二人っきりの 戦闘
副題:ひどすぎる 戦闘描写
すみません…。
あと、今回長めです。
どうしてこうなった。
「ルイ、大丈夫ですか?」
なんでこんなことになっているんだ。
「黙っていては分かんないです」
どうして―――
「どうして! よりにもよって! レスカと二人っきりなのー‼」
「んなあ! 心外ですっ‼」
静かなはずの森の中、自分たちの声がやけに大きな気がした。
◆◇◆
一言で言うのは簡単だ。「はぐれた」ただそれだけのこと。
「まだ近くにいるはずです。探しましょう 」
「うん」
問題なのはあたしの隣にいるのがラオでもカインでもなく、レスカであるということ。
ラオには常識が、カインには経験がある。しかしレスカに常識はありそうにもなく、いくら強かろうと冒険者としての経験は浅い。何より気分でカタコンベに入り、そして呆気なく迷うような人間(?)だ。
要するに、不安。そこはかとなく不安。
「まあ一人になるよりは良かったよね」
「そうですよ。 ポジティブに行きましょう」
アンデットにポジティブとか言われてもピンとくるわけがない。
「それに、そんなに危険な魔物は出ないって言ってたし」
最低限の注意さえしていれば、いくらでも逃げることは可能とのこと。
「最悪魔法でもぶっ放して見つけてもらいましょうか」
「いや、それはマズイでしょ」
「そうですか?」
魔物に見つけてもらうつもりですか。……大丈夫?この子。
歩いても歩いても、ラオとカインは見つからない。
「どこ行ったんだよ」
「行き違いになっているのかもしれませんね」
途中、見つけたマンドレイクを片っ端から捕まえていく。ただ、あまりにもすばしっこいので種子はなかなか集まらなかった。
「レスカ、ロッドはどこにやってんの?」
レスカの手に握られているのは、あたしと同じ網。
「? これですけど」
まさか……
「網?」
「はい」
「え? 普通のは?」
よく見ると、色や大きさが微妙に違う。
「あんなダサいの持てるわけないじゃないですか」
そういえば、傘にしていたな。
なんというハイテク。……あれ?ハイテクってハイテクノロジーの略だよね。テクノロジーじゃないな。ハイファンタジー?
……自分の阿保さ加減に頭痛がする。
「じゃあ網の部分を大きくしてみたら?」
頭を切り替える。そろそろ阿保は卒業だ。
「そうしたいんですけど、雑に作るとただの武器になってしまうんです。 罰金はごめんですからこの大きさが限界ですね」
網もやはり、原材料は魔力だ。
「じゃあさ、ネバネバにしてみるとか。 蜘蛛の巣みたいに」
「あ、それならいけそうです!」
―――そうして歩くこと数分。
「ルイ~……」
泣きそうな顔でレスカが話しかけてきた。
「虫がいっぱい取れちゃいました……」
………ムシ?ムシって何だっけ?
レスカの差し出した網、それに付着した大量のナニカを見ながら考える。
「……うん、ガンバって」
「うう……私のロッドが虫まみれに……」
レスカは本当に泣きそうだ。果たして死体は涙を出せるのか。
「そんなんでよく地下墓地なんて入ろうと思ったね」
「嫌なのは虫自体ではなくて、ロッドについたことなんです!」
あたしもあの黒くてテラテラしたやつ以外は割りと平気だったりする。もちろん好きではないが。
芳香で除虫菊の香りでもだしたら効くだろうか。
「てか、網の部分を消せばいいじゃん」
「あ……」
おそらく現代でただ一人の天才古代魔術師は、色々抜けているようだった。
「ところで、アテもなく歩いてますけど帰り道は大丈夫ですか?」
そう、ここであたしは現実に目を向けさせられる。
「迷子……?」
「ですねー」
あたしはひたすらに落ち込んだ。
だってすぐに追いつけると思ったんだ!まさか迷っただなんて!レスカと同類だなんて!
