そこは私の胸よ
お母さんたちは天気を気にしてたけど雨の降る気配は少しもなく、私達もバーベキューの準備を手伝った。
「お母さん、雨心配しなくて大丈夫そうよ」
「そうね。でもゲリラ豪雨ってくらいだから、一応用心しとかないと」
「うん」
空は夕陽で真っ赤っか!
そしていよいよかまどに火がはいった!バーベキューのスタートだ。
「翼君たち、こっちに来てごらん」
「ん?どうしたの川口のおじちゃん」
「これ何だかわかるかい?」
「ん・・バケツ?!」
「翼、それは飯ごうっていうの。それでご飯を炊くんだよ」
「そうなの!?」
「蘭君よく知ってたね」
「ええまあ。使ったことはないですけど」
「私もないです」
「じゃあ教えるよ。覚えておいて損はないからね」
「はい」
「まずは米をといで水を量って入れる。これはうちで炊飯器で炊くときと同じたね」
「あっはい」
「あとはこれを吊るして火にかけるだけだ。まずはやや弱火で沸騰するまで待つよ。10分くらいかな。湯気が出てくるからすぐわかるさ」
ブクブク・・カタカタッ・・。
「あっ!湯気が吹き出てきた」
「よし沸騰した合図だ。ここからは火力を一気に上げるぞ!」
グツグツグツ・・。
「どのくらいで炊き上がるんですか?」
「そうだね・・15分くらいかな。今度はお米の焦げた良いにおいがしてくる。それが合図さ!」
そして
「ん?なんかお焦げの良いにおいがしてきた」
「ご飯の炊き上がりね!」
「あー、もう腹ペコだ!」
「俺も・・」
「ぼくも・・」
「よし、あとは火からおろして、逆さまにして、10分蒸らせば出来上がり・・こうやってね」
「翼、どうだそっちは?」
「ご飯がもうすぐできるよ!」
「お父さんの方も鉄板がいい感じだ!そろそろ肉を焼きはじめるぞ」
「はーい!」
「この大きなステーキ肉は、川口さんからいただきました!こんな大きな肉の塊からたった今切り分けてもらったのよ」
「どうぞ遠慮なく召し上がれ」
「ありがとうございます!」
「うわー!こんなでかい肉見たことないよ」
「ほんとね!それに美味しそーう」
「野菜スープもいっぱい作っていただいたからね!」
「はーい!」
「川口さん、何から何まですみません」
「いいえ。皆さんが喜んでくれるなら私も嬉しいですよ」
ジュー、ジュー
「よーし焼けたぞー!」
「わーい!」
「いただきまーす!」
「いただきまーす!」
「うまーい!」
「おいしーい!」
「お肉ばかりじゃなくて野菜も食べてよ」
私達は夢中で肉を口に頬張った。
「ふー、腹一杯だー!」
「私も」
「俺も・・もう入らないや!」
「ん?・・翼、まだ食べてるのかあ」
「だって美味しいんだもん」
「すごい食欲ね!翼君」
「あとで腹痛いなんて言うなよ」
「うん大丈夫!」
「翼のやつ俺より食ってるよ」
「うふふっ」
すっかり日も沈み、私達はキャンプファイアが行われる広場に向かった。
中央には木材のタワーが、点火のときを静かにまっている。
私達の他にも大学生くらいの男女7~8人が、同じキャンプファイアの炎を今か今かと待っている。
「雨、大丈夫そうですね」
「ええよかったわ!」
さあいよいよだ!係りのひとがタワーに炎を点火した。
「なんかワクワクするなあ!」
「うん」
小さな炎はみるみるうちに大きな火の塊になり、夜空を天高く照らしていった。皆の顔も炎に照らされ揺れている。
♪燃えろよ燃えろよ 炎よ燃えろ
火の粉を巻き上げ 天まで焦がせ♪
「一也、そろそろ頼む」
「ああ」
「しっかりね!和久井くん」
「田村瞳さん!」
「ん?・・何よ突然」
「ええ、今日のこの旅行の本当の目的は、もうすぐロサンゼルスに行ってしまう瞳の為にみんなで話し合って企画したものです」
「えっ?」
「今まで遊んだり勉強したり、仲良くやってきたけど、これからは会おうと思っても簡単には会えなくなってしまう。だらその・・・」
「・・・」
「一也!」
「一也兄ちゃん!」
「・・これからも俺たちはずっと友達だし、瞳の味方だ!それでその・・」
「・・一也、ありがとう!みんなもどうもありがとう。とっても嬉しいよ。外国なんて初めてだし不安はあるけど、私にはこんな素敵な友達がいるんだもんね!向こうにいっても精一杯頑張るわ」
「フレーフレー瞳お姉さん!」
「ありがとう!翼くん」
「俺・・」
「えっ?」
「俺・・」
和久井くんが何かを言おうとしたその瞬間だった。積まれていた木材の一画が急に崩れ、火の粉が舞い上がった!
「熱いっ!」
舞い上がった火の粉が、私のTシャツの胸の辺りを小さく焦がしている。
私は驚いてしまい、焦げていくTシャツをただ見つめているだけ。
「あっ!理奈ちゃん」
私の異変に気づいた蘭君。その時だ!
蘭君の左手が私の右の胸に強く押しつけられた。
もちろん蘭君は、焦げるTシャツを必死に消そうとしてくれたんだけど・・。
そこは私の胸!
蘭君と私はお互いを見つめたまま、呼吸も止まった。
何秒間そのままだったのだろう・・。
「蘭、理奈、何してるの!?」と瞳の声。
「うっ!」
「あっ!」
さっき着替えるとき、鏡を見たら私の頬は太陽の日差しのお陰で真っ赤だった。
きっと今は、もっともっと真っ赤かだね。
蘭君、そこは私の胸よ!
ポツッ、ポツッ・・。
「冷たっ!」
私の火照った頬っぺたに、今度は冷たいものが触れてきた。
すると突然
ザーッ!!
激しい雨だ。
「キャンプファイアはこれにてお開きにしまーす!皆さん急いで宿に戻ってください」
ゲリラ豪雨。
私達は急いで荷物をまとめ宿に。
「理奈ちゃん行くよ」
「うん」
「翼行くぞ」
「はーい!」
蘭君の左手が、今度は私の右手を掴んだ。
右手には翼君。
私達はそのまま駆け出した。