アンデット 拾いました
「しかし、どういう経緯でここにいるのかが分からないんだが」
カインはもう、レスカを倒すことを諦めたようだ。元々仕事熱心ではないんだろう。自ら進んでミレニア教徒になったクチじゃないらしいし。
「あたしも知りたい」
古代魔法とやらにも興味がある。
「まあ、時間はたっぷりありますしいいでしょう。 その代わり……」
レスカはにっこり笑って言った。
「出口を教えて下さい」
……とりあえず、歩こうか。
◆◇◆
そうですね、どこから話しましょうか。えーと、目覚めたところからでいいですかね。
薄ら寒いな、と思ったんです。真っ暗で何も見えなくて、私は死んだことを思い出しました。
地獄か死後の世界かと考えたんですけどね、手を動かすと何かにぶつかる感触がしたのでアンデット化したということが分かりました。怨念の塊みたいな人生でしたから。アンデット化してもおかしくないぐらいの。
お墓から出るのには苦労しました。私、神聖魔法と古代魔法しか使えないので。
ちゃんとお墓が作られていて驚きましたよ。しかも半永久的に腐らないよう、魔力を取り込んで凍らせてくれていたんです。いわゆる冷凍庫みたいな棺ですね。全くこれが親バカです。
まあそのおかげで大分鈍くなっていたものの、五感は残っていたんですよ。凍らされていて本来は、薄ら寒いな、じゃすまないですもん。ただ、聴覚と味覚は全力で回復させました。生きている人間には劣りますが。
◆◇◆
「何で味覚っ⁈ 死んでるんでしょ」
「必要は無いけど食べれますよ」
「消化出来るのか? 死体だろう?」
カインも不思議そうな顔をする。
「古代魔法で、胃の中の物が消滅するよう術式を組み込んでいます」
「魔力の無駄使いだろ」
カインの言葉に激しく同意。
「な……! じゃあ、あなたたちは目の前で美味しそうな物を食べられて自分も食べたいと思わないんですか! 鈍くなっているとはいえ、嗅覚は残ってるんですよ? そして口に入れた時、味覚がほとんど残ってなかった悲しみが分かるんですか!」
その表情は、さながら悲劇のヒロイン。
「……ねえ、これが本当に世紀の大犯罪者?」
「俺にも分からん。 何でこんなのに負けたんだ……」
カインが悲痛な表情をする。折られた剣は、結構気に入っていたらしい。
「まともに現役の聖騎士とやり合って勝てるわけないじゃないですかー。 もちろんズルさせて頂きました」
レスカに斬りかかった時、カインの剣には女神の