理不尽な 責任追及
前の話に神聖魔法についての説明を増やしました。
もうすぐお気に入り登録が五十件に到達します。ありがとうございます。
「ふ、ふふふ……」
レスカは密かに笑みを漏らした。
カタコンベで出会った目つきの悪いパラディンと、明らかに新米のアーチャー。その二人をレスカがアンデット化して身についた能力、魔力探知で調べたところ衝撃の結果が出たのだ。
カインと名乗るパラディンの方はもちろん、そのクラスに相応しく上級魔法を扱えるだけの魔力保有量だった。そこまでは予想通り。上級魔法の一つも使えないならパラディンと言うのは詐欺になるのだから。
ただ、問題だったのはルイというアーチャーの方。彼女の魔力保有量は「異常」これに尽きる。この年の人間としては最高峰ではないだろうか。
しかしそれでもルイのクラスはアーチャーなのだ。本当に何で魔法使いを目指さなかったのだろう、とレスカは思う。
レスカの魔力探知能力では、保有量はぼんやりと感覚でしか分からないのが残念でならない。
そして、何よりも不可思議なのが、彼女の魔力の安定の無さだ。まるで後天的に手に入れたかのような、揺らぎ。今にも外れそうで、奪えそうなほどに。
面白そうな予感がする。ルイについて行って損は無い気がした。
生きている間が、あまりにもつまらない人生だったから今度はひたすら面白いことを求めると決めたレスカは、興味の対象としてルイを定めた。
階段を上がるルイの後ろ姿に心の中でそっと呟く。
―――いつかあなたを研究させて下さいね?
◆◇◆
「あ、雨上がったみたいだ」
ほんの少しだけ青空が見える。ただ、太陽は大分西に寄っていた。今は何時ぐらいだろうか。
地下墓地の外ではラオたちが待っていた。
「遅かったやないか」
「色々あったんだよ」
いや、それにしてもやっと出られた。やっぱり外の空気は美味しいね。
そういえば、階段を上がっている最中何か悪寒がした。あんなところにいたら、精神状態がおかしくなるだろう。……元々おかしい人は逆にまともになるだろうか。
あたしは後ろの二人を振り返る。
「ん? 誰やのその人?」
案の定、ラオはレスカのことを聞いてきた。
「あー、えーと後で説明するわ」
うん、どうしようか……?
ラオとリタたちには先を歩いてもらう。その間にカインにそっと囁いた。
「……ねえ、どうするの」
「悪いが誤魔化しなどは苦手なんだ」
カインは基本堅物。ラオが言っていた通りだ。
「ねえ、レスカ? 何て言うつもり?」
一番後ろからぽてぽてとついて来ていたレスカに問いかける。
そういやふつうに太陽光を浴びているけど大丈夫なんだろうか。
「えー、めんどくさいです」
そう言って、ロッドを日傘に変形させた。柄(?)の長さまで変わっている。日傘が白って意味あるのか?
「自分のことでしょ。 考えてよ」
「むー……分かりました」
レスカは不満そうながらも承諾した。
「で、やっぱり光はだめなわけ?」
「そうですね、特に害は無いんですけど長時間浴びると気分が悪くなるんです。まだ 結構歩くんでしょう?」
日傘を黒色にしないのか、と聞いたら、白にしか出来ないと返ってきた。そういえば大鎌状態の時も、刃の色は白っぽかったな。
「ねえねえ、お姉ちゃん……」
「ああん? てめーには後でしっかり制裁を加えてやっから今は黙って反省してろやクズ」
無邪気に前から話しかけてきたリタをひるます。
君が脱走しなかったら、明らかに面倒なフラグが立ったレスカにも出会わなかったんだからね?まあ、何にもないかもしれないけど。それでもみんなが迷惑したのには変わりない。
口が悪いのは勘弁して欲しい。地下墓地なんてところにいたせいでかなり精神状態が不安定なのだ。もうそれは、自分でも分かるほどに。
……要するにこれが本性である。いや、基本穏やかですから、佐倉さんは多分いい人だから!だからラオ、お願いします引かないで下さい。……何引いてんだよカイン‼てめーの方が危ない人だろうが!あれ?レスカも引いてる?いや、君はリタの本性を知らないから、ね?ね?
お願いです、誰かこいつ等をしばいて下さい。
結局ラオに説明するのはリタたちを強制送還した後のことだった。
言い訳の天才こと、佐倉さんは傍観に徹することにした。……さくらじゃないよ、さぐらだよ。結構よく間違えられるんだ。
それにレスカだって秘密で古代魔法を研究していたんだ。隠しごとぐらい、上手くやってのけるだろう。
って思っていたのに……信じていたのに……何で全てをカミングアウトしちゃうかなあ……?ねえ、マジで何で?
