むなし過ぎる スライム駆除
あたしは今、腕輪のプロジェクターで依頼を確認しながら道を歩いている。
道と言っても、「街道」と呼ばれる整備された道で、舗装こそされていないが平らでとても歩きやすい。めったに魔物も出ないそうだ。
「そういえば、クエストを受理しなくてよかったんですか?」
「駆除系のクエストは、年中発注されてるしね。 倒してから依頼を受けるという形が主流だ。 まあ駆除など限られたやつでしか使えない手なんだけど」
キャンセル料を払わないための術らしい。
それにしても駆除って……ゴキブリかよ。討伐と言ってください。夢もロマンもあったもんじゃない。
ちなみに倒した云々は腕輪に記録されるらしい。真剣に中世ヨーロッパ風を撤回しようと思う。
あたしはクエスト一覧を眺めて、あることに気付いた。
「薬草採取とか、ないんだな……」
何気ない呟きだったが、それを聞いたメリダさんにものすごく怪訝な顔をされた。
「薬草なんて自分で育てたほうが安全で効率もいいじゃないか」
「あ、そうですね」
言われてみればそうだ。
これはゲームじゃないんだな。RPG好きとしては物足りなくもある。
とはいっても、無いのはこの辺が危険ではないからで、場所によってはあるらしい。初心者にはできそうにもない。
「そろそろ街道から外れるぞ」
メリダさんが左を差して指示を出す。
「はー……いっ⁈」
ぐにゅり。
足を踏み出した瞬間、何とも不快な感覚が足の裏から伝わる。
恐る恐る目を向けると、半透明なゼリー状のものを踏んでいた。
「げ……何これ」
ちょっと後ずさり。いや、だってきしょい。
「ああ、スライムだな」
メリダさんの声には何の感情も乗っていなかった。
「す、スライム?」
これが?
青くてかわいらしい形状などしていない。ついでに目もない。
あたしは砂浜に打ち上げられたクラゲの死体を思い出した。サイズが段違いだけど。
メリダさんは淡々と剣を抜き、真っ二つに切る。きっとこれがオーバーキルというやつだ。
真っ二つに切られたスライムはだんだんと動かなくなり―――
―――分裂した。
……あ、はい。単細胞生物ですね。了解しました。
「と、このように、スライムは分裂する」
はい、メリダ先生の青空教室。ありがとうございました。
メリダさんは剣を持っていないほうの、左手を振りかざした。そして短く詠唱。たぶん呪文だ。
「火球」
拳大の二つの火の玉が、スライム×2を焼き尽くす。
「というわけで、スライムに出会ったら魔法だ」
はい、スライムに物理攻撃は聞かないと覚えておきます。
「スライムは基本的に無害だが分裂したり、合体したり、繁殖したりと、とにかく邪魔だ。 見つけ次第駆除するのが冒険者の掟だな」
ああ、もちろん魔法が使えるやつ限定だ。と付け足される。
……なんて駆除という言葉が似合うのだろうか。
ちなみに討伐料は、サッカーボール大のスライム一匹につき百テルだとか。
安っ!!
ご都合主義なところが多々あるかと思います。できるだけそうはならないように気を付けてはいますが、深く考えないで頂けるとありがたいです。




