表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無題  作者: さちはら一紗
ダンジョンと アンデッド
35/75

画面 炎上


 ま・た・ウ・サ・ギ・か!


 最初のヤツとは違い、サッカーボール大の毛玉に耳が付いた感じだが、紛れも無くウサギだった。


 真っ先にラオが対応する。

 カインも少し離れた所で剣を抜き、あたしも弓を構えた。

 レスカ?彼女の担当は壺である。


 こいつ、協調性ゼロだーッ‼


 協調性は大事です。協調性、即ち社会適応力と言っても過言ではない……と思う。

佐 倉さん、自信ないよ。一時期ぼっちだったし。いえ、一週間で畏敬の対象にしてみせましたけどね?何をしたのかって?……黒歴史の一ページだよ。



 ラオのタガーは白ウサギの毛に当たり、ガキィンと鋭い音を立てた。


「うわ、マジか……」


 タガーは弾かれ、白ウサギには傷一つ付いていない。あのふわふわに見える毛は、一体どれだけ硬いのだろう。


 あたしも後ろに下がりながら、矢を放つ。

 弾かれそうだから、狙ったのは柔らかい眼球だ。しかし、それは狙ったウサギに当たる前に止められた。横入りして来た別のウサギが、その小さな脚で矢を折ったのだ。飛んでいる矢の上に、着地したと言ったら分かるだろうか。


「何それ……」


 何なの?最初のピンクな野ウサギといい、今のもふもふ白ウサギといい、どうしてウサギが強いんだ。あれか、ギャップ萌えか。竜族の皆様はギャップを愛しているのか?あたしも好きだよ、ギャップは。


 カインは、あまり毛に覆われていない耳を狙っている。耳を落とされた白ウサギは、本当に毛玉にしか見えない。斑模様のね。グロテスクだけど、一人だけ善戦だ。

 レスカ?壺と見つめあっているに決まっているではないか。ホント、もう一回死んで来ればいいんじゃないかな。



「〈火球(ファイアボール)〉!」


 物理攻撃が効かないのなら、とあたしは魔法を飛ばす。


「って、嘘ぉ!」


 ウサギはぱくりと、火の玉を飲み込んだ。

 そして二倍ほどの大きさになって、ウサギの口から火の玉が吐き出される。


「あわわっ!」


 咄嗟にしゃがむ。

 ドッジボールは避けるの専門だったから、割と慣れている。

 だけどあたしは心の中で叫んだ。


 ―――こんなギャップ、必要ですか⁉


 試しに氷でもやってみたが、同じことだった。

 腹いせにウサギを蹴ってみたら、足の指がボキッといった。


「~~~っ‼」


 押さえてうずくまる、とかも出来やしない。ウサギは地味に突進して来るからだ。

 アホ!あたしのアホ!何自爆してんだよ!折れてないよね?

