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無題  作者: さちはら一紗
厳し過ぎる チュートリアル
5/75

乙女趣味な 女剣士

「あたし田舎から出てきたんですけど、騙されて一文無しになってしまったんです」


 メリダの前に現れた少女は不思議なやつだった。

 黒髪のショートボブに、気の強そうな黒目。

 顔も背もいたって平凡。


 ただ、彼女の行動はどこまでも規格外だった。


 単独での行動を基本としているメリダに声をかけてきただけではなく、初対面だというのにあろうことか金を貸せという。頭の仕組みが少しおかしいようだ。

 

 面白いじゃないか、とほんの少し興味がわいた。


 世間知らずの常識知らずに見えるが、選択眼はちゃんと持っている。それは数多くの冒険者たちの中で、メリダを選んだことが証明している。

 選択を誤ればどんなことになるのかわからないのだから、と自分の恥ずかしい過去を思い起こして頭を押さえた。

 若気の至りで突っ走りそうな彼女に、メリダは多少の親近感となんらかの危機感を覚えていた。


 だからと言って、無条件に貸し与えるほど世の中は甘くない。


「それで、私が君に貸したとして何のメリットがある?」


 何事も対価なしには進まない。


「もちろん何の条件もなく、なんてことは考えてないです。 と言っても担保になるようなものはこのぐらいしかないのですが」


 そういって彼女が差し出してきたのは―――――



     




                ◆◇◆








 名付けて、「同情するなら金をくれ作戦」はうまく機能している。

 渾身のお辞儀も効果アリだった。土下座のほうがいいかと思ったが、こちらにその習慣があるかどうかが分からない。

 今思えばコントロール力を生かして、大道芸もアリだったかな?しかし二万テルという価値がよくわからない以上、こっちのほうが確実だ。


 嘘を並べ立てて同情を引く。 騙されたってところはあながち嘘じゃないだろう。ていうか事実はもっと理不尽だ。


 多少疑問を持たれても、善良そうにふるまえばきっと何とかなる!というか、踏み倒しても追いかけて来る。その実力があるなら、多分、まあ、気が向けば助けてくれる……といいな、と願望を脳内で垂れ流す。



 ちなみにこの赤毛の女剣士を選んだ理由は、

一 女だから。

二 脳筋ではなさそうだから。

三 誠実そうだから。

四 面倒見がいい感じを醸し出しながらもクールビューティーぽいから。

 

 四は結構大事だ。同性でもきれいな人を見て不快になるやつはいない。

 レズビアンではない。


 そして最後の大事な理由!

 それは……恋愛小説を読んでいたこと!!見かけによらず、乙女趣味。

 いや、どうでもよくないです。とても大事です。

 

「それで、私が君に貸したとして何のメリットがある?」


 女剣士の言葉。ええ、ごもっとも。


「もちろん何の条件もなく、なんてことは考えてないです。 と言っても担保になるようなものはこのぐらいしかないのですが」


 思い出していただけただろうか、あたしは下校中だったのだ。

 スクバの中にはいろんなものが入ってる。

 筆箱、ケータイ、体操服のジャージ、財布、今日借りたお菓子の本など。教材?置き勉に決まってるではないか。

 そして今回活躍するのがコレ。あたしはそれをテーブルに積む。

 その正体は―――某有名少女マンガ、全十二巻(完結済み)。中世ヨーロッパ風の世界で、令嬢の恋を描いている。ちょっとコメディ。

 少女漫画は趣味ではないのだが、無理やり貸し与えられていたのだ。

 思いっきり人様のものだが、許してほしい。


 話を少し戻すが、女剣士は恋愛小説を読んでいた(題名で分かった)。というわけで……さあ、興味を示せ!


「なんだこれは」

「物語に絵を多用したものです」


 彼女は一冊手に取り、パラパラとめくり始めた。


 数分後、顔を上げ、言った。


「いいだろう」

「ありがとうございます!」





 ―――異世界生活一日目、何とか生きていけそうです。





 

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