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無題  作者: さちはら一紗
招かれざる 訪問者
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青息 吐息





結局ネルルは見失ってしまった。代わりに、ネルルを追ってレスカと迷子になった。また迷子だよ。あたしとレスカがどれだけ注意力散漫か見て取れる。

完全に海の方向へ戻って来てしまったようだ。人気(ひとけ)が感じられない。

ラオ、ごめん。お願いします、探して下さい。


「あ」


ラオの代わりに、一希とマリエッタに鉢合わせた。


「よー」


一希が手を挙げる。来たな、懸念その二。


「あら、レスカじゃありませんか」

「……チッ」


おい、なんか舌打ちが聞こえたぞ。やめなさい、ローカル聖女。

面白そうなので、レスカをマリエッタに引き渡す。レスカは小声で、「おぼえてろぉ……」と伝えていた。レスカの素って、ですますじゃないのかな。話し言葉だけとか。

マリエッタがあたしに向かって、にっこりと会釈した。ありがとう、という意味だろう。


「ふふ、相変わらずレスカは可愛いですわね」

「マリエッタこそ、まだ瑞々しさは損なわれてないようですね。 でも、紫外線には気を付けないとダメですよ? お肌に悪いですからね。 シミがでちゃいます」


訳:おい、行き遅れ。若作りも大概にしろ。つーか外なんか出るな。俺の前に現れんな、ババア予備軍。


どうしよう、あたしエスパーだ。レスカの考えていることがわかったよ。レスカ酷い。


「なあなあ、なんか変な空気なんだけど」

「一希が空気読むとか生意気」

「何故にっ?!」


一希が大袈裟に仰け反る。うぜえ……。


「てかルイ、お前何してんだ」

「催眠術」


あたしは一希の目の前で指をぐるぐると回していた。


「記憶の改竄を目論み中」

「今すぐやめて?!」


洗脳には洗脳で対抗するしかないと思う、うん。

が、いつまでたっても一希に変化が起きない。「起こるわけねー!」と、突っ込まれた。仕方ないので、修羅場観察に入る。

ポニーテールにセーラー服のレスカは、どこか異質だった。


「私がどれだけ心配したと思っていますの?」

「ウフフ、マリエッタに心配されるなんて私は贅沢者ですねー」


清々しいまでの棒読み。


「そんな逃げないで下さいな。 私、悲しいですわ。 ずっと話したいと思っていましたのに」

「私はマリエッタに会えて嬉しいです」


『私は』と『マリエッタ』の間に、『悲しむ』が抜けている。


「ああ、貴女が無事で良かったですわ」

「この惨状で無事と言えるマリエッタの脳内辞書はどうなっているんですか」


最後は包み隠さずの本音。どうやら面倒臭くなったらしい。

マリエッタが、そっとレスカを抱きしめた。


「……やめて下さい」

「やめませんわ」

「胸部が本当に嫌味です。 破廉恥です。 自慢しないで下さい」

「あら、欲しいのですか? 分け与えられたらよかったのですけど」

「わかりました、削いでいいですか?」


あたしはレスカの脂肪を削いでいい?

