正真正銘の男子
「そういえば今日転校生が来るんだ」
「こんな時期に?!バタバタして大変ね」
「うん」
「男の子、それとも女の子?」
「女子だよ!」
「あら!かわいい子だといいわね」
「どうかな・・じゃあ行ってくるねー」
俺の名前は佐藤蘭。中学2年、正真正銘の男子である。
俺の通う中学に、今日転校生がやって来る。まあ、ほとんど興味は無いが、ブサイクな娘よりはかわいい娘の方がいいに決まっている。ちょうど俺の隣の席が空いている。新しい娘は俺の隣に着席するはずだ!
「蘭!」
そう俺を呼び捨てにするのは和久井一也。頭はいいが超スケベ!小学校からの悪友だ。
「駄目!」
「なんだよ、俺まだなにもいってないぜ」
「席を替われって言うんだろう!」
「あれ?なんでわかっちゃった」
『ガラガラ~』
担任のミス横山が入ってきた。後から転校生が。
「起立・・おはようございまーす」
「昨日も話したと思うけど、今日から新しいお友だちが増えます。じゃあ、自己紹介をしてもらいますね・・」
「はじめまして!安藤理奈と言います。今日から宜しくお願いします」
「えー、安藤さんは北海道からこの町にやって来てくれました。色々わからないことも多いと思うので、みんな助けてあげて下さい。じゃあ席は、蘭の隣が空いてたわね!」
「くそー、蘭のやつ・・」
髪は超ショート。
肌が白い!
スラッとした体型。
メガネが似合わない!
勉強が出来てスポーツ万能?
世間に疎い!?
電車に乗ったことなし?
ラーメン屋に入ったことなし?
もちろん彼氏なし!
もちろん独身!
以上、俺の第一印象。
「安藤理奈です。宜しく」
「俺、佐藤蘭。宜しく」
「俺、和久井一也。宜しく」
「こら一也!席に戻って」
「ちぇ」
休み時間や昼休みには、女子たちが理奈ちゃんを囲み、男子の侵入を許さなかった。
「蘭、今日は部活無しだろう。一緒に帰ろうか!」
「うん!」
俺達が帰り道を歩いていると
「あれ!前を歩いてるの理奈ちゃんじゃないか」
「そうかな?」
「あの体型にショートカット!間違えない」
「うん・・」
「あっ真っ直ぐかあ・・俺の家は左だもんなあ!蘭、ちゃんと送ってやれよ。じゃあな」
そう言い残し一也は行ってしまった。
確かにあの後ろ姿は理奈ちゃんだ!だけど、いきなり並んで歩くのも変だよなあ・・。どこまで帰り道が一緒なんだ・・?ああ、うちのマンションが見えてきちゃったよ。俺の家より遠いのか・・ん?・・そこはうちのマンションだぞ。ウソっ?!
俺は思わず駆け足になった。
「あの・・」
「あっ佐藤君!」
「あの・・ここ俺の家だよね!?」
「えっ?」
「俺ここの205号室」
「私は305号室」
「お隣さん、じゃなくて上下さん!?」
「みたいね!」
「ただいまー・・。えっ!母さん知ってたのかよ?」
「うん、引っ越しのご挨拶に見えてね。その時に蘭と同級の娘さんがいるって・・」
「そうなんだ」
「少しぐらい話しはしたの?新しい子と」
「ああ、帰りが一緒だった」
「えっ?!」
「仕方ないよ。同じマンションなんだからさ」
「それもそうね」
次の日
マンションを出て学校に向かおうとしたら、前に理奈ちゃんが歩いていた。その時俺は慌ててマンションに逆戻り。
「蘭、忘れ物?」
「うん、ちょっとね」
一緒に登校するのはちょっと気が引けた。なので用もないのに家にまいもどって時間稼ぎ。
「蘭、何か探し物?早くしないと遅刻するわよ!」
「わかってるよー」
なんとか理奈ちゃんには会わずに学校に到着だ。
「おはよう」
「蘭、遅かったじゃんか!」一也だ。
「ああ、ちょっとね・・」
「佐藤君、おはよう」と理奈ちゃん。
「おはよう」
「おい蘭、昨日はちゃんと理奈ちゃんを送ってやったのか?」
「まあーね」
「まーねって、本当に送っていったのか?」
「送っていったと言うかなんと言うか・・」
「はっきり言えよ!」
「同じマンションだった!俺と理奈ちゃん」
「はあ・・?なにそれ」
「蘭君、理奈と同じマンションってホントなの?」
やって来たのは田村瞳。こいつも小学校からの幼馴染みだ。
「聞いたのか?」
「うん、偶然ってあるものね!」
「そうだな」
家は上下で席は隣同士。確かに恐ろしいほどの偶然だ。
俺はサッカー部。一応籍だけは・・。隣では女子サッカー部が練習中だ。残念ながらうちの中学、男子より女子の方がサッカーは強豪なのだ!
