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無題  作者: さちはら一紗
ダンジョンと アンデッド
34/75

魔女の 壺


 アトラクションで、急に上から下に落ちるやつがあるだろう。あたしは、下から上に行くのでも怖いと知った。壁にへばりついて、動けなかったのだ。もちろん、シートベルトなんてものはない。


 途中から緩やかに失速し、ズンッと衝撃が来て止まった。『チン』なんて音はしないのは当たり前だ。


 スーッと正面の壁が上がり、あたしたちは外に出る。今度現れたのは、黒く光る空間。

 大理石などをあしらった今までのお城の内部の様な作りと一変し、高級なホテルやレストランの様なイメージを与えている。

 水路というか、泉というか、噴水というか……綺麗な風景だとは言っておこう。


 ああ、もう……ほんっとやめて欲しい。マジで現代臭お断りします。正統な中世ヨーロッパ風ファンタジーな景色を下さい。

 あたしは欲求不満に陥っていた。


 暴れ出したい衝動にかられていると、また空腹感が襲って来た。


「とりあえず、ご飯食べない?」








 水路には何かいそうなので、水から離れた所に座る。


 サンドイッチを齧りながら、梅干しが食べたいと考えた。

 納豆とか梅干しとか、たまーに何か食べたくなるよね。正直無くても全然いけるんだけど。むしろ卵掛けご飯が食べたい。しかし、流石に日本以外で生ものを食べるのは気が引ける。


「おい、レスカ。 何をしているんだ」


 カインがレスカに呼びかけた。

 レスカは水路の方でしゃがみ込んでいる。


「実験です」


 ご飯はいりません、とレスカは言う。

 あたしは気になって、レスカの方に歩いて行った。


 レスカが一生懸命に弄くり回していたのは―――例の壺だった。

 ラピスラズリのようにちらほらと金色が混じる壺を、レスカはああでもない、こうでもない、とブツブツ呟きながら弄っている。


「水瓶と言うからには、水を入れたら何かが変わるんじゃないかと思ったんですけど……」


 むー、と眉間にシワを寄せながら考えている。

 あたしは感情のスイッチを切り、床に置かれた壺を投げつけた。それは、のそのそと壁に登っていた大きな蟹に命中する。


「あーっ! あーっ! 何するんですかあ!」


 レスカはバシャバシャと音を立てながら、水の中に落ちた壺を取りに行く。

 ぽっかりと浮かんだ甲殻類は、完全にスルーだ。


「ひどいです!」


 つっかかってくるレスカ。


「だーかーらー、レスカは騙されてるっつってんだろ!」


 昨日、帰って来た後にカインから聞いたのだ。こちらの世界でも、それは使い古された詐欺の形だと。

 「売りつけたヤツを探し出してシメておこうか?」なんて物騒な提案は、受けるかどうか迷ったが今のところ保留だ。

 どちらにしろ、買った本人が手放すことを決めないと返品すら出来ない。


「本物だって言ってるじゃないですかっ!」


 それでもなお、レスカは認めない。いい加減に、腹が立つ。


「じゃあ、偽物だったらどうしてくれんのさ」

「その時は、何でも言うことを聞きましょう」


 胸を張って、自信満々に答える。その自信はどこからくるんだろう?


「その代わり、本物だったら土下座してもらいますからね!」

「上等だ!」


 全く、レスカはとてつもない意地っ張りだ!


 それからしばらくの間、あたしとレスカが顔を合わせることはなかった。





                     ◆◇◆



 蟹を潰しながら(でかすぎると食欲は湧かないんだね。 初めて知ったよ)黒い部屋を抜けると、今度は石造りの通路が現れた。

 雰囲気を重視したためか、明かりは全て松明になっている。


 レスカは後ろの方で、ずっと壺とにらめっこしている。そのおかげで、罠に突っ込んで行く、なんて非常識な事件は起きずに済んだ。壺の唯一の利点だ。

 あまりにも、ラオがかわいそうだったからね。


「しっかし無駄に凝ってるよね」


 いちいちデザインを変えたり、エレベーターを作ったり、それを数日でやってのけるなんてかなり凄い。


「まあ、作ってる方の趣味なんやろうな」


 壁の石の一つを押しながら、ラオが答える。

 てか、石を押して、新しい道が現れるとか凄い王道な仕掛けだな。

 物語は王道よりも邪道の方を好んで読んできたけど、実際に見るのは王道の方がいい。間違っても壁を破壊とか、邪道な進み方はしてはいけないと思う。


「おいレスカ、もう少し静かに出来ないか?」


 邪道なカインがレスカに言う。

 そう言いたくなるのも仕方がないだろう。なぜなら、レスカは常にブツブツと呟きながら歩いているのだから。


「その剣、折りますよ」


 対するレスカの返事、もとい脅迫に、カインは黙りこくる。流石に、二度目は洒落にならないようだ。

 今回の請求も、かなりギリギリだったらしい。


「あんなのBGMだと思えばいいよ」

「そんな物騒なBGMはお断りだ」

「カイン、諦めた方がええわ」


 まあ、何かに没頭するレスカはかなり怖いしね。

 古代魔法を研究していた頃は、どんなだったんだろう?想像するのも勇気がいる。



 石造りの道を歩く内に、大きな扉が見えてきた。


「あそこの奥に、何かありそうじゃない?」

「ありそうやな」


 扉は、やはり簡単には開かない。ラオが開けようと取り掛かる。


「南京錠だったら一瞬だったのにな」


 カインがぼそりと呟いた。


「一瞬って……」

「斬る。 それが一番手っ取り早い」


 真顔で言うからには、冗談ではないのだろう。


「多分、カインみたいな人がいるから南京錠じゃないんだと思う」


 触れたら爆発する、なんて仕掛けがあったらどうするつもりだ。

 このダンジョンが侵入者を防ぐためのものでなかったら、どうなっていたんだろう。かえってわきまえたかな?


「開いたで」


 ラオが促しても、レスカは相変わらず壺とにらめっこをしている。時折壺に指を突っ込んで、かき混ぜるその様子はまるで魔女。

 あたしはゆっくりと目を背けた。なんか怖い。関わってはいけない感じがする。

 でもなんだかんだでついて来ているから、問題はないだろう。


 扉の先は、大広間と言うような場所だった。もちろん石造りの殺風景な色だが、それがかえって遺跡のような印象を与えている。

 中央の台座に、銀色の宝箱が置かれていた。


「なんか近寄ったらダメな気がする」


 そんないかにも『取って下さい』みたいに置かれたら、逆に取れないじゃないか。あたしは天邪鬼だ。


「ルイが正解だな。 結界が張られているぞ」


 カインが宝箱に少し近寄って、言った。


 あ、マジですか。単にビビっていただけなのに。


「結界って外せるの?」


 あたしはラオに聞いた。


「あんまりやったことはないんやけどな。 多分出来るわ」


 空間魔法と相性がいいらしい。


「だが、レスカはこういうの得意そうだよな」


 カインが、後方でマッドサイエンティスト(?)しているレスカに呼びかけるが、全く相手にしてもらえない。

 びっくりするほど協調性皆無だな、おい。まあ、意地を張らせたのは自分なんだけども。


「ちょ、俺の役目取らんとって!」


 カインがレスカに頼ったことに、ラオが慌てる。


「そんなんされたら俺、ここに来て何もしてへんやんか」


 地味に色々気にしていたようだ。

 カインとレスカが異常なだけなのに。


「いや、ラオがいなかったら持たなかったよ。 何もしてない、はないから」


 常識人は損だね。


 というわけで、ラオが解除。あたしとカインは魔物の警戒という役目と共に待機。レスカは壺と格闘、と持ち場が決まった。

 最後のは違う。絶対何か違う。違うったら違う。


「……知らないって幸せだよね」


 あたしの呟きに、カインも黙って頷く。目線の先にはもちろんレスカ。


「もしかしてさ、カインって案外まとも?」

「自分のことはよく分からないが、案外とは何だと言っておこう」

「あはは」


 カインが最近、饒舌になったような気がする。

 あれか、もしかして人見知りなのか?甘党は人見知りだったのか?


 レスカの行動を観賞したり、カインの横顔を観賞したりして(悲しいかな女子の(さが)だ。 ちくしょう!)、時間は過ぎていく。

 別にさぼっていたわけじゃない。単純に何も起こらなかっただけだ。

 今思えばこのパーティ、緊張感が皆無だな。

 今までこのダンジョンで見た、他のパーティも割と緩かった気がする。何しろ人に妨害する余裕があるんだから。それにストーカー共は二人組だったし。明らかに役割が足りないだろう。


「ふぅ……」


 ラオが仕事を終えたようだ。


「お疲れー」


 あたしはラオの方に行く。

 カインは、レスカの指先を凝視していた。うん、どれだけ目が離せないぐらいの魔女っぷりだったか……察しろよ、な?


「それじゃ、開けんで」


 ラオが蓋に手をかける。

 あたしの心臓はバクバク鳴っていた。だってこれ、期待しない方が無理という話だ。中に何が入っているのか、凄く気になる。

 ああ、もう、これぞファンタジーの醍醐味だね。いいよ、ファンタジー大好きだよ!


 息を飲み、瞬きすらせず宝箱を見つめる。

 ゆっくりと開かれた、宝箱の中には―――


「毛皮か?」


 見えたのは、真っ白な物。あたしは反射で、ラオの肩を引いた。

 なんか嫌な予感がする。あたしの第六感、『なんかミ◯ック来るっぽい』が叫んでいる。

 そして、その予感は的中した。


「うおっ!」


 ラオを引いた瞬間に、真っ白なもふもふが空中に溢れ出して来たのだ。


 

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