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無題  作者: さちはら一紗
招かれざる 訪問者
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ヒロイン化 計画

「ネルルは、なんでレスカの魔法を知りたいと思ったの?」


 ミラさんには企業秘密で突き通したが、ネルルには特に何も聞かれなかった。

 よく考えたらあたし、かなり阿保なことしたんだよね。二時間の説教コースも当然か。


「……勇者の魔女に相応しくなるため」


 小さく、だがはっきりとネルルが言った。

 ふむ。


「つまりそれは、一希が好きってことでいいのかな」


 ネルルの、グラスを持ち上げていた両手が動きを止めた。

 何のことか分からないというように、小首を傾げる。


「あれ? ネルルは一希のことが好きなんじゃないの?」


 ネルルはぱちくりと目を(しばた)き、数秒の沈黙と共に顔はおもむろに下へと移動する。

 じわり、白い絹のような肌がみるみる赤く染め上げられていった。


「そう……なの、かもしれない」


 絞り出したようなか細い声。あたしは自分のデリカシーを無視した発言が、ネルルの恋心を自覚させたことに気付いた。


 はぁ、とため息。

 全く一希といい、どれだけピュアなんだ。

 あたしはレスカにもたれ掛かり、耳元で声を漏らした。


「……きゅんって何なの」

「純愛ですね」


 ふしゅううぅ、と湯気の出ているネルルを、レスカと生温かく見守っていた。





                  ◆◇◆





「レスカ、決めた」


 ネルルの居なくなった部屋で、レスカが答える。


「何ですか?」


 未だ苦手意識は払拭されていないのだろう。ネルルがいなくなったことでみるからにレスカはご機嫌だ。


「ネルルを一希のヒロインにする」


 だから、これからも関わることになると知ったレスカの顔は、明らかに落胆した。


「理由を聞いても?」

「今まで一希を好きになった子の中で、一番純真だから。 何が何でもあの鈍感系を振り向かせたい」


 王道にヒロインは必要である。一希を王道に仕立て上げると決めたからには、あたしは全力でフラグを立てに行く。


「なんで自分のことじゃないのに、そんなに執着するんですか」

「趣味」


 一希専属の裏方としての矜恃だ。そのくだらなさは折り紙付き。そして、今まで一希に惚れてきた女の子たちの雪辱戦でもある。鈍感系主人公滅すべし。


「他人の恋より自分の恋でしょう」

「だってあたし、好きな人いないし」


 カインはイケメンだけど、逆に対象外だ。あれは完全なる観賞用である。

 ラオはなんだろうか……常識人ポジで不憫系だから、自然に恋愛対象から外れてしまっている気がする。


「カズキ君じゃないんですか?」

「はは、んなまさか」


 つーか、なんで君付けなんだ。


「例えそうだとしても、あたしなんかに一希のヒロインは務まらないしね」


 生粋の主人公、その隣りには完璧なヒロインが居るべきなのだ。人間的に完璧ではなくとも、ヒロイン的に完璧にその美学を突き詰めたものだけが、一希のヒロインになれる。間違っても、あたしとはかけ離れた人材が。




