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無題  作者: さちはら一紗
ダンジョンと アンデッド
30/75

純粋すぎる 死霊術師

「メリダさん、ルイ、見て下さい!」


 賑わう人々、騒がしい露店。

 あらためて、異国な雰囲気を感じる風景。


「凄くいいな。 レスカはなかなか見る目があるじゃないか」


 赤毛のポニーテールのクールな美女。

 長い銀髪の愛らしい美少女。

 あたしは二人を、後ろから眺めていた。


「このラインがかわいいですっ」


 行き交う人は、時々二人に目を向ける。それほどの存在感だ。


「私もそう思っていたんだ。 気が合うね」


 聞こえてくるその会話は、まさに休日の女の子。ショッピングを楽しむ、女の子特有の会話。


 ―――そう、あくまで会話だけは。



 レスカの手に握られているのは木刀。うら若き乙女が、木刀を「かわいい」とぬかす。

 ……何それ、意味分かんないんですけど。


「でも実用性とはかけ離れていますよね」

「うん。 練習用に装飾を施す必要はないし、何より脆そうだ」

「……露店で売っている時点で怪しいでしょうが」


 ラオっ!カモン!

 あたしはツッコミ要員が欲しい。今すぐ欲しい。もしくはハリセンが欲しい。


「そんなこともないよ? 案外掘り出しものがあったりするんだ 」

「ニセモノの方が多いですけどねー」


 何気にボロクソに言われている、店主のおじいちゃんが地味に可哀想だ。別に木刀にニセモノとかないじゃん。あれ?刀じゃないな。木剣?


「いいから本命行くよー。 メリダさんも、レスカの我が儘に付き合わなくていいですから」

「えー、メリダさんも見たいですよね?」

「うん、私は寄り道しても別にいいんだけど」

「ちょっと! メリダさんのことでしょう⁈」


 気分はまるで、引率の先生。

 方向音痴のレスカと、あまりにも心の広いメリダさん。

 ああ、マジでラオを連れて来ればよかった。カインは結局、あたしに引率される羽目になるだろうから却下だ。甘いものに釣られる様子が、ありありと想像出来る。


 ここはコルスの隣町。町全体が「武器倉庫」と呼ばれるほど、武器職人の多く住む町だ。メリダさんが武器を新調すると言うので、ついて来たのだ。とは言っても、オーダーメイドで注文した剣を取りに行くだけ。主な目的は観光だ。



「だからと言って、本来の目的を忘れんなー!」


 あたしは空に向かって叫んだ。ふと目を離した隙に方向音痴のレスカが消えて、叫ばずにいられるものか。

 あれ?メリダさんもいない?……もしかして、迷子なのはあたしですかっ⁉


 半ばヤケクソになりながら、道を行く。

 マンドレイク事件から一週間。少しは自分が学んだと思っていたのに。どうやら人は、すぐには変われないようだ。


 気分転換がてら、屋台で焼き鳥のようなものを買う。味付けはタレではなく、塩とレモンのようだった。


「ああ、私にもくれ」


 お金を払っている時、客がもう一人来た。


「……メリダさん?」


 そう、それは紛れもなく、さっきいなくなったばかりの女剣士だった。


「ルイ! 良かった……どこに行ったのかと思ったよ。 レスカもいつの間にかいないし」


 かなり精神的に参っていたのだろう。ほんの少し、メリダさんの目がうるうるしている。

 メリダさんの弱点は、どうやら世間一般に心細くなるものらしい。アンデット然り、迷子然り。戦闘が平気なのが不思議だ。


「って、レスカは一緒じゃないんですかっ!」

「いや、いつの間にか消えててね。 いい年して私は迷子になったのかと思ったよ」

「いえ、メリダさんも含めて、全員迷子みたいです」


 スパッと切り捨てたあたしの言葉に、メリダさんが僅かに落ち込む様子を見せる。


「や、やっぱりか……」


 もちろんあたしも含めて迷子だったんだけど。

 しかし今問題なのは、レスカの居場所だ。

 同じ狂人でも、カインの方は案外分別があるようだが、レスカの方は保証出来ない。

 さて、どうするか。



「ルイ、メリダさん、どうかしたんですか?」


 聞き覚えのある声に、メリダさんとあたしが同時に振り向く。


「居たああ!」

「居たっ!」


 そこには悩みの元凶、レスカがいた。


「メリダさん、なんだかんだで集まりました」

「……心配した自分が馬鹿みたいだ」

「?」


 腕輪に携帯電話機能があったらいいのに。


「どうしたんですか? 早く行きましょう?」


 何も理解していない、レスカの言葉。

 どの口がっ!って叫びたい。うん、まあ、あたし達も迷子だったんだけどさ。自覚ぐらいして欲しい。

 しかしそれは、あたしの広い心を持って許そう。

 真の問題は……


「レスカ、それは何かな?」


 あたしはレスカが抱きかかえている物を指差した。


「これですか?」


 それはラピスラズリのような、綺麗な瑠璃色をした―――壺。


「幸運の水瓶です」


 ネーミングに嫌な予感しかしない。

 ちらりとメリダさんに目を向けるが、どうやらこちらは何も感じていないようだった。


「魔具らしいですよ」


 魔具とは、この世界の懐中電灯やオーブンと違うものだ。魔力で動くことは変わりないが、誰でも使えるわけではない。精霊の加護が宿ったもの、もしくは精霊の加護がかかった材料で作られたものを意味する。

