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無題  作者: さちはら一紗
ダンジョンと アンデッド
33/75

王道と 邪道

「おい、こっちに来たぞ」


 ストーカーたちは、あたしたちに気が付いたようだ。


「え~、めんどいです~」


 ちょっと、君が言い出しっぺじゃないか。


「ルイ、アレで時間稼ぎして下さい」

「あー、はいはい」

 

 あたしは鞄に手を突っ込んだ。

 レスカは暴君だ。


「何だそれは」

「見れば分かるでしょ?」


 カインは不思議そうな顔をした。


「どう見てもパチンコにしか見えないんだが」

「うん。 そうだよ」


 丸いものを、四つ連続で飛ばす。それは勢いよく、彼らの目に命中した。

 おぞましい叫び声が響き渡る。

 そしてその隙に、あたしたちはさっさと撤退。




「失明するぞ」


 おおう……カインは地味に良心的だね。


「大丈夫。 たいしてスピード出てないし、あれ、粉だから」


 正確には、粉を丸めたものだ。


「何の粉だ?」

「唐辛子とか、石鹸とか」


 調味料の値段は日本とくらべればそこそこするものの、想像よりは安かった。魔法万歳!


「名付けて『ゼロ距離催涙弾(仮)』」


 ガスじゃないとかは言っちゃだめ。ゼロ距離じゃないとかも言っちゃだめ。何のための(仮)だと思っている。

 多分、きっと、失明はしない。


「……何のために作ったんだ」

「え゛」


 あたしはレスカの方に目をやる。が、顔に書いてあるのは「ダメ、絶対です」だった。


「ん~、企業秘密?」


 ですよねー。まさかレスカと壮大な悪戯を計画してた、なんて言えないですよねー。


 カインは納得がいかないながらも、それ以上の追及はしなかった。

 カインの株が、1上がった。

 カインの株が、3になった。

 低っ!





 空気と化していたラオが、ゆらりと歩いてくる。


「お前ら―――」


 そしてビシリと指を差した。


「―――頭おかしいわーっ‼」


 人を指差してはいけません。


「いえ、アンデット化して自意識を保っていられる時点で頭おかしいですから。 今更指摘されても困ります」


 平然と構えるレスカ。


「人の考え方は千差万別だ。 頭のおかしい人などというものは存在しない」


 なんか哲学するカイン。


 こいつ等、狂ってるって認めちゃったよ。


「あれ? ちょっと、あたし入れてないよね?」


 三人に、物凄い目で見られてしまった。


「え、ちょ、あたしマトモだから! 変人と狂人は違うから!」


 必死に、全身全霊を込めて弁解する。

 変人と変態は違う。狂人も違う。


「俺は知らん! 知らん知らん知らん!」


 ラオは耳を塞いで、先に行ってしまった。


「レスカぁ……」


 助けを求めて振り向いたが、


「知らないって幸せなことだと思いますよ?」


 そう言って、ラオの後を追ってしまった。


「……人生、色々あるさ」


 苦い顔で、カインに微妙なフォローを入れられる。

 甘党に人生を語られちゃったよ。


「ちょっと待ってよっ!」


 狂人二人の相乗効果でそう見えているだけだ。

 うん、そうに違いない。きっと……そうだから……。お願いです。そうだと言ってよ……。


 行き場のないモヤモヤを抱えながら、あたしは慌ててついていくのだった。





                      ◆◇◆



 順調に進むと思われたダンジョン攻略は、五階にて終わりを告げる。


「また行き止まり?」

「みたいやな」


 ラオの返答を聞いて、あたしは壁にもたれかかった。

 三つに分かれていた道の内、全てを調べたにも関わらず、どれも行き止まりだったのだから仕方ないことだろう。


「まさか四階に戻るんですか?」


 レスカも不満そうだ。


「いや、わざわざ〈探索(サーチ)〉が効かんようにしとるから、どこかに隠し扉でもあるんやと思う」


 〈探索(サーチ)〉防ぎの方法は、あることにはあるらしい。知っているのは竜族ぐらいだが。

 ダンジョンの全てをそういう作りにしないのは単なる気まぐれか、それともそうぽんぽんやれるものではないかのどちらかだろう。

 ちなみに、精霊式ダンジョンにも〈探索(サーチ)〉が効かない場所があるんだとか。


「あー……つまり手作業で探すしかないわけね」

「せやな」


 試しに象牙色の壁をコンコンと叩いてみたり……叩いてみたり?