「正直に言うと、ネルルが怖いってのもあるかな」

「ルイもですか?」

「うん。 今回ので非ヤンデレ仮認定したけど、確証はないからさ」


 ヤンデレの概念は説明済みだ。


「確かにその気はありますよね」

「やっぱり?」

「あの手は世界の中心が、愛する人になってもおかしくないです」


 それは、程度により純愛、重い愛情、ヤンデレへと姿を変える。

 王道にヤンデレはダメだ。断じて許しません。だって一希だもの。王道ヒロインでないといけないのだ。

 狂気の象徴であるヤンデレは、邪道によってその真価を発揮すると思う。

 要するに、三次元のヤンデレ、ダメ、絶対。だってあたしが怖いから。そして一希が王道ではなくなるから。


「だから、あたしはネルルのヤンデレルートを潰さなくちゃいけないと思うんだ」


 例え彼女の恋が叶わないとしても、清く美しい恋心であるように。勇者カズキのそばに咲く、健気な花であるように。

 個人的な執着と、自覚せざるを得ない自己満足に基づいて、ネルルの正ヒロイン化計画が始まった―――





 ―――まあ、人の恋愛を掻き回すのが楽しいってだけなんだけど。外道万歳。


 これは鈍感系主人公に対する宣戦布告。


「ルイは救いようのない馬鹿です」


 ため息と共に、放たれるレスカの言葉。

 レスカに言われたということに、あたしは地味に傷付いた。

 いーじゃない!ハーレム男の側にいると、変な願望がつくんだよ!掻き乱したくなるのは至って正常!……正常……多分。

 取り敢えず、鈍感系リア充爆散しろっ!!





                    ◆◇◆





「おはようございまーす」


 朝食中、乱入して来たあたしに、ミラが立ち上がる。相変わらず反射神経がよろしゅうございますな。

 ちなみに、マリエッタはにこにこと笑顔を貼り付け、メリダさんはミスクールビューティな顔で乙女チックに一希を見つめたままで、ネルルはどこまでも表情が読めなかった。

 ちょっとまて、メリダさん。こら、一希なんかの魔の手にかかんな。ネルルにフラグを立てづらくなるじゃないか、主に心境的に。


 メーリーダーさーん!

 心の中で叫んでも、メリダさんが帰ってくることはなかった。ああ、ラオが泣くなと思ったが時既に遅し。一希は着々とハーレムルートを進みつつあった。滅べ。


 メリダさん、頑張るんだ。


 心の中でエールを送る。だが、あたしはネルルをプロデュースする決意をさらに固めた。ごめんなさい、天然系エセクールビューティは、無表情系ツインテールの魅力には敵わなかった。うう、心が痛い……いや、そうでもないな。ハーレムルートで皆が幸せになるならば、メリダさんにも望みはあるのではないか。もちろんミラさんにもだ。