 要するに精霊式ダンジョン産のもので作るだけなのだが、上手く精霊の力を残したまま加工するのが難しいため、高価なものとなっている。




「魔具ってことは分かるんですけど何に使うのか分からないらしくて、格安で譲って頂きました」


 うん。なるほど、良くわかったよ。


「レスカ……」

「はい」


 あたしはにっこりと笑って、言った。


「クーリングオフ‼」

「何ですかそれっ!」



 どうやらこっちに「クーリングオフ」という言葉はなかったようだ。


 それはともかく、一回、いや五回ぐらい深呼吸して考えてみよう。

 使い方が分からないと言っているから、保証はしない。保証はしないから、例えニセモノだと思っても文句は言えない。誰が買うんだ。買う奴がいるのか。……いたんだよ!あたしの隣に!自分で「ニセモノの方が多いですけどねー」とか言ってた癖に!


「いえ、本物ですから」


 そしてそれを伝えても、全く反省の色が見えないレスカ。


「うん、本物だね。 正真正銘の壺だね。 そしてこれは、精々花瓶で一生を終えるんだよ? 花瓶になるべく生まれてきた……そういう運命なんだよ」


 目を細めて静かに告げる。

 ああ、これが悟りというやつか。


「意味分からないですし、なんかポエミーですし! ていうか本物ですから!」


 あたしはそれを聞いて、レスカの壺に手をのばした。


「あー! やめて下さいー!」

「うるせー! さっさと寄越せっ! 売りつけたやつの頭に被せて来るーっ!」


 今どき壺とか古いんだよ!


「ちょっと落ち着くんだ、ルイ! 多分その壺は首に入らないよ!」


 見かねたメリダさんが仲裁に入ってきた。


「無理やりねじ込みますうー! そんで返品するんですうー! 慰謝料払えやーっ!」


 口調もキャラも、絶賛崩壊中だ。


「だーかーらー、ルイもメリダさんも間違えてますっ。 壺でも花瓶でもなくて、水瓶です!」


 ドヤ顔で告げるレスカ。


「そんなのどうでもいいよっ!」


 あたしはキレながら答える。広い心?何それ初耳だね。


「いや、どうでもよくないかもしれないよ。 私は壺と花瓶と水瓶の違いが分からない。 ルイ、教えてくれないか?」


 天然由来成分配合の女剣士。……なんか変な言葉が浮かんできた。ああ、疲れてるんだなー、自分。


 しかし、メリダさんのその青い瞳は好奇心に満ちている。だからあたしは責任を持って答えた。



「知るわけないじゃないですか。 自分で調べて下さい」


 低温モードでの返答。氷点下までいかないのが優しさだ。


「さあ、レスカ? あたしに寄越せ。 さっさと寄越せ!」


 いじけようが何しようが、あたしは知らん。


「いや、マジでやめて下さい。 イきます。 パリンとかツルンとかいっちゃいます」


 レスカの声が、少し真面目に変わった。


「それなら接着剤よりも、ご飯粒の方が効果的だよ。 固めがいいらしい」


 前にリゾットを食べたから、米はどこかに売っているだろう。


「まず割らないで下さいっ‼」


 レスカの的確なツッコミが、やけに耳に響いた。







                     ◆◇◆




「あー……疲れた」


 ガタゴトと揺れる車体に合わせ、自分の体も左右に揺れる。三半規管も強くなっていなければ、確実に酔っていただろう。


「ルイが人の物に手を出すからですよ」


 馬車の中でも続けるつもりか。


 ちなみに、馬車の馬がないバージョン―――要するに四輪車も一応は開発されたらしい。しかし、大量の魔力を食うため実用化まで持っていってないそうだ。

 どうやら、蒸気機関はまだのよう。魔法があるからかもしれない。


「人の物に手を出すったって……騙されるレスカが悪いでしょ」


 結局、売りつけたやつは見つからなかった。


「騙されてません。 本物です」

「あー、はいはい。 もう自分で管理して」


 強情だな、レスカは。


「まあ、どうしてもって言うなら鑑定してもらえばいいさ」


 メリダさんのナイスフォローに乗っかって、話を打ち切る。

 そろそろこっちが、大人な対応をしなくては。


 しかしそれにも関わらず、何だかギスギスした雰囲気のままコルスの街に着いてしまった。






「? 騒がしいな」


 メリダさんの言う通り、いつもより街の人に落ち着きがない。


「お祭りでもあるんでしょうか」


 レスカがそう考えた理由は、皆が浮かれた様子だからだろう。


「そんなことは聞いてなかったけどなー」


 記憶を思い起こすが、全く引っかかることはない。

 まあ、この様子だと深刻な心配とかは無用だろう。



「ルイ、帰って来たんか!」


 宿に戻ると、ラオが走って来た。


「何かあったの?」

「騒がしかったですけど」


 その質問に対して、ラオの答えは破顔。




「迷宮式が現れた!」

数日更新を開けようと思います。


本命の迷宮式を、じっくり作りこむためです。決してテストとかは関係がありません。テスト前日でも平然と投稿している人なので、そこらへんは大丈夫です。


おそらく、書き溜めてからの連続投稿という形になるかと思います。

これからも、どうぞよろしくお願いします。



…というわけで、ちょっとシラユキの方を書いてくる。

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