唇奪いましたか?
夜中、俺はふと目がさめた。小さな豆電球の明かりの中、俺の右隣では一也が、そして左には翼がすやすやと寝息をたてている。
その隣には理奈ちゃんと瞳が・・。
いったい今何時だ?
俺はそんなことを考えながら、喉のかわきを潤そうとクーラーボックスを開け、適当に缶を取りだしゴクリと一口のんだ。この味は多分リンゴジュースだな。
すると、薄明かりのなか何かが動く気配がした。
「・・蘭、トイレ」
「うっ!・・なんだ翼か、脅かすなよ」
「・・・」
「おい翼!?」
完全に寝ぼけてるな翼のやつ。それでもちゃんとトイレの場所はわかったらしい。
翼と入れ違いで、ついでに俺もトイレしとこーっと。
部屋に戻ると翼はすでに布団のなかのようだ。
しかし、なにかが変だ!?
布団にそーっと近づくと・・あっ!翼のやつ俺の布団で寝ちゃってるよ。
このまま知らん顔して理奈ちゃんの隣に潜り込もうとも思ったけど、後が大変だからなあ。
「おい翼、起きろよ。そこは俺の場所だぞ!おい翼・・」
「・・・」
だめだ!完璧に眠り込んじゃってる。
仕方ないな・・
俺は息を殺し、そーっと理奈ちゃんの隣の布団に潜り込んだ。
手を少し伸ばせば、理奈ちゃんの体に触れてしまうそんな至近距離!
俺は呼吸を整えてから、天井を向いている自分の顔を理奈ちゃんの方に回転させた。
「えっ!!」
眠っているとばかり思ってた理奈ちゃんは、顔をこちらに向け、パッチリと目を開けていたのだ。
「理奈ちゃん、起きてたの?」俺はヒソヒソ声で聞いた。
「・・・」
「ん?」目は開いてるけど反応がない。
その時だ。理奈ちゃんの口がわずかに開き、何かを発声しようとしている。理奈ちゃんのその顔は、まさに恐怖と驚き。
「キャ・・・」
俺はとっさに理奈ちゃんの口を手のひらで押さえていた。セーフ!大声で叫ばれろところだった。
「理奈ちゃん!」
「・・蘭君」
「はあっ助かった」
「蘭君何してるの?」
「いや、あのー・・変なこと考えてた訳じゃなくて・・」
「うふふ。そんなのわかってるよ」
「それはどうも」
俺は翼のことを理奈ちゃんに説明した。
「ふーん、翼君がねー・・」
「ホントだよ!」
「でもこんな近くに蘭君がいてくれるなんて・・」
「うっ」
俺はその理奈ちゃん一言で、やっと今の状況を把握することができた。俺は今、理奈ちゃんの隣で、こんなにも至近距離で、枕もくっつきそうで・・。
その時俺の鼓動はMAXをとうに超えていたのだった。
「翼君、起こすのやっぱりかわいそうだから、このままの方がいいよね」
「そ・そ・そうだね」
「でも嬉しいな」
「う・うん」
「蘭君、手を出して」
「ん?どうしたの」
俺がごろごそっと左手を布団の上に出すと・・理奈ちゃんの右手がそっと重なってきた!
「・・・」
ヒィー!!
やっぱりこういうときって女の子の方が大胆だ!?
「蘭君、瞳のことなんだけど」
「瞳がどうかした?」
「和久井くんて瞳のことが好きじゃない!」
「ああ」
「瞳も和久井くんのことが大好きなのよ!」
「えっ?そうかなあ・・」
「そう絶対!瞳ああいう性格でしょ。なかなか伝えられないのよ自分の正直な気持ちを」
「うん」
「ロサンゼルスに行っちゃう前にさ、なんとか瞳が気持ちを伝えられるように協力してあげたいんだけど・・お節介かなあ・・」
「ん・・でもどうすればいいんだ?」
「・・・」
「なかなか手ごわいぞ瞳は」
「・・・」
「理奈ちゃん・・」
「スー、スー・・」
理奈ちゃんのかすかな寝息が聞こえる。
どうやら眠っちゃったようだ。
俺の手の上には、理奈ちゃんの手が重なっている。テレビドラマだとここで・・いやいや、それはできないな。
このままの格好で朝を迎えたら、瞳や一也に冷やかされるだろうな。
でもいいや!
俺はそのまま静かに目を閉じた。
おやすみ理奈ちゃん。
目がさめると、私の隣ですやすやと蘭君が眠っている。そうだ、夜中翼君のお陰で・・。
まだみんな眠ってるな。
そういえば私、蘭君と話の途中で眠っちゃったんだっけ。
私は静かに布団から抜け出した。
朝陽の時刻はとっくに過ぎ、すでに真夏の太陽の光がカーテンを抜けてくる。
私は窓辺に近づき窓を開けた。真夏のにおいが鼻を通りすぎる。
夜中蘭君と手をつないで、おしゃべりをして・・私の方が先に眠っちゃって、あれから蘭君どうしたのかなあ。
まさか私の唇を・・なんてあるわけないか。そんなことを考えていると顔がほてってくる。
「あーあ、理奈お姉さん、もう起きてたの」
「翼君!おはよう」
「おはよう」
「翼君」
「ん?なに」
「昨夜はありがとうね!」
「えっ?ぼく何かしたかなあ」
「うんん、ただお礼が言いたかっただけよ」・・愛のキューピッドさん。
「ふーん」
蘭君が起きたら聞いてみようかな。
私の唇奪いましたか?って・・。