 一希の末路が、一生独身か一夫多妻か愛情のもつれに決定した瞬間だった。


「あ、一希。 おたくのネルルちゃん借りるね」


 うだうだと続く思考をぶった切り、ネルルを半ば無理矢理立たせる。


「どーぞー」


 一希の返事はあまりに緩く、未練もくそも感じられない。

 いいのか勇者様。大事な仲間が引き抜かれてるぞ。

 状況を理解出来ていないネルルが、あたしと一希を交互に見る。


「カズキ……」

「よかったな、友達が出来て!」

「あ……」


 友達とは、誘拐する仲なのだろうか、と自問自答しながらネルルを引きずる。

 一希のネルルに対する扱いは、後輩に対するそれそのものであった。






 とっくに外に出た後、思い出したようにネルルがくいっ、とあたしの服を引っ張る。


「どした?」


 ドタキャンならぬ、土壇場決定(デサイト)にお怒りなのだろうか。

 無しか浮かんでいない愛らしい顔を、じっと観察する。


「………」


 その無言で意義を唱える口は、180°の真一文字から、上に170°へと変化していた。


「………」


 言葉無くして真っ直ぐに見つめるその瑠璃色の大きくも眠たげな瞳は、ほんの少し、本当に数ミリほど瞼が降りているような気がした。彼女なりのジト目なのだろうか。

 その小さな身体をいっぱいに使い、静かに主張するのは不満。一希との、朝のいちゃらぶタイムを打ち切られたことへの、不服の意思。

 背丈的にどうしようもない上目遣いに、きゅうぅんとなる気持ちを抑える。この子、テイクアウトしてもいいですか?いえ、観賞用で。いえ、あたしノーマルですので。


 ぞわりと、背筋に寒気が走る。


「私は変態私は変態私は変態私は変態……」


 顔を右へ移動。


「レスカ、何やってんの」

「洗脳ですが何か?」

「よし、表出ろ。 タイマンじゃこら」

「ルイ、ここは表です」


 う、うう……


「うるさい!! マリエッタにびびって今までいなかったくせに!」

「論点ずれてます!」

「あたしは変態なんかじゃない!」

「じゃあなんだっていうんですか!」

「かわいいは正義、ただそれだけ」

「キモいです! 私、絶対にツインテールしません! 」

「あ、いや、レスカはツインテールは似合わないから」

「そういう問題ですかっ!?」


 そういう問題です。

 レスカはどちらかというと、活発タイプのかわいい顔だ。ハーフアップのおかげで、少し大人な雰囲気になっている。それは、ツインテールなどやってしまえば、どうしようもなく幼く見えてしまうことを意味していた。ツインテールが一気に、ぎとぎとしたカスタードへと姿を変える。胃もたれするレスカのツインテールは、ネルルの甘過ぎない黄金比率のツインテールに敵うわけがない。これぞ、ツインテールの美学第一箇条である。……今作った。


「ツインテールの美学とかホントきしょいです」

「心読むな!」

「読めません! ぶつぶつ呟いているルイの責任です!!」

「嘘でしょおおお!!!」


 びしゃり。頭上から大量の水が降りかかる。紙一重で避けたレスカが、あたしを指差して笑った。


「う、うるさっ……」

「五月蝿い」


 ばっさりと切り捨てたネルルの平坦な声。


「ごめんなさい……」


 あ、なんか……ぞくってきた……。

 ネルルの冷たい目に、背筋がぞわぞわする。ドMかっ!!否、断じて違う!


「帰る」


 くるりとネルルは踵を返す。相当お怒りのようだ。うん、しばらく無視ってたからね。


「待って」


 大慌てでネルルの腕を掴む。ネルルは振りほどこうと、腕を引いた。


「………」


 だが、あたしの手は離れない。

 ぶんっ、ぶんっ、とネルルは奮闘するが、その手が剥がれることはない。

 僅かに首を斜めに傾け、あたしを睨みつけて―――睨み付けているつもりの上目遣いで、威嚇。

 なんかもうお腹いっぱいだよ、あたし。


「一希が好きなんでしょ」


 ぴくりとネルルが動いた。


「一希の役に立ちたいんでしょ」


 じっとあたしを見つめる視線が、種類を変える。


「ネルルを連れて行ったのに、全然一希の声には未練がなかったよね」


 今度はびくんっ、と肩が跳ねた。


「一希の認識では多分、後輩とか妹らへんなんだよ」


 跳ねた肩が、下に落ちる。


「立場、変えたい?」


 こくり、ゆっくりと滑らかな曲線を描く顎が上下する。


「だったら、ついて来て」


 あたしはネルルの腕を掴んでいた手を放す。

 ネルルは半歩遅れて、歩き出した。







「変態……」


 ぽつりと漏らしたレスカの言葉に、消えてしまいたくなった。







ルイ: へんた……変態。まごうことなき変態。誰がなんと言おうと変態。ただし、人外美少女とジト目ツインテールに限る。

つまり、ネルルはどストライク。エルフだったあかつきには、多分廃人と化していた。(両方)

ちなみに当作品に百合はないです。


レスカ: 久々のアブナイヒト回が来たと思ったら、ルイの変態度がやばいことになっていて、それどころではなくなった。

ラオ不在により、常識人ポジにいなければならないが、元来生粋のボケである彼女には、蔑むことしか許されなかった……。と同時に、観察対象として新たな価値が出てきたルイに、心が踊らないこともない。

要するに、こいつも変態。


ネルル: 逃げて。早く逃げて。


ネルルきゃわわを頑張って描写しようとしたら、とんでもなく苦悩しました。すみません、遅くなった言い訳です。しかも話が進んでいない……。

ネルルのジト目かわいいが描写されているかどうか、不安でしょうがないです。

よろしければ感想等(罵倒、批判、ドM、肯定)お願いします。

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