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無題  作者: さちはら一紗
ダンジョンと アンデッド
25/75

ありがたくない ご縁

 朝一番、カインが宿に訪ねてきた。


「……何?」


 夜遅くまでトランプ的なゲームに付き合わされたせいで寝不足なのだ。

 異世界風トランプを持っていたのはメリダさんだ。さすがにメリダさんにはカミングアウトさせなかったが。それを借り、レスカと二人で遊んでいたのだ。

 しかしレスカの強いのなんのこと。いつの間にか日付が変わるまでやってしまった。

 というわけで、あたしは今不機嫌である。寝不足はよくない。



「いや、剣が折られてしまっただろ? どうすればいいのかと思っ……」

「金は貸さない」


 言い終わる前に遮る。Fランクの仕事しかして来なかったあたしは、基本的に貧乏だ。


「てか、教会から給料出ないわけ?」

「あんなので生活出来るわけがない」


 冒険者としての収入が主だと。


「しばらく魔法使い的な感じで活動すればいいじゃん」

「いや、それは……」


 プライドの問題か、通り魔的な心理か。

 と、そこでレスカが戻って来た。


「あ、折った本人に弁償して貰えばいいじゃん」

「ええっ! な、なんの話ですかっ」


 レスカは戸惑っている。


「その通りだな」


 しばらく考えていたレスカは、カインの剣のことだと思い当たったようだ。


「正当防衛ですよアレは!」

「あー、確かにそうかもしれない」


 レスカの言うことも一理ある。斬りつけられて、抵抗するなと言うのは無理な話だ。ただ魔物を倒すという観点から見れば、カインも間違ってはいないんだよな。


「お? なんや集まっとるやないか」


 悩んでいる内に、ラオまでも合流した。


「……廊下だと他の人の邪魔になるから、ロビーに行こうか」






「で、カインのお財布事情はどうなっとんの?」


 進行はラオに任せる。


「飴も買えない残高だ」

「あれ? アネルさんから報酬は貰ったんじゃないの?」

「弁償金の残りに回ってしまった」


 ……マジで何やらかしたんだ。


「だからって私が剣の代金を払うのは無理ですよ」


 知ってる。それにもし承諾しても、払うのはあたしになるし。


「……昨日の今日やから行きたくなかってんけど仕事するしかないんかな」

「ええっ! 二人だけ行かせればいいじゃん」

「何言うとんねん。 剣のないカインは後衛しか出来へんで? レスカも後衛っぽいし」


 いや、最後のは同意しかねます。あ、ラオはレスカが大鎌を振り回すのを見てないっけ。


「確かに二人っきりにするのは危険かも」


 両方狂人ですから。


「そういやレスカは冒険者登録しなくちゃいけないよね?」

「ああ、はい」


 二万……登録料二万……。メリダさんの優しさが身に染みる。


「アンデットが出来るの?」

「バレなければ大丈夫でしょう」


 何か不安だな。ラオにあっさりカミングアウトした前科があるから尚更だ。


「クラスはどうするんだ?」


 それを聞いたのはカインだ。


「そうですね……治療士(ヒーラー)でいこうと思います」


 さすがに表向きに死霊術師と名乗るほど馬鹿じゃなかったか。



 朝ご飯を食べてからギルドに向かうことにする。

 メリダさんは、もう仕事に行ったようだ。

 もの物欲しそうな目でフルーツを横から見つめるカインに餌付け。糖分不足で暴れられるよりはマシだろう。

 レスカはしっかり胃袋に朝食を収めていた。……少しはカインに分けてあげてもいいんじゃないかな。ラオですらも渡していたのに。

 カインは朝ご飯を食べていなかったようだ。

 あたしはカインの私生活が知りたい。というか、家計簿的なものが見たい。




 レスカの登録は(奇跡的に)何事もなく、完了した。主に笑って誤魔化していたけど、元聖女様の微笑みは破壊力抜群だった。後で聞くと、神聖魔法で軽く癒しの効果を振りまいていたらしい。麻薬的な感じでとらえてしまうのは、本当に何でだろう。


「よっしゃ、次はパーティ登録やな」


 パーティ登録をすることで、パーティランクまでの依頼を受けることが出来るようになる。つまり、レスカはFランクの雑用をしなくていいということだ。

 カインはCランク、ラオはD、そしてあたしがEで、レスカがFだ。パーティランクは間を取ってDと認定された。Eでなかったのは、レスカが上級の神聖魔法を使えるからだろう。


「あれ? 腕輪のデータに古代魔法は表示されないの?」

「今は存在しないことになってますからね」


 メインコンピュータ(的なもの)に最初から入っていないということだろうか。


「リーダーは誰にするん?」

「ラオでいいと思うよ」


 おそらく形だけになるだろうけどね。

 狂人二人も同意していた。大丈夫、君たちは選択肢に入ってないよ。



「そんなことよりも、大事なことがあるじゃないですか」


 レスカが一歩前に出る。


「パーティ名です!」

「「「………」」」


 いや、そんなドヤ顔で言われてもさ。


「無くてもいいだろう」


 冷静なカインの言葉。地味に常識は持っているようだ。


「えー? 必要ですよ」

「めんどくさいじゃん」

「だったら私が決めちゃいます」


 そう言って少しの間考えこみ、何か閃いたのかパッと顔を輝かせた。


「ナイトメ……むぐッ⁉」

「ハイ、ストーップ」


 急いでレスカの口を塞ぐ。

 ダメだ。薄々思っていたけど、この子のセンスは厨二ってる。


「そういう大事なことは、みんなでゆっくり決めようねー」

「……さっきと言っていることが違います」


 知るか。あたしは矛盾を生み出しながら生きているんだ。お願いだから、あたしの古傷を抉らんでくれ。


「リーダー! さっさと指示出して!」

「……なんか全然嬉しくないんやけど」


 話をそらすために呼んだとバレたか。微妙に感がいいよね。……あたしが下手なだけ?


 とりあえず、あたしたちは受ける仕事を選ぶことにした。



 ……なんか異世界に来てから借金ばかりに縁があるような気がするのは気のせいだよねっ!誰か気のせいだと言ってよねっ!

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