平和すぎる 駆除作業
どれだけ歩いても、出てくるのはスライムばかり。
もう、弓は全然使ってない。
詠唱が面倒くさいから弓を買ったのに、魔法ばっかり使ってる。
じゃあ何で魔法をもらったのか?決まってるじゃないか。ロマンだ。
でも、メインで使うつもりはなかった。だってRPGやってたら真っ先に死ぬから。やたらと魔法職の死亡率が高く、パーティ内でいつも一番の低レベルになっていた。まあ、自分の使い方が悪いのかもしれないが。
純粋な魔法使い=死亡フラグ。これがあたしの方程式。
ちなみに魔法は、イメージしたら呪文が頭の中にふっと出てきた。
女神、やるね。
あと、魔法を使うと何かが抜けていく感覚がはしった。きっとあれが魔力だろう。MPとか見えればいいのに。
「ルイはどんな魔法が使えるんだ?」
メリダさんにプロジェクターを見せる。
今思えば「プロジェクター」って変だ。装置なんだから。この場合腕輪を見せることになる。
というわけで、これからは「データ」ということにしよう。
「結構たくさんあるんだな。 属性が全部そろってるぞ」
「えへへ」
そりゃ、女神にもらったから。当たり前です。
「でもこれだけ使えるのに全部初級魔法だな」
「……え」
嘘だろ……。爆発とか爆撃とか爆散とかないわけ!?エクスプロージョン!とかできないの?
名前が英語なのには突っ込まないでいただきたい。さんざん突っ込みすぎて疲れたのだ。
あたしボケ役なのに……ここに来てから脳内ツッコミしかしていない。
「ひ、広く浅くやりすぎましたかね」
「いや、いいんじゃないか? 才能があるということだし。 これから次第で上級だってできるだろう」
あたしの予定では今の時点で使えるはずだった。そもそも魔法ってどうやって覚えるのか知らない。
女神、あいつケチりやがった!許すまじ。
「来たぞ」
「あ、はい」
メリダさんの指の先には、緑色のうねうねとした―――芋虫?
「ジャイアントキャタピラーだ」
なんで英語!?
てかジャイアントって何!きしょい!!
うちの冷蔵庫ぐらいの大きさがある。つまり、あたしよりでかい。
ジャイアントってつければ許されると思うなー!!
心行くまでツッコミを堪能。もうどうとでもなれ。
「あれ、成長したらどうなるんですか?」
「手におえない」
……帰りたい。三匹いるし。嫌だ。
今日はでっかい蝶と戯れる夢が見れそうです。
ちょっと涙目になっている気がする。
「成長するのに十年はかかるし、気性も穏やかだからな。 『駆除』だ」
そう言って、勢いよく駆けていく。真っ赤なポニーテールを揺らしながら、無駄のない動作で切り裂いた。
かっこいい!かっこいいけど吹き出す緑の液体がきしょい!
「向こうの一体、頼んだ」
「はい!」
やっと弓の出番だ。汚れないために遠距離攻撃を選んだのだ。だって前衛職怖いし。
狙うは頭部。狙いを定めて射抜く。動かない獲物を射抜くのはとても簡単だった。
距離も試し打ちの的ぐらいしかなかった。
メリダさんのほうを見ると、彼女はもうすでにもう一体のほうも片付けていた。
「よくやった」
「ありがとうございます」
芋虫に近寄って矢を引き抜く。
いやああ……緑の液体がああ!
水魔法と風魔法を連続行使。これで矢は再利用可能だ。
うん、メンタル的にはよろしくないけどお金がない。
「すごいな」
「何がですか?」
せこいってか?せこいって言いたいのか?
