表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無題  作者: さちはら一紗
ダンジョンと アンデッド
36/75

ラスボス 発見

今回短めです。すみません。

そのかわり、次回は長くなります。…多分。


 火の精霊の護る森。水の精霊の護る森。


 ある日、火の精霊の森に一つの壺が現れました。どこかの旅人が、落としていったのでしょう。


 その壺はころころと転がり、二つの森の境界線で止まりました。


 最初に見つけたのは、水の精霊。そして、遅れてやって来たのが火の精霊でした。

 

 水の精霊は見つけたのは自分だと、火の精霊は壺は自分の森に落とされたと言い、壺の取り合いが始まったのです。


 怒った火の精霊は、無理矢理加護を掛けて、自分のものにしようとしました。それを水の精霊が、許すはずもありません。

 水の精霊が火の精霊の加護を上書きし、炎の色に染まった壺は深い青に変わりました。


 そして水の精霊が、壺を手にしたのです。


 しかし、炎は完全には消えていませんでした。深い深い青の中、チロチロと燃える金色の炎は、水のようでありながら、決して水とは相入れない、そんなものを作り出すものへと壺を変えてしまったのです。






                     ◆◇◆




「へー、そんな話があるんだ」

「本当かどうかは知らんけどな」


 ラオの語ってくれた話は、まるで童話のようだった。


「私、知りませんでした」


 レスカが首を傾げる。


「めっちゃマイナーやからな」


 なんでも、ラオの母親から聞いた話だと言う。


「本当だとしたら、二つの加護が掛かっているってことでしょ? レスカ、その壺どうすんの?」


 あたしの問いに対して、レスカはすぐさま答えた。


「売ります」


 すぱりと、一片の迷いもなく。


「え?」

「珍しい魔具だろうに」


 カインも不思議そうだ。


「だって二つの加護が掛かっているくせに、相殺しあっているみたいなんですもん。 想像していたより、すっごくしょぼかったです」


 レスカは唇を尖らした。


「それ、聞いたら泣く人が沢山おるやろうな……」


 ラオが額を押さえて言う。


「だって、油なんか出せてもしょうがないですしー」


 君、その油が役に立ったことを忘れていないか?

 ちなみに、結局扉の隙間からレスカの魔法陣を通して消火した。ちょっと勢いが強過ぎて、水が階段の下に流れて出てしまったのはご愛嬌だ。もし、階段の下に人がいたとしたら……ごめんなさいしかない。

 あと、ウサギの丸焼きは綺麗に出来上がっていた。ちゃんと何の動物か分かるぐらいだ。

 いや、食べてないよ?


「でも価値はそれなりにあるでしょうから、高値で売り捌いてやりますっ」


 レスカはきりりといい顔で言った。


「買値の何倍で売りつける気だ」


 カインは呆れ顔だ。


「適正価格に色を付けるだけですよ?」

「物欲に塗れた巫女さんなんてイヤ!」


 全国の巫女さんと、そのロマンを愛する人に謝って欲しい。あたしだって、巫女ファンではないがその良さは理解しているんだ!多分!

 洋風も、和風も、巫女服は好きだ!

 変態じゃないよ?多分。


「あくまで、()巫女ですから」


 狂人は、ロマンを壊すことも厭わない。自分のロマンは守るくせに。


「ていうか半永久的に、油製造機にした方がいいんじゃない?」


 サラダ油というより、高級な香油みたいな感じだった。売れるのではないか。


「そのアイデア、いただきます」


 レスカはにぱっと笑った。目が銭マークに見えるのは、きっと気のせいだ。

 

「もうちょっとロマンのある発想出来へんのか?」

「男はロマンチスト、女はリアリストなんです」

「女は、ロマンを求めちゃいけないの⁈」

「レスカもリアリストには見えないんだが」


 カインの言うことはごもっともだが、アンデットは聞く耳を持たない。


 ラオのため息と同時に、階段が終わる。


「最上階みたいだね」


 眼前に広がる空間は、丸くカーブを描いている。天井は中心に行くにつれて高くなっており、まさしく塔の先端部分だ。


「何にもないですよ?」


 内装は最初のようなお城風に戻っていたが(お城の内部なんてあたしは知らないけど)、拍子抜けするほど何もなかった。


「いや、そうでもないで」


 ラオが何気ないような顔で、床をめくる。タイル状なので、外すと言うべきだろうか。

 その下にあったのは、


「階段ですかー……。 下るの面倒臭いです」

「なんでここまで来て、下に降りんのかな」


 最上階から一番下へ、とかなんかすっごく不本意だ。


「仕方ないだろう」


 カインは今のところ、糖分が足りているようだ。


「カイン、糖尿病になるよ」

「トーニョー病?」


 糖尿病の概念はないようだ。まあ、若いから大丈夫かな。ちゃんと消費しているみたいだし。でも、引退したら真っ先に太りそうだよね。あたしは想像して、泣きたくなった。どんなイケメンも、肥えたら台無しだ。




 文句を垂れるレスカを、半ば引きずるようにして階段を下る。


「こけます! こけちゃいます! あーっ! あーっ!」


 レスカがうるさいので、仕方なく手を離す。ドミノ倒しになっても困るしね。

 なんでこんなに、緊張感が皆無なんだろうか。


「なんか、狭くない?」


 階段は、人一人通れるほどの幅しかない。しかも薄暗く、〈暗視(ナイトアイ)〉なしでは危なかっただろう。


「段差も急だな」

「きっと、特別な部屋とかに繋がっているんですよ」


 先頭を行く、ラオの空気だけが、真剣だ。他の奴らが頼りにならないから、自分はせめて頑張ろうという心境だろうか。

 カインとレスカは、思ったよりはまともだけど。もちろん、自分は言うまでもない。佐倉さんは常識人だから!(本日三回目)



 約十階分の階段を下るのは、結構キツいものがある。内臓が上下に揺れるため、胃の中がかき回されているようだ。いや、かき回されたことはないけど。これからもごめんだけど。

 あ、ダメだ。自分で考えていたら、余計に気持ち悪くなってきた。

 上がる方とどちらが楽だろうか、なんて考えていたら、ゴール地点が目に入る。扉だ。材質は、木だろうか。この先にあるのが宝物庫だとしたら、あまりにも簡素過ぎる扉だ。


「……開けんで?」


 当たり前のように仕掛けられていた罠を解除し、ラオが言った。


「あたしが開けてみてもいい?」


 全員から了承を貰い、あたしは扉に手をかける。

 ギイィと軋む扉を―――新品にも関わらずわざと音が鳴るようにする竜属は、相当性根が腐っているんだろう―――あたしはゆっくり前に押す。

 ビビりは全開なんて出来るはずもなく、隙間からそっと中を覗き込んだ。

 光沢のある、宝石のような鱗。剣のように鋭い爪。折り畳まれた、黒い翼。静かに眠るそれを見て、あたしは静かに扉を引いた。


 どうしよう。

 あたしは後ろを振り返る。


「これ、無理ゲー……」


 中には偉大なるファンタジーの象徴、黒竜様がおられました……。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