「2週間後の日曜日」
「あとたった2週間かあ」
「寂しそうだね和久井くん」
「理奈ちゃん、からかわないでよ」
「別にからかってなんかいないわよ!」
「一也、どうせ最後なんだから、ダメもとでデート誘っちゃえよ」
「蘭、そのダメもとはないだろう」
「おや、一也君は瞳ちゃんのことが好きなのかい?」とストレートに聞く川口さん。
「えっと・・」
「大好きだよ!ね一也お兄ちゃん」
「翼君・・」
すると瞳の口から意外な一言が。
「いいよ!デートしても」
「ああ・・えっ!?」
「だからデートしてもいいって言ったの」
「ウソ!?」
「瞳、よく言ったぞー!」私は心の中でそう叫んでいた。
「ロサンゼルス行っちゃうとなかなか会えないからさ。一度くらい付き合ってもいいかなって」
「良かったね和久井くん・・ん?」
和久井くん、飛び上がって喜ぶのかと思ったら、もしかして泣いてる?
「なに泣いてるのよ!」と瞳。
「一也、ここって泣くとこか?」
「うるさい!」
「人間、本当に嬉しいときは涙が止まらないんだよ。なあ一也君」
皆を送り届け、俺達もマンションまで無事たどり着いた。一也は瞳の家の前で一緒に降ろしてやった。
今ごろデートの打ち合わせでもしてることだろう。
「あーあ、疲れたー!」
俺は大きく背伸びをした。すると
「蘭、背中に何か書いてあるよ」
「はあっ?背中」
「ここ、ここ!」
翼は俺の腰辺りに指を触れた。そこはさっき、かゆくてかゆくてたまらなかったとこ!
「ふふふっ」
「理奈お姉さん見てよここ」
「ホントだ!」
「えっ!蘭、何て書いてあるんだ?」
「ラン」
「はあ?」
「だからランって書いてあるの!」
「そんなバカな」
俺はおもいきり身体をひねって、なんとか腰のところに視線を向けた。
「あっ!!」
「ねっ!!ホントでしょ」
そこには白くくっきりと『ラン』という字が。
これが誰の仕業なのかはすぐにわかった。
クスクス笑いを必死にこらえようとしてる・・理奈ちゃんだ。
蘭君、私だって気づいてるよね!ホントは『ラン』じゃなくて『リナ』にしたかったけど、今回はこっちにしておいたよ!