レスカよりマリエッタの方が大きいのに、レスカの方に殺意が湧くのは、何故だろう。人望か。人望だな。マリエッタが高いのではなく、レスカが低いほうで。


「レスカは素直じゃありませんね。 私、今でも貴女のことを妹のように思っていますのよ?」

「私もマリエッタのことが、年の離れた大きな大人のお姉さん的な何かのような気がします」


レスカの引きつった笑顔に比べ、マリエッタは柔和な女神の微笑みだ。あ、この女神は固有名詞じゃないほう。例えだ。アフロディーテ的な何かだ。大人の余裕ってヤツか。


「ルイ、帰りましょう!」


いや、帰りたくても道がわかんないんだよ。


「――逃がしませんわ」


レスカの周りに、キラキラと光が降り注ぐ。淡い光を放つ魔法陣が、レスカの頭上に現れていた。

〈ターンアンデッド〉込める魔力量、術師の力量に対して最強にも最弱にもなり得る魔法。もちろんアンデッド系に限り。

カインの使うものより一際大きく複雑なそれは、既に完成されていた。

レスカはちらりと一瞥し、腕を一振りする。ぼろり、と光を失い、陣は崩れた。


「私にそんな手が効くとでも?」

「あらら、見抜かれてましたのね」


マリエッタが悪びれもせずに言う。

女って怖い。


「折角浄化して差し上げようと思いましたのに」

「余計なお世話です」


両者の間に視線の火花が散った。

そして状況についていけない勇者様が一人。


「なあ、」

「うん?」

「ミレニア流ジョークって、過激だな」

「……そうだね!」


一希はなんて純粋なんだろう。まあ、普通レスカがアンデッドだなんて思わないよな。生者よりもよっぽど活きがいいのだから。


その後、ラオがレスカを引きずって、帰ることが出来た。

今思えば、〈探索(サーチ)〉を使えばよかったのかもしれない。時既に遅し。







                   ◆◇◆







夜半、唐突にレスカが「外、行きませんか?」と言い出した。

丁度、このまま寝るのは物足りないと思っていたところだったので賛成の返事を返す。夏の夜独特の空気は、中々いいものだと思う。

そんなわけで、現在地は夜の砂浜だ。


「いや、繁華街に繰り出すとかよりは健康的だけど」


昼間、レスカは目一杯泳いだじゃないか。


「あたし、防具も何もないんだけど?」

「奇遇ですね、私もです」


レスカは薄っぺらいワンピース一枚に、いつものロッドだ。


「いや、ていうか武器もナイフとクロスボウしか持ってないし」

「十分じゃないですか」

「どこが」


矢も十本程度しか入れてない。

 海だよ?夜でも普通にクラゲ出るよ?灯りないよ?〈暗視(ナイトアイ)〉掛けてるからいいけどさ。無防備にもほどがある。しかも足元はサンダルだ。


「いざとなれば、魔法を使えばいいじゃないですか」

「レスカの魔力倉庫になってから、自分で使えるやつがかなり少なくなってんの」

「そうなんですか?」

「必要な時だけ吸われる感じだったのが、完全に七割ぐらいレスカの所有物って書き換えられて、手が出せない感じ」


魔術師シフトの道は閉ざされた。


「ああ、最近調子がいいと思ったらそれだったんですか」

「最大MPがレスカに吸われるんだと思うよ」

「えむ、ぴー? ……んーと、前に言ってたやつですね」


元々自分のものじゃないからでもあるだろう。どうせ初級しか使えないし、どうやら人並みにはあるようだから不便ではないが。魔術師も治癒師も兼任しているレスカが持っていたほうがいいと言える。


「む、そろそろ繋がりを切ったほうがいいですかね」

「いいんじゃないかな」


これ以上減るのはちょっと困る。

自分で古代魔法に干渉してから、あたしの魔力がレスカのものになった感覚がある。不用意に触れるものじゃないな、あれは。


「と言うか、ルイは街に行くと思っていたんでしょう? なんで武器仕込んでるんですか」

「レスカの側は、常にイベント発生中だから」

「失礼なっ! 私がトラブルメーカーとでも言いたいんですか!」

「え……違うの?」

「こんな善良で日頃の行いのいい、運に愛された人間ですよ!?」


いや、アンデッドのカルマ値が高いわけないから。


「まあ、後半嘘ですけど」


前半は否定しないんだね。


「レスカ、幸薄そうだよね」

「美人薄命ですね」

「黙れ死刑囚」

「聞き捨てなりませんねっ! 言っときますけどそれ、デマですから!!」

「……え、うそ」

「それもミステリアスでいいかなー、と否定はしていませんでしたけど」


普通にミステリーだよ。


「てか今したじゃん」

「『死刑囚』は流石にいただけません」


まあ、分からんこともないな。


「じゃあ首、どうしたの」

「普通に?」


レスカが親指を首の前で引く。


「首チョンパに普通も何もないから!」

「少なくともギロチンはお目にかかったことないです」


言われてみれば、レスカの接続痕は少々歪だ。ギロチンだったら、もっと綺麗になっているか。


「まあ、異端者には変わりありませんでしたからねー、上はそういうことにしておきたかったのかもしれません」


そう言って、不気味な角度の笑いを作った。


「レスカ、すっごくサマになってる」

「よ、喜んでいいんですかそれ!? 微妙過ぎですっ!」


あれ、もしかしてうちのメンバーは全員悪役ポジション?