その時だ。女子の中でもひときわ華麗なドリブルをする選手がいる。しかもメチャクチャかわいい!
「あっ!理奈ちゃん」
「コラー!佐藤、何ボケッと突っ立ってる。真面目にやれ」
コーチに見つかった。
「はーい!すみません」
やはり俺の勘は当たっていた。スポーツ万能!それであんなに髪が短いのか・・。あっ、そういえばメガネをしてない!・・コンタクトしてるんだろうか?!メガネがないと全然顔が違う。
練習が終わって着替えをしていると、俺の名を誰がが呼んだ。
「佐藤君!」
俺のことはみんな蘭って呼ぶ。佐藤君なんて呼び方をするのはただひとりだ。
「佐藤君もサッカー部だっのね!」
「ああ、まあこっちは弱小チームだけどね」
「そんなことないでしょう?!」
「それにしても、理奈ちゃんドリブルが上手だね!」
「見てたの?恥ずかしいなあ」
「すごく上手だ」
「小学校からクラブに入ってたから・・」
「それでかあ!」
「部活終わりでしょう。今日も一緒に帰っていいかな?」
「えっ!」
ドキ・ドキ・ドキ・・。
「うん」
『下校の時間です。気を付けて帰ってください!』
放送部の人たちだ。このあといつも音楽が流れるんだよなあ・・。
「お待たせ!」理奈ちゃんだ。
「ああ・・」
『♪♪♪・・・』
「あっ!コンドルは飛んで行く」と理奈ちゃん。
「えっ?」
「今かかってる曲よ!私このメロディーが好きなんだ」
「ふーん」
「いつもこんな風に曲が流れるの?」
「うん。放送部の人たちがやってるんだ!」
「なんかいいなあー・・」
「あっ!メガネ」
理奈ちゃんはまたメガネをかけている。
「これは伊達メガネ」
「そうなんだ」
「視力は両方とも1.5」
「じゃあ、また明日学校でね!」
「うん」
俺は一気に部屋に駆け込み、スマホを握った。
『コンドルは飛んで行く』・・"検索"
あった、この曲だ!サイモンとガーファンクル・・?!
♪♪・・。
『伊達メガネ』・・"検索"
実際はかける必要のないメガネ・・。
俺何やってるんだ!?
「サイモンとガーファンクル・・」
「蘭、随分と古いこと言うのね!」
「母さん知ってるの?」
「うん、名前くらいはね!お父さんの方が詳しいわよ」
「サイモンとガーファンクルかあ・・サウンドオブサイレンス、明日に架ける橋、コンドルは飛んで行く。1960年代だから、父さんの生まれる10年以上前に活躍したアメリカのフォークディオ、つまり二人組だ」
「そんなに古いんだ!」
「サイモンとガーファンクルがどうかしたのか?」
「うんん、別に」
なんでそんな古い曲が理奈ちゃんは好きなんだろう?やっぱりお父さんが聴いてたりするのかなあ・・。
「おやすみ」
この上の階に理奈ちゃんがいるんだよな。部屋の作りは同じはずだから、もしかしたら俺の真上に理奈ちゃんが・・。
「蘭、何ひとりでニヤニヤしてるの?」
「こら、勝手に入ってくるな!」
俺の部屋に無断で入ってきたのは弟の翼だ!俺とは5才違い。まだまだガキなんだけど、やたらと俺の後をついてくるんだよな・・。
「もう寝なくちゃ駄目だろう!」
「蘭だって寝てないじゃん!」
「じゃあ、ちょっとだけゲームやっていいよ」
「やったー!」
「静かにな・・」
さあ、明日も学校だ!