入りづら過ぎる ギルド内
あたしはとある看板の前で、立ち尽くしていた。
複雑な記号が重なった文字、角ばったシンプルな文字、丸みを帯びた文字―――まごう事無き日本語です。
アルファベットもあったよ。びっくりだよ。何なんだよ。
しかしその看板の下には、『店長 ウィル』とか書いてある。
……何なんだよ!なんで名前は西洋人なんだよ!
どうしようか、佐倉ルイと名乗るか、ルイ・佐倉、またはルイ・サグラ、もしくはただのルイと名乗るか……。
非日常で、どうでもいいことに真剣に悩める自分。ある意味大物だろう。ただ、自分で考えて泣けてくる。
とりあえず名前のほうはいったん保留にして、ギルドに向かう。
道は分かるのか?ええ、百メートル先にありましたとも。目の前にでっかい建物がありましたとも。迷うわけない。人生の道に迷った感ありありだけど。
あ、やばい、沈む……。
佐倉ルイという人物は、とりあえず明るくて、とりあえず楽観的で、とりあえず変人であるが、その本質は常識人でありたいネガティブ人間である。
ネガティブをポジティブのオブラートでくるんで生きているが、一度はがれるとどこまでも落ちていくのだ。しかし異常なメンタルの回復力があるため、その属性はバカに分類される。……要するに、ちょっと可哀そうな人である。
というのが友人の辛辣な評価で、不本意なことに自覚済みの人格だ。ええ、自覚していますとも。
手に握ったままのアイスのごみを思い出し、ゴミ箱を探す。案外近くに見つかったが、あえて離れた。
せっかくだから、チート能力を試してみようと思う。
適当に放ったところ、きれいな放物線を描いて入った。腐ってもあれは女神だな。
満足したところでギルドに向かった。
「失礼しまーす……」
扉を恐る恐るあける。
視界に入るのは、目つきの悪い肉だるま。
「……失礼しましたー」
パタム。
場違い感半端ない。泣きたい。だけど無駄に硬い涙腺は緩まない。
落ち着いて深呼吸。
意を決して扉を開く。
中の様子はイメージどうりの「ギルド」という感じだ。
テーブルがたくさんあって、掲示板があって、受付がある。
食事もできるようだ。……てめーら、昼間っから酒飲んでないで仕事しろ!仕事ぉ!!
気分はさながらダメ亭主を見る鬼嫁。いや、言いませんよ。小心者なんで。
目をつけられないうちに、さっさと受付へ向かう。もち、きれいなお姉さんがいるほうへ。……いや、だってさあ、隣のおばちゃんごついし。怖いんだよ、うん。
「すみません、登録したいんですが」
「はあ?」
すごく怪訝な目で見られた。
「少々お待ちください」
◆◇◆
彼女が奥から連れてきた年配の女性に、ここでは戸籍の意味合いを持つものをなぜ持っていないかということを、延々と問いだたされた。待機時間も合わせて三時間ほどかかった。犯罪者リストをチェックしてもらい、載っていなかったことで何とかこの身は救われた。
しどろもどろで言い訳を垂れ流した結果、受付嬢はため息をついた。
「いるんですよね、登録料けちって親がさせないという人」
どうやら誤魔化せたらしい。
しかし登録料……。
「えっと、いくらするんですか?」
「二万テルです」
「すみません、登録は後でにします」
どうしよどうしよどうしよ。
女神がお金くれてないかな?
鞄をあさるが、特に増えたものはない。ポケットにも何もない。
財布の中身も変わってない。ここじゃ諭吉は何の意味もない。まあ英世さんしかいないんですけど。あ、一葉さん見っけ。ッじゃなくて!
あんのくそ女神いいいい!!!!
ふっふっふ……しかし手がないわけではないのだよ。
建物内を見渡し、あたしが目を付けたのは赤毛の女剣士。雰囲気はまさにクールビューティ。
すたすたと近づき、声をかける。
「すみません……」
さあこっからが本番だ。チート化したあたしの実力見せてやる。
「お金を貸してください!!!」
その言葉は、人生で幾度となく繰り返してきた直角二等辺三角形のお辞儀とともに繰り出された。
当作品は頭をからっぽにして読むものです。というか、一章にさしたる意味はありません。面倒くさくなったら、とりあえず二章にGOです。
二章の地雷原は、まだ撤去中です。