いや、ラオは違うか。



「そうそう、レスカ、平気なの?」

「何がですか?」

「いや、日光沢山浴びてたし、マリエッタに浄化されそうになったし」

「ふふん、あの程度でおめおめやられる私じゃないです」


レスカが得意気に言う。


「古代魔法と神聖魔法は親戚さんですから。 書き換えなんて造作もないですねっ」

「の割りには焦ってたよね……」

「な、な、何を根拠にっ!」


今どもったことが根拠。ではなくて、


「頑張って格好つけていたみたいだけど、膝が笑ってたよ」

「なーーー!」


レスカが身をよじる。顔が赤くならないのが残念だ。朱に染まったとしても、暗くて見えないのだろうけど。


「だ、だ、だってだって、本能的には結構怖かったんですっ! 向けられて始めて怖さがわかったんですっ!!」

「そっかそっか」

「私はまだ浄化されたくないんですっ」

「なんで?」

「え……」


レスカが考え込む仕草を見せる。


「あれ? なんででしょう」

「おい」

「いえ、未練は生前に絶った筈なんですけど……なんでアンデッド化してるんでしょうね? 矛盾発見です」


レスカはそれでいいのだろうか。意識が残っているぐらいだから、やり残したことがあるんだと思っていたのに。


「消されたくない理由をしいて言うなら……そうですね、今が楽しいからだと思います」


そう言って、弾けるような笑顔を見せた。


「レスカがデレた」

「常にですよ」


道理で感動しないわけだ。




「レスカ、話変わるけどさ、」

「何ですか」

「あたし、完全にネルルに避けられているよね」

「そうですね。 ルイを見た途端逃げ出すって相当だと思います」

「はっきり言われると落ち込むなあ」


まあ、嫌われて当然だけどさ。あたしに向かう敵意が明確な形になっていないことが、逆にどう対応したらいいのか悩まれる。


「マリエッタの気持ちがわかったかも」


本気でレスカを心配していたと仮定して。というか、多分そう。


「あ、ならルイが全面的に悪いです」

「重ねたよね。 今、完全に私情と重ねたよね」

「私情が全く挟むことのない人間がいるわけないです」

「人間やめたやつがいうことでもない」

「だから、非論理的なんでしょう?」

「認めるんだ……」

「ここ一番で物を言うのは感情論だと思うんです」

「レスカの過ごす時はいつでもここ一番だもんね」

「超論理的な才女系になんてことを言うんですかっ」

「おいレスカ、ちょっと前の自分の発言を思い出せ」


レスカはにこにこしながら、「きーこーえーまーせーんー」と耳を塞ぐ。あたしは頭を抱えた。




「きゃー! 蟹です蟹!! 大っきいですよ? 食べれますかね!?」

「食べられてしまえ」


斑模様の蟹なんて食うな。

レスカが斑模様の蟹を解体し始めた。あたしは静かに蟹のご冥福をお祈りする。まさかレスカに解体されて一生を終えるとは、蟹も思わなかっただろう。思っていたら、蟹の精神状態を疑わなければならない。


「私、節足動物って結構好きなんですよねー」

「左様ですか」

「あ、虫はやっぱり微妙なので、甲殻類が好きってことにしておきます」

「心底どうでもいい」


しかし、レスカもすぐに飽きたのか元蟹を海に放り、歩き出した。南無南無。仏教でいいのか?と思ったけど、ミレニア教式の葬式を知らないから仕方が無い。


「ルイ、ルイ、」

「ん?」


先を歩いていたレスカがはたと立ち止まり、人差し指で示す。


「『噂をすれば』って、本当だったんですね」


あたしはその先へ、目を凝らした。







                    ◆◇◆







思い浮かべるのは青白く弾ける光、ネルルは一心不乱に詠唱を続ける。その結果は、芳しくなかった。

ネルル本来の適性は、雷魔法の方が上だ。呼吸するように、とはいかずとも一日に数回程度ならばまともに使える筈だった。

安定はしないが連発の可能な水系統とは違い、ネルルが心の底から信頼する切り札。それが、意味を成していない。

苛々ばかりが蓄積される。

魔法が暴発しても被害が出ない場所が、その海辺しか見つからなかったことも、ネルルの不機嫌の一因だった。

波の音さえも、ネルルの神経を逆撫でする。カズキに自分がしていることを知られたくない、その思いがネルルをこの場所に引き止めていた。


「……っ、なんで」


なんで使えない?

いつまでたっても、不発弾のように中途半端な氷塊や水飛沫ばかりが出てくる。


「――〈氷河期(アイスエッジ)〉!」


八つ当たりをかますように、ネルルは魔法を放った。海が次第に凍っていく。周りの環境など、知ったことか。どうせここには魔物しか残っていない。

脱力感、動作が緩慢になる。それらを物ともしない苛立ち。苛立ちが冷め、じんわりと襲いくる虚しさ。

ネルルは首を振り、そっと氷の上に乗った。

脚を動かす。呪文を唱える。

カズキに見限られてしまったら、なんて考える暇は欲しくない。


『最年少』も『首席』も、半分ほどは意味を持たない形式上の物だ。

最年少など、単に入る時期が早かっただけに過ぎず、飛び級した年数で数えれば圧倒的に劣っている。

首席も、ネルルの学部で一番だったというだけの話だ。座学ではそれなりに優秀な方だったとは思うが。 嘘ではないが価値などない。何しろ人気の低い学部なのだから。あまりに尾ひれの付きすぎた話だ。

そして、それを否定しなかった自分もどうかしている。ネルルはそっと目を細める。

否定しなかった理由なんて、簡単だ。淡い期待を抱いていた。ただそれだけ。

そして今も、その肩書きに縋り付いている。

『精霊学』なんて、カズキの役に立ちそうにもない能力なのに。


欲しい。


自信が、自信の根拠に見合う能力が、自分の存在価値が。


ネルルの心が、叙情不安定に陥る。場所は氷上、既に非日常。ならばと、溜め込んでいた、押さえ込んでいた我儘を声に乗せる。


欲しい、欲しい、欲しい欲しい欲しい欲しい……


願って変わるわけがないのに。



――何ヲ犠牲ニシテモ?


犠牲も何も、もともとわたしが持っている物なんてない。


――欲シイ?


何かを犠牲にして手に入るというのなら、どんなによかったか。


手に入りそうにない、それがネルルの叫びに変わる。


欲しい欲しい欲しい欲シイ欲しい欲シイ欲シイホシイホシイホシイホシイホシイホシイ――貴女ガ欲シイ。


無機質で耳触りな声は、ネルルの中でカズキの声にすり替わる。

気が付けば、どうぞ、と呟いていた。




パリン


何かが割れる、堅い音が響いた。







                    ◆◇◆







「あれ、ネルル?」


レスカの指差した方向には人影があった。色がわからないため、確証はないが。


「間違いないです。 魔力的にぶわぁーっ、とネルルな感じです」

「何その擬態語」

「擬態語を使えばかわいく見えると聞いたので」

「効能には個人差があると思う」


そういや、レスカは魔力探知とかそんな能力があったな。チートのゲシュタルト崩壊は継続中なので、どう表現するべきか。ハイスペックでいいや。


「なんだかネルル、海の上にいるように見えるんだけど」

「いますね」

「何それホラー……やっぱりネルルじゃないんじゃ?」

「いえ、どうやら凍らせているみたいです」


何その無茶苦茶。軽く天変地異だろうに。環境破壊いくない。だが、ファンタジー補正がきっとあると信じている。


「確実にネルルだね」


こんな所で魔法の連発を繰り返すのは、特訓か何かだろう。そして人に見られたくないという心理が伺える。 なのでレスカと、遠巻きに見守っていた。


「レスカ、何やってんの」

「見て下さい、脚が埋まりました!!」


レスカの脚は膝の辺りまで、砂に埋れていた。きゃー、とか、ずぶずぶー、とかとても楽しそうだ。

レスカを遠巻きに見守っていたい。これが、リタぐらいの年齢だったら微笑ましいんだけど。リタ女史とレスカの精神年齢を交換した方がいいんじゃないだろうか。いや、どちらも低かったな。

そう、悟りかけていた時、


パリン


奇妙な音が、耳に届いた。

レスカから目を離し、音の方向へ顔を向ける。

遠目に見えていたネルルの身体が、下へと沈んでいく。

氷が、割れた?一希ですらすぐに溶かせなかったのに?