「魔法をほとんど間隔をあけずに使えるなんて、才能あるんじゃないか?」
「そうなんですか?」
ほめられたよ。
あたし、被害妄想気味でした。
「うん、あんまりいないな」
「へえ」
まあ、想像力は人一倍たくましいからね。妄想力ともいう。
……それにしても矢が臭う。
「芳香〈ミント〉」
大地の属性初級魔法だ。魔力も安い。
これであなたも香水いらず!ってどこで使えというんだ。と、見つけた時はそう思った。
大地の属性だけあって、自然界にある物の香りしか出せない。
うん、ラーメンの香りとか空腹時にやられたら拷問だよね。香辛料の組み合わせで何とかなりそうだけど。
いや、やるなよ自分。
「で、この死骸、どうしますか?」
「放置だ」
「え?」
だめでしょ。腐ったらどうするの。絶対なんかよってくるよ。焼却処分しようよ。
「スライムとジャイアントキャタピラーだけじゃ物足りないからな。 死骸はいい餌になる」
おびき寄せるつもりでだろうか。
芋虫を食うものとはなんだろうか、と思いを巡らせる。想像してあたしは青くなった。
「怪鳥的なの来るんですかっ……」
サイズ的にいろいろやばい。逃げていい?
「いや、怪鳥はグルメだからな。 こんなゲテモノは食わない」
「あ、そーですか」
あーよかった。って怪鳥いるのかよ!
どうしようまたツッコんでしまった。
では、怪鳥は何を食うのか、なんてことは聞けない。メリダさんはどこまでも詳細に語ってくれそうだ。
「じゃあ何が来るんですか?」
「鳥」
「はあ」
芋虫の死骸に鳥がたかってるのを想像してしまった。
いやああああ……。なんかカラスしか想像できない。
悶えながらも隠れて待っていると、鳩のような鳥が群れでやってきた。
「今だ」
「はい!」
狙いをつけて
一羽目。バシュッ。
敵に気付き、群れはあわただしく飛び立って行く。
二羽目。ビュシッ。
狙いをつけたにもかかわらず、矢は羽をかすっただけだった。
もう一度。
ビュンッ。
三羽目は、かすりもしなかった。
あたしの放った矢はしっかりと狙いどうりに進んだ。しかしそれが射抜く寸前に、矢を上回る速さで鳥はよけたのだ。
「何あれ……」
「ローチクという鳥だ。 危機を察知すると瞬発的に速くなるんだよ。 まさか本当にあてるとはね」
胴体に刺さった一羽目はもちろん、羽をかすっただけの二羽目も落下の衝撃で死んだようだ。
矢は二本とも折れてしまっていて、再利用は無理だろう。
チートでも百発百中は無理なのか。
「仕留めにくいからね。 高級品だよ。 調達系の依頼が出ていると思う」
「調達系って最初に受理してないとダメなんじゃ?」
違う人が依頼を受けてしまうと、無駄足になってしまう。
「基本的にはそうだけど、ローチクは人気だから。 同じ依頼でたくさんあるよ」
……食べたい。
「二羽あることだし、食べてみるか?」
心を見透かされたようだ。
「いえ、いいです」
しかしあたしは首を振る。
一刻も早く、借金を返済したい。
それに明日着る服だって買わなければならないのだし。
「そうか」
日はもう、西へ傾いている。
報酬がいくらになるか、楽しみだ。
あたしは少し浮かれながら、コルスの街へ帰っていった。
「ふぇ?」
思わず間抜けな声が出てしまう。
「ですから、こちらが佐倉さんの今回の報酬です」
手渡されたレシートのようなものに、おそるおそる目を向ける。
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〈駆除〉
スライム小 ×7 700テル
ジャイアントキャタピラー ×1 400テル
〈調達〉
ローチク(状態 良) ×2 4000テル
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計 5100テル
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「よかったじゃないか。 二日は暮らせるぞ」
メリダさんは皮肉を言っているのではないのは分かっている。
「メリダさん……」
あたしの認識が甘かっただけ。
「……安い宿、紹介してください」
――――新米冒険者は儲からない。
チートは、使っていくうちにだんだんと体になじんでいく仕様になっております。
弓師無双までしばらくお待ちください。