地べたに座り込んでため息をつく。
実を言うと、大体の方向ぐらいは分かるのだ。ただ、強烈な自己嫌悪に陥っているだけ。
「ルイ、見てください」
唐突にレスカが口を開いた。
言われるがまま、顔をあげる。
「え?」
レスカの指が指し示す方向、そこには―――
「嘘でしょ?」
―――マンドレイクの大群が、列をなして歩いていた。
◆◇◆
「大漁ですっ! 乱獲です! ルイ、行きますよ!」
今思えば、ここで止めなかったのがあたしの間違い。
「オーケー!」
そして、それにのってしまったのがあたしの間違い。
あたしには嘆く余裕すらも与えられない。
◆◇◆
大群の行き先に、そっとついて行く。
すばしっこいのをどう、効率よく、大量に捕まえるのかを二人で考えていたら逃げられてしまうからだ。
「でも、なんででしょうね」
マンドレイクに高い知能はない。群れる習性だってないのだ。
「じゃあ探るって意味も込めて、ついて行く?」
好奇心は大切だとあたしは思う。
「いえ、今分かったので大丈夫です」
一体それはどういうことだろうか。
「囲まれちゃいました」
いつの間にか、前にも後ろにもマンドレイクがいた。
……好奇心は身を滅ぼすとあたしは思う。
「いやあああ!」
逃げる。とりあえず逃げる。
完全には囲まれていなかったのがせめてもの救いだ。
しかし、
「何あれっ‼」
追う側が追われる側に代わっただけでなく、追う方に巨大な食虫植物―――もとい、ハエトリソウのようなものが加わっていた。というか、マンドレイクが連れて来ていた。
なにが「あそこの魔物はおとなしい」だ!
「マントラップですううっ!」
フライトラップで食虫植物なのだから、さしずめ食人植物といったところか。詳しいのは、小学生の頃に自由研究で調べたからだ。テーマチョイスがアレなのには突っ込まないで頂きたい。
とにかく……あれに捕まったら喰われる!溶かしながら喰われる!死ぬなら楽な方がいい!
「じゃねえだろおお!」
死ぬかあっ!こんなところで阿保な死に方はごめんだ!
「レスカっ! 倒して下さい!」
「あの中に突っ込めと⁈ 何体いると思っているんですか! ていうか私のロッド、どこですか⁈」
逃げる拍子にうっかり置いてきたらしい。
このアホ!バカ!死に損ない!
でも、
「お前ならいける! 素手でも逝ける! 例え自分よりでかいやつが四体いても、レスカなら大丈夫だっ!」
「私の何を知っていると言うんですかあっ!それと『いける』がアッチの意味に聞こえるのは気のせいですよね! 私、もう逝ってますからね!」
ルイが頑張って下さい、と付け足される。
「……逃げる時に矢をぶちまけちゃった……」
「このアホ! バカ! 何やってるんですか!」
返す言葉もない。
と、目の前には大きな濁った沼。
やばい、完全に囲まれる。
「魔法! 魔法です!」
レスカの古代魔法は時間がかかる。準備の間に喰われるだろう。
だからあたしがやるしかない。
「―――氷よ、我の元に形を示せ〈アイ―――」
キュアアアアア
何かの声が聞こえる。
「!」
あたしの詠唱は途中で遮られた。そう、マンドレイクの悲鳴によって。
「………!」
声が出ない。
「嘘っ! あり得ません!」
引き抜かれた時と、死ぬ間際。それだけでしか叫ばないはずだった。
どうでもいいが、レスカには叫び声が効かないと分かってしまった。
「……奥の手を使います。 火事になっても責めないで下さいね」
あたしは黙って頷いた。
もうどうとでもなれ。
「ってわけで、ちょっと気を引いていて下さい」
「~~っ⁉」
死ねってか。死ねって言っているのか。この鬼畜っ!悪魔っ!……あながち間違いではないのかもしれない。
「大丈夫です。 死んだら有効活用してあげますから」
……もういいから、さっさとやってくれ。
あたしは諦めて、ナイフを抜いた。今、ここにいるハエトリソウは一体だけ。残りは十メートルほど先だ。チートの全速力を舐めんな。
あたしはゆっくり深呼吸。
ラオとメリダさんに教えてもらったんだから、きっといけるはず。だから、脚が震えているのは気のせいだ。
願わくは巨大なハエトリソウがあたしを喰う前にレスカが殺ってくれますように!
どぶん
「え?」
目線は自然に音の出処、沼の淵ギリギリに立っていたはずのレスカへ。
濁った沼から伸びる手のような泥に、引きずり込まれていた。
「いやっ!」
必死に手を伸ばしレスカを掴もうとするが、それは虚しく空回り。あっと言う間に沈んでいった。
ウソでしょ?アンデット化したら力が上がるんじゃないの?