「レスカ、貸してっ」

「え? ふぇ?」


レスカから、ロッドをひったくる。そのまま砂浜を全力疾走、といったほどのスピードは出るはずもない。不安定な足元が煩わしい。

もう既に、ネルルの頭は見えなくなっている。地面を砂浜から氷上に変更、サンダルのまま駆け抜ける。その間に、レスカのロッドは走ることに害がない程度に伸ばした。如意棒の利便性を見直すべきだ。一家に一本、物干し竿から孫の手まで。只今現実逃避中につき。

そんなことを考えていたからか、足元が狂う。ふわりと視点が回転し、気が付けば身体は横を下を向いていた。滑ったということは微妙に溶けているということか、それともサンダルか。どちらにしろ変わりない。

脛の辺りを盛大に削ったような気もするが、擦り傷の痛みが本番なのは時間が経過してから、と言い聞かせて立ち上がる。血の色が判別出来ないのが救いか。痛くない痛くない。やっぱり痛い。お願い、白いものが見えてませんように。


「ネルル!」


一部、穴が空いている箇所を発見する。覗き込むが、水中の様子は見えない。慌ててレスカのロッドを突っ込み、


「え?」


そのまま海中へと引きずり込まれた。







                     ◆◇◆







「え? え? 」


レスカは混乱の声を上げる。

脚を引き抜こうとするが、調子に乗って深くまで潜ったそれは容易に地中から脱出しない。

こんな時に限って、なんで自分は馬鹿なことをしているのだろう。頭が急激に覚め始める。

埋まった靴は諦める。なんとか素足だけを引き抜いた。そのまま足を氷の上へ。 氷が足の裏に張り付いた。


冷気が強くなっている?


レスカはその事実に、焦りだす。氷の範囲が、広がっていく。

ルイの呼吸が持つうちに氷を溶かさなくては。実のところレスカはカナヅチだが、自分が潜るという手段を確保するためにも。

紅蓮の円柱(クリムゾン・カラム)〉をベースに、一面に広がる火の海を、とレスカは早急に術式を組み立てる。


「〈紅蓮の絨毯クリムゾン・カーペット〉!!」


半ば絶叫、普段なら妥協を許さない筈のネーミングすらも適当。

早く早くと、急き立てる。発動はまだか。


ぶちん。


背筋の凍るような嫌な音と、左腕に違和感。恐る恐る目を向ける。手首の下辺りが裂けて、血肉が顔を出していた。

レスカが目を見開く。


「使い、過ぎ……」


個人がやすやすと使える筈のない魔法を、アンデッドとしての身分を傘にきて乱用すればどうなるか。その結果は、精神の崩壊ではなく肉体の限界を迎えていた。

壊れたまま死ねない、原始的な恐怖。先刻までの決意すらも跳ね除けて、己の都合ばかりが表にでる。

怖い、その気持ちには抗えない。

どうしようどうしようどうすればいい?

レスカが迷っている間に、変化が訪れた。氷が隆起し、無数の人形のようなものが生み出される。それらは次々に陸へと上がっていく。

舌打ちと共に、ロッドを大鎌に変えようとし、ルイが持って行ったことに気がついた。


一番大事な時に、私はまた無力。


「~~っ!!」


レスカは踵を返した。

無力な私に今出来るのは、誰かを連れてくることだけ。

だからどうか、どうかお願い。


「私の見ていないところで死んだら、恨みますからね!!」






伏線ばら撒き回。

チートは没収。手札が多いと管理しきれませんでした。


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