唐突な 再会
草原にて、二人の少女がただずんでいる。
夕陽を背に、真剣な面持ちで前方を見つめる黒い少女と白い少女。ルイとレスカである。
張り詰めた空気の中、彼女たちの脳内は―――異常で溢れていた。
しかし、それを指摘出来るただ一人の存在は、今ここに居ないのだった。
◆◇◆
「あー、レスカ? そろそろ尽きそうなんだけど」
あたしは難しい顔をしているレスカに、声をかけた。
「もう、魔力切れですか?」
レスカが白い日傘をくるくる回しながら、『なっさけなーい』とでも言いたげな表情を作る。
「いや、どんだけ消費したと思ってんのさ」
あたしは眼前に広がる魔法陣を指差した。
魔力を流せば半永久的に持続する魔法陣、いわゆるミステリーサークルのように描いた図が、草原には広がっている。だが、真上から見ない限り、魔法陣だとは分からない。
どうやって描いたのか、不思議に思うだろう。その答えは、空中に光で下書きしたものを地面に被せ、光が消えない内になぞったのだ。途轍もない大きさであり、かなりの重労働。それをレスカとあたしだけでやってのけた。
「仕方ないですね。 日も暮れちゃいますし」
季節はとうに夏。日が暮れるまで一体どれだけの時間、あたしたちが熱中していたか分かる。
「で、実験はどんな感じ?」
そう、これは実験なのだ。理論上は可能だが、魔力が足りなくて出来なかったレスカのオリジナルな古代魔法を(字面的にすごくおかしい)、あたしという魔力倉庫を通して実現させるための。
「そうですねー……そろそろラオかカインあたりに試してみましょう」
あたしはその言葉にニヤリと笑った。
「おーけー。 明後日ぐらいが妥当かな?」
これが二人だけでやる理由。ラオとカインには、何も知らない状態でプロトタイプを受けてもらいたいのだ。
「楽しみですねっ」
「こういう時は、『お主も悪よのう』って言うんだよ」
「ルイの世界のルールですか?」
「うん。 で、続きは『いやいやお代官殿も……』あれ、様かな? 何だっけ? 忘れちゃった」
「締まりませんねー」
だって時代劇は専門外なんだから。仕方ないじゃないか。
「ほら、帰りますよー。 いい加減暑いです」
「付き合ってやったのこっちじゃん!」
アンデットな君よりは、あたしの方が暑いと思うよ。
「ノリノリだった人が何言ってるんですか」
「う……」
否定出来ない。なんかレスカに染まってきている気がする。
「あー、甘いものが食べたいです。 冷たいものが食べたいです。 どこかにアイスキャンディがありませんかねー。 空から降って来ないですかねー」
レスカがまた、くるくると日傘を回しながら空を仰ぐ。
「おねだりの仕方が回りくどいわ!」
「作ってくれるんですか? ありがとうございます。 ごちそうさまです」
「勝手に話が進んでいくーっ⁈」
そして結局は、いつもこうなるのだ。
「とりあえず日傘に入れてよ」
「んー……気分じゃないからヤです」
あたしは罰としてレスカに突進する。とっても冷んやりして気持ちが良かった。
「暑い! 暑苦しいです、ルイ! あなたに熱血とか似合いません! 常に無気力ぐらいで丁度いいです!」
「るせえ! 涼ませろぉ!」
じゃれ合うその風景は、見る人が見れば妄想を迸らされるところだろう。だが、それを見ている人は誰もいない。例えいたとしても、妄想するのは自由だ。後でしばくけどネ。ていうか、あたしとレスカの組み合わせで萌えられるなんて、よっぽどのゲテモノ好きだと思うんだ。
と、まあ、そんなこんなで帰路についたのだった。
異変に気が付いたのは、小さな教会に近づいた頃だった。まだ夜にはなっていない、はっきりと周りが見える時刻。
「あれって……」
魔女だよね?
そう、とんがり帽子に濃紺のワンピース、、青い球の嵌め込まれた銀色の杖、魔女としか言いようのない姿だ。腰まである青いツインテールが、帽子の下から覗いている。
ツインテールだとっ!美少女でなかったら怒るぞあたしは。ツインテールはなぁ……愛らしい幼女と二次元にのみ許された、神聖な髪形なんだ。
……自分で言ってるけど、きしょいなあたし。どーしよー……お嫁に行けない。いや、行く気があるかも分からないけどね。
「今時オーソドックスな魔女ルックですね」
教会から出てきた青髮ツインの魔女に続き、金髪の鎧の女性、白い法衣を纏った茶髪の女性が出てきた。
それを見たレスカがぼそりと呟く。
「……ミレニア教なんて滅べばいいんです」
「何言ってんの君ーっ!」
いや、あたしも好きじゃないけど。
「いや、ほら、カインだって一応……」
「ああいうのは、家の都合で入れられるので、ノーカウントです」
いつもニコニコ笑っているレスカの顔が、この時ばかりは強張っていた。そして滲み出る負のオーラに、あたしは怯む。
「すみません、あの女性が知り合いに似ていたもので」
いつもの笑顔に戻り、レスカが言う。
法衣の女性の話だろう。
そんなこともあるだろうなー、と特に気にすることもなく、あたしたちは歩き出す。さっさと帰ろう。
しかし、教会を通り過ぎようとした時、
「カズキ、早く」
青髮ツインの魔女が、抑揚の無いが通る声で、教会の内部に呼びかけた。
あたしの足が、速度を落とす。
「ルイ?」
レスカが小首を傾げた。
「ああ、悪い」
そして呼びかけの返事が返って来る。
あたしは歩みを完全に止めた。躊躇いがちに、後ろを振り向く。
「嘘……」
目に映るのは、黒髪の少年。
「嘘っ!」
二度言っても、状況は最悪のままだった。
少年がこちらを向く。
「ルイっ! やっぱりここにいたのか!」
あまりに明るい彼の笑顔に、あたしの視界が揺れたのを覚えている。
あたしの異世界生活が変わり始めたのは、もしかしたらこの瞬間だったのかもしれない。
短くてスマンです。
もともと前の話とセットだったので。
それでも短い……。
導入部だから許して。きっと次から長くなる。