「え? マジで聖女レスカさん?」
ぽかーん、とした顔から意識を取り戻したラオの声はいつもの勢いがない。
おい待て、聖女ってなんだ。
「わあ、そっちで呼んでもらうのは久しぶりです」
レスカの声が弾む。
だから聖女ってなんだ。
「そういやそんな呼び名もあったな」
カインまでもわけ知り顔。
いや、あたしを置いていかないで!
レスカが処刑されたのは五年前。しかしそれ以前から治癒魔法(治癒魔法は神聖魔法の系統だ。ちなみにカインは使えない)の使い手として有名だったらしい。
無償で治療するのは当たり前。いつしか「聖女」とまで呼ばれるようになった。
ちなみにレスカが処刑されたやらなんやらはミレニア教徒の一部しか知らない。
だが噂レベルで蔓延しているそうな。
それにしても……
「聖女……?」
「何か文句があるんですか?」
いや、見てくれは理解しよう。しかし中身は……うん、目線が怖いのでやめとこう。
ラオはレスカのことをあっさり受け入れた。元々悪名よりもいい噂の方が多かったそう。でもラストで上書きされちゃ、世話ないよね。
あたしはラオの、順応性の高さを思い知った。カインにだって普通に接しているし。
実はカイン、結構怖がられてるのだ。街に戻ったけど、道をあるいているだけで人が除けて行く。かなりのミレニア教本部呼び出し常習犯らしい。とばっちりがあたしの方まで来ないよね?
まあラオがあっさり受け入れたのは、多分地下墓地でのヘンテコな会話を知らないからだと思うけど。
「で、何であっさりばらしたわけ?」
ちょっと暗いトーンで言ったにも関わらず、レスカはしれっと言葉を返す。
「元聖女が嘘に長けてるわけないじゃないですか。 死霊術も、成功した途端あっさりバレましたし」
「………」
この世界の聖職者はみんな馬鹿正直で、ついでに狂っているんだろうか。
「それはそうと、レスカ……さん? あれ? 様やろか」
ラオ、様はない。絶対ない。ナイスツッコミを理由にカインを見逃すやつが様付けされる世の中は間違ってる。面白そうを理由に不吉なフラグを立てるやつが様付けなわけない。
「呼び捨てで結構ですよ?」
「じゃあ遠慮なく。 で、これからどうすんの?」
レスカは首を傾げて考える。
「そういや私、一文無しでした」
……あれ?デジャヴ?
「というわけで」
これ、前にもあったよね?
「ルイ、お金を貸してくれませんか?」
………。
「どうや? 自分が過去に言うたセリフを聞かされんのは」
「メリダさんの懐の広さを思い知った」
なんとなーくカインを見る。
「……俺は罰金やら弁償金やらで貸せるほどお金はないぞ」
「ほんと何をやらかしたんだよ」
「ルイ、世の中には知らん方がええこともあんねん」
やっぱりあたしがレスカの面倒を見るんですか。
「拾ったものには責任を持たないと駄目だからな」
「よろしくお願いしますねー」
―――拾ってないです。ストーカーです。平和を揺るがすフラグにしか見えないです。ねえ、誰か助けて下さい。
街に戻ってしばらくしたら日が暮れてしまった。あたしはレスカを連れて宿に戻る。野放しにすることも考えたけど、回り回ってやっぱり面倒なことになりそうなのでせめて監視出来る方にしたのだ。もちろん強いから味方につけたい、という打算もある。我ながら捻くれてる。
カインは教会で寝泊まりしているらしい。本当にお金がないんだね。
ラオはあたしやメリダさんと同じ宿だが、寄る所があるとか言ってどこかに行ってしまった。
ちなみにあたしが泊まっているのは、未だにあの小さな特別個室である。だって基本、外にいるし。本当に寝るしか用がない。
さすがに二人は無理だから部屋を替えてもらった。
ベッドが二つと机がある部屋。お値段は逆スイートルームの三倍だ。
いや、そろそろ特別個室は卒業かな、とか思っていたからいいんだけど。借金返済の時にふんだくったお金があるし。今回の報酬だって出るし。別に痛い出費じゃないから!
「そう言えば私、寝る必要がありませんでした」
……やっぱりお前、もっかい死んで来い。
登場人物紹介を編集しました。