……そういえば「それは人体の限界を知らない下級のアンデットだけです。 関節無視とかするからすぐに壊れちゃうんですよ」と言っていた。まさか基本スペックは生前のままなのか。ただ疲れを知らないだけで。
「(うわっ!)」
声は出なくとも、口は自然に動いてしまう。
呆然としている時間すらも、あたしには与えられることはなかった。
ハエトリソウはもう、四体とも追いついていた。手のような部分が向かって来る。
あんた、苔の一種じゃなかった?自分で獲物を捕まえに行っている以上、トラップとは言えない。
なんて、冷静なツッコミをしている暇もなく、あたしは逃げた。容赦無くマンドレイクを踏みつけながらだ。最初からこうすればよかったんだ。罰金というプレッシャーのせいで、視野が狭くなっていた。
仲間を置いて行くなんて、我ながら最低だ。分かってはいても、あたしにとれる道はそれしかない。
逃げることしか出来ない自分が歯痒くて、異世界を舐めていた自分が恥ずかしくて、そしてどうしようもなく情けない。
ぬかるみに足をとられ、よろめく。
その拍子に後ろが見えた。
「~~~‼」
もうすぐそこまで迫って来ている。
それなのに、未だに声は戻らない。それもそのはず、絶え間なく叫び声が聞こえているのだから。
こんなことなら除草剤でも買って行けば良かった、と考える。
肝心なところで活用出来なくて、何がチートだ。何のためのコントロール力だ。
とりあえず鞄の中のガラクタを投げてみたりするが、後ろを見なければ当てられず、後ろに目線を向ければスピードが落ちるという事態。
果物ナイフとカッターが、狙った通りに二体の首(あの閉じたり開いたりする部分だ)を切り落とす。その犠牲は残り二体との接近。
……マジでどうしろと?
無詠唱での魔法を試みる。詠唱破棄は出来たんだから何とかなるだろうと思いきや、びっくりするほど何も起こらない。
まずい。これは本気でまずい。
策が浮かばないまま、こちら側に限界がきた。ここに来てから身体は鍛えたとはいえ、全速力で走っていたのに限界が来ないはずがない。
少し開けた場所に出た、と思ったらあの濁った沼の所だった。
レスカを馬鹿に出来ない方向音痴っぷりだ。
泥人形に引きずり込まれたレスカのことが頭をよぎる。ああ、きっとあたしはバチが当たったんだ。
今になって、やっと腹を括る。もうやるしかない。
マンドレイクにはたいしてスタミナがなかったのか、ここにいるのはたったの五体。蹴り飛ばしてしまえば叫び声なんて脅威でも何でもない。未だに罰金のことを気にしている自分が悲しかったりするが。
最後のナイフを構え直す。
さあ、来い。あたしが声を取り戻したときに地獄を見せてあげるから。
無理にでもテンションを上げて、目一杯カッコつけて、挑んだあたしは出鼻を挫かれた。
沼からレスカを引きずり込んだ、泥人形が大量に現れたたせいで。
「……っ!」
そして反対側から現れたもう一体の泥人形―――全身が泥塗れのレスカのせいで。
事前に書いてあったのだろう、レスカの周りを漂っていた魔法陣があたしの頭上に展開される。周りの魔物までもが入る、大きな赤い魔法陣。あたしのみが入る、小さな白い魔法陣。
「〈深淵の業火〉発動」
レスカが言い放った瞬間視界が360度、真っ黒な炎で埋めつくされた。それはたったの一瞬の出来事。断末魔の叫びすらも聞こえない。
そしてあたしは全てを悟った。
ああ、そっか。レスカのセンスは、古代魔法によって培われたものだったんだ。
緊張の糸が切れ、安心感が心を満たす。にも関わらず、技名の意味が分かってしまう自分が悲しくて仕方ない。
「全く。 この服を手に入れるのに、どれだけ私があの変態魔人に媚びたと思ってるんですか」
全身が茶色に染まったレスカがむくれなから近づいて来る。きっと今さっき消炭にした、魔物へ向けての言葉だろう。
「声は戻りました?」
聞かれて初めて声を出してみる。
「ねえ、レスカ……」
「はい」
言わなくちゃいけないことはたくさんある。だけどまずは―――
「……君は変態魔人に何をしたのかな?」
「命の恩人に対して開口一番それですかっ!」
主人公はヘタレです。やるときやるヘタレです。
レスカは当初、普通にかっこいいキャラでした。どーしてこうなった?
重度の中二病でないのは、私が恥ずかしくてかけないからです。読むほうは平気なのに…。
すでに身もだえ。