 不安になって、小さな声で回復魔法を唱える。スッと痛みは遠のいていった。

 あ、はい、全然大丈夫みたいです。うん、この軟弱者っ!って怒られそうだ。


「なんじゃそりゃ!」


 魔法を跳ね返したウサギに対して、ラオのツッコミが飛ぶ。


「無茶苦茶だな」


 カインも半ば、呆れている。


 目算十五匹のウサギは、陣形を組んで襲いかかって来た。

 これだけ聞くとしょぼいが、その実態は金属並みの硬度を誇る、サッカーボール。


「一旦戻るでっ!」


 あたしたちは全速力で、カインはレスカの襟首を掴んで引きずりながら、扉の向こうに駆け込んだ。




 急いで扉を閉める。

 ウサギが扉にぶつかる音がする。ガツンガツンってどうなんだろう……。


「つか、れた……」


 なんでウサギごときに、こんなに体力を使わなければいけないんだ。地味にプライドが傷付いていたりする。

 だってさ、相手はウサギだよ?小動物相手に苦戦だよ?中身は化け物だとしても、何かちょっぴり悲しくなる。


「何やねんあれ」

「まさかダミーに、手こずらされるとはな」

「しかも魔法が効かないとか……いじめ以外の何物でもないよ」


 何でも切れる、魔剣みたいのを貰っておけばよかったんだろうか。どうせ使いこなせずに終わりそうだけど。


「カイン、離してくれませんか」


 レスカがむすっとした声で言う。

 カインはレスカの襟首を掴んだままだ。

 カインがぱっと手を離す。


「ひゃうっ! 何するんですか!」


 レスカは盛大に、頭を打ち付けた。しかし、やっぱり痛覚は鈍いようで、あまり痛がっているようには見えない。


「手伝わなかった報いだ」


 カインが素っ気なく言う。


「だってルイが……」

「だってやない!」


 ラオはレスカに説教を始めた。

 うん、自業自得だ。


「でさ、どうする?」


 あたしはレスカを放って置いて、カインに聞いた。


「あそこにも扉があったな」

「一応、向こうに行く方向で考えるんだね?」


 しかし、それだとあのウサギが問題だ。扉に突進する音は止んでいるが、いなくなったわけではないだろう。

 宝箱の中で窒息死すればよかったのに。

 どうしよう、あたしはウサギが嫌いになってしまいそうだ。


「魔法が効かなかったから斬るしかないのかな」

「いや、それでも効率はよくない」

「そっかぁ」


 あたしは説教で疲れ切ったラオと、全く悪びれる様子のないレスカの方を見る。


「で、レスカはなんで手伝わなかったのかなー」


 表面上は笑顔を装うが、あたしの手はレスカの両頬をぎゅううぅっとつねっていた。


「やめふぇふらふぁい」


 天才の顔は、実にまぬけである。


「で、なんで?」


 あたしは手を離した。


「あのウサギ、魔力を喰らうことが出来るみたいですよ。 となったら、私は何も出来ませんし?」


 大鎌状態の時も刃は魔力で構築されているため、効かないというのがレスカの言い分だ。


「やってみなきゃわかんないじゃん。 ていうか、出て来た直後も手伝おうとしなかったよね?」


 あたしの追及に対して、レスカの答えは


「たるかったので」


 一瞬音が消え、左右からラオとカインの拳がレスカの頭めがけてとんだ。ごすっと見事な音がする。


「女の子殴りましたぁっ‼」


 レスカが大袈裟に騒ぐ。


「やかましいわっ! アンデットに性別もクソもあるかい!」

「男女平等を掲げさせてもらおうか。 手加減しただけましと思え」


 レスカが助けを求める目で、あたしの方を見る。潤んでいたら負けたかもしれないが、生憎死体は涙を流さない。

 あたしは手をグーにして、にっこり笑った。


「鼻面いっとく?」

「……遠慮します」


 レスカは薄ら笑いを浮かべた。





                       ◆◇◆



「だから、そんな壺なんかに固執すんのがいけないんだよ!」

「壺じゃありません! 水瓶です!」

「いいよ、壺だろうと花瓶だろうと!」

「水瓶ですっ!」


 レスカの悲痛な叫びは無視。


「偽物にかまけている暇があるんなら、ウサギの一匹でも倒したほうがいいに決まってる!」

「やです! 私、やりたいことしかしたくないんです!」


 レスカがイヤイヤと首を振る。


「ガキか! 幼稚園児にも劣るなっ!」

「だから、ヨーチエンジとか知らない言葉は使わないで下さい!」


 話を逸らさないでいただきたい。


「人ってね、やりたくないことをやらなければいけない時もあるんだよ? それが大人なんだよ?」

「私、永遠のセブンティーンなんで」


 無言でシメた。


「なんでですか⁉ 間違ったことは言ってませんよ!」

「あながち間違いではないことに腹立つんだよ!」


 ラオが唐突に呟く。


「なんか漫才みたいやな」

「お前、染まって来たんじゃないか?」


 カインが、少し心配するような声音で言った。


「あぁ、もうなんか疲れたわ」

「これ以上、存在が空気になってどうする」

「それ、シャレにならんねんけど」


 何気にカインが酷かったりする。


「って、漫才してる場合じゃないよっ‼」


 あたしは内心で頭を抱えた。


「ルイ、水瓶ですから。 水瓶ですからね?」


 しつこく言うレスカ。


「うるさい黙れー!」


 長い攻防の末、あたしは肩で息をすることになった。


「作戦会議でもするか?」


 常識人役は、ラオからカインに移り変わる。角砂糖ですら、精神を安定させられるみたいだ。

 そしてラオは異常な人に囲まれたせいで、精神崩壊してしまっている。レスカと一緒に壺を弄るという、末期症状だ。


「どうすんのさ、これ……」

「どうしようもないだろうな」


 とりあえず、二人だけで議論に花を咲かせ―――なんて出来るわけがない。たいしてアイデアも出ないまま、話すことが尽きた。


「ラオー? なんかない?」


 しかし、ラオは熱心に壺を見つめている。


「おい、ラオ。 いい加減に―――」

「ちょい待ってくれ」


 カインの言葉は、最後まで言い終わらない内に遮られた。



「これ、本物かもしれん」





 扉の前に、カインとラオが立つ。


「行くで?」

「任せて!」


 二人が扉を開け放った瞬間、あたしは部屋の中に、壺の中身をぶちまけた。そして白ウサギがこちらに来ない内に、松明を二本投げ入れる。

 やっぱり貰うべきはコントロール力だ。

 カインとラオが扉を閉める。


「終わったぁ!」


 しばらくしたら、ウサギの丸焼きが出来上がるだろう。

 魔法が効かないのなら、そのまま殺ればいいじゃない!


 レスカの買った壺―――正式名称『精油の壺』は、その名の通り入れた液体を油に変える壺だった。もちろん、間に複雑な手順があるものの。


「まさか本物やとは思わんかったな」

「魔力探知能力があるのに、偽物をつかまされるわけないじゃないですか」

「聞いてないよそんなことっ!」


 あたしは思わず叫んだ。


「言いましたよ?」

「言ってない、言ってないってば」

「……そういえば、言ってなかったかもしれません」


 あたしのストレス、返して……。


「てか壺じゃん! 壺だったじゃん!」

「壺も水瓶も似たようなものです!」

「言ってることが逆だよ!」

「いいから、約束守って下さい」


 そうして事は、あたしの土下座をもって終了した。


「ところで、どうやって中に入るつもりだ?」

「あ……」


 ……考えてなかったー。




 





思ったよりも、長引いています(笑

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