 何だか音が微妙に違うような気がする。


「ラオー。 ちょっと来て?」


 ほらここ、と手招きする。

 音の違う部分を、恐る恐る押してみた。


「ルイっ!」


 慌てたラオの声。


「え?」


 一瞬にして、視界が暗転する。

 そして何が起きたのか、理解することも出来ないまま、勢いよく地面に崩れ落ちた。


「痛ぁ……」


 まさかオーソドックスに回転扉がくるとは思っていなかった。

 とりあえず、冷静になって〈暗視(ナイトアイ)〉をかけ直すことにする。

 トラブルに見舞われるのにも慣れてしまったようだ。いいのかなー?それ。


「大丈夫か?」

「ごめん。 でも平気」


 左に顔を向ければ、至近距離にラオの顔。


「近っ!」

「あ、すまん」


 少し距離をとり、そこで初めて手を掴んでいたことに気付く。


「「………」」


 なんか気まずい雰囲気になってしまった。

 色が分からなくて助かっ……だめぇ!あたしはラブコメキャラじゃないい‼誰もそんな展開望んじゃいないー‼


「と、とりあえずレスカたちのところに戻ろうか」

「せやな」


 気まずい雰囲気のまま、壁を探るが


「回らない……」

「一回限りのやつみたいやな」


 嘘だろ。


「レスカとカインって、絶対二人っきりにしちゃいけない組み合わせじゃん」

「あー……うん。 どうしよか」


 再び訪れる沈黙。それを破ったのは、壁の向こうから聞こえる声だった。


『大……か……』

「カイン?」

『ああ、ルイ。 大丈夫か?』

「うん。 ラオもピンピンしてる。 心配かけてごめんねー」

『俺たちは他に隠し扉がないか探してくるから、しばらくそこで待っててくれ』

「了解」


 一回限りの作りなら、他に隠し扉があってもいいはずだ。ここは侵入を阻むために造られたものじゃないんだから。

 あまりに鬼畜仕様だと、見ている方は楽しくない……はず。竜族が無理ゲーを愛する方たちばかりではないことを祈るばかりだ。


「待っとる間、何しよか」

「暇だね」


 魔物が出るかもしれないから、寝るわけにもいかない。というか、床で寝れるほど順応性は高くない。


「なんか話すか」

「話題提供よろしく」


 というわけで、いつもの様に無意味なお喋りが始まったのだった。





                       ◆◇◆



 話題はカインの話から、レスカの話にいつの間にか移行する。

 壺の不満もぶちまけてやった。


「ちょっと聞いてええ?」

「どーぞ」

「『チューニ病』って何なん?」


 あ……。中学校も何もないのに、中二病なんて言葉があるはずなかったね。ツンデレとか通じちゃうのが不思議だけど。


「一言で言うと、『若気の至り』ってやつかな」

「?」

「自分は特別だー! って勘違いしちゃう怖い病気だよ」

「なる……ほど?」


 説明、合ってるよね?


「あと、発症すると美的感覚とかネーミングセンスとかが痛々しくなって、妄想癖も半端なくなる」

「あー……おるおる、そういうヤツ」

「センスの方は、中二病が治ってもなかなか戻らないことがあるんだよねー。 センスの方だけ発症する場合もあるし」


 あたしも何度これに困らされ……ゲフン、ゲフン。

 自分で傷口を抉るほど、馬鹿じゃありません。佐倉さんは、常識人です。ココ重要。


「よう分かった」


 そう言って、あたしの肩をポンっと叩く。


「多分、レスカのことは諦めたほうがええと思う」

「……あ、やっぱり?」


 回復の見込みがないと宣告されました。

 まあ、レスカもそこまで重度ではないようだし。視線が生温くなるだけで済むだろう。

 どっちかと言うと、昔のあたしの方が痛々し……ゴホン。佐倉さんは生まれ変わったのです。ココ重要。





 ピシッ


 何かの音。

 あたしとラオは、同時に立ち上がった。

 ラオが人差し指を口元に寄せる。

 声を出さず、頷くことで返事を返す。


 ビキッ


 今度は最初よりも、大きな音。

 あたしたちは振り向いた。

 後ろから出ている?

 しかし後ろには、壁しかない。




 ガラガラガラ……


「お待たせしましたー」

「大丈夫だったか?」


 崩れ落ちた壁の奥から、出てきたのはレスカとカイン。

 カインは剣を鞘に収め、レスカはロッドを戻した。


「なんか見つからなかったので、頑張っちゃいました」

「あ、そうなんだ……」


 ごめんなさい竜族の皆様。


 ―――こいつ等、強行突破しやがりました。







 後からやって来たパーティがこの壁を見て絶句したと言う話を聞いたのは、あたしたちが回転扉の件を忘れた頃のことだった。






                      ◆◇◆






 なんだかんだで〈探索(サーチ)〉と〈暗視(ナイトアイ)〉が一番役に立っている。ごめんよ、地味な魔法とか思って。

 派手イコール使い勝手がいい、とはならないみたいだ。レスカの古代魔法を見れば分かる。


「カインはさ、神聖魔法以外にどんな魔法が使えるの?」

「水と光の属性だな」

「へー」


 言ってなかったか?と付け足される。

 カインは自分のことを、あまり話さない。ラオに聞いた話の中にも、カイン自身のことは入っていなかった。

 単に聞かれなかったから言わないだけだろうか。


「カインってさ、何か見た目だけは金持ちだよね」


 こっそりラオに囁く。


「実際ええとこのボンボンやからな。 勘当されたらしいけど」


 ……あ、そーなんだー。


 マジで何をやらかしたんだ、こいつは!


「あ、だからお財布の中身がおかしいことになっているんですね」


 なるほどー、といった顔でレスカが言う。

 お高い洋服店に入って値切りまくる君も、大概お財布の中身、というか頭の中身がおかしいと思うよ。


「ラオ、あそこに明かりが見えるんですけど」


 レスカの指差した方向には、確かに光が見えた。


「なんか怪しくない?」


 レーザービームと回転扉と、流石のあたしも懲りている。


「でもどっちにしろ一本道やしな」

「行きましょうよ!」


 ワクワクした声で、レスカが言った。


「罠かも分からんのに突っ込まない、って誓ってくれんなら……」


 前半のことを思い出したようで、ラオは心なしかげっそりとしている。


「もちろんです。 そんな馬鹿に見えますか?」


 胸を張って言うレスカ。

 何だかかわいそうになって、あたしは僅かに癖のあるラオの頭を撫でた。


「ほら、諦めろって言ったのはラオじゃん?」

「俺が諦めろ言うたのは、センスだけや……」


 ゆっくりとあたしの手を除ける。


「センスと感性は同じだよ」


 多分、は心の押入れにしまっておく。

 記憶の曖昧な事例を言う時に使う手だ。自信満々に言ったなら、結構流されてくれる。相手に指摘されたら終わりなんだけどね。後日、恥をかく可能性も大なんだけどね!

 ようは自分を信じるかどうかってこと。例え間違っていても、笑いを取りにいけたら上級者。


 あ、でもセンスと感性は同じだと思うよ。


「行きましょーよー」


 レスカがラオの袖をグイグイと引っ張る。

 あざといっ!……あざといか?

 レスカの行動はいちいち微妙だ。まあ、かわいいんだけどね。

 誤解しないで欲しいが、百合趣味はない。純粋に愛でる専門だ。

 かわいいは正義ですから。例え年上だろうと死人だろうと、黙っていればお人形さんみたいな容姿なのには変わりない。


 変態なんかじゃないんだからねっ!変人と変態は違うんだからねっ!


 同年代がアイドルを追っかけている間に、あたしは二次元にて妄想を張り巡らし(腐女子方面ではない)、同年代がファッション誌を読みふけっている間に、あたしはダークファンタジーのページをめくる。

 変人と言わずして、何と言う?

 抵抗していた時期もあったけど、認めたら楽になってしまった。


 ちなみに、妄想したくなる衝動は異世界に来てからさっぱりだ。




 ……だめだ。テンションがおかしい。


 胃の中がぐるぐると言って、テンション異常の原因が空腹のせいだと気付く。鳴る、というよりは動く、というような音のない腹の虫のおかげで誰の耳にも聞こえていないようだ。今更恥ずかしがったりしないんだけど。


「調べるだけなら損はないしな」


 というカインのとどめで、あたしたちは向かったのだが……


「何でしょうね?」

「普通のランプやんな」


 道からそれた小さなスペースに、古めかしいランプが置かれている。どうってことのない普通のランプだ。


 

「やっぱり怪しくない?」


 逆にどうってことないと怖い。あからさまだともっと怖い。


「まあ、調べてみたほうがええやろ」


 ラオは、ランプに近寄って〈探索(サーチ)〉をかける。


「あかん。 効かへん」


 あたしもやってみるが、なんだか頭の中に流れてくる映像すべてに霧がかかっているような感覚だった。

 ラオは自分の手で調べ始めた。



 ゴトンッと音がして、後ろが塞がれる。シャッターが下りるように、あたしたちは閉じ込められてしまった。


「レスカ、君、何したの?」


 あたしの震える声に対して、レスカがぺろりと舌を出す。


「何やったのおおお!!!」

「邪魔なレンガをどけただけです!! そしたらカコッとかいっちゃったんです!!」


 このバカァ!

 そして床が上がり始め―――いや、この空間全体が上がり始めた。いわゆるエレベーターのような感覚だ。


「あー、ルイ? やったの俺やねんけど」


 いつの間にかランプは、竜の像に変わっていた。


「なんだ。 じゃあ正解じゃない?」


 レスカの胸ぐらをつかんでいた手を放す。


「差別です差別です差別です!」


 レスカが何やら騒いでいるが、日頃の行いが悪いほうがいけないと思う。


 


 スピードは、どんどん上がり始めていた。





 ……エレベーターって、絶叫マシンと紙一重だったんですね。


当作品は、砂糖をばらまきません。

ラブコメが仮にあるとしても、主人公は巻き込まれるだけです。

ずるいからルイに美味しい展開はあげない。


あと、ラオはメリダさん信者だから。

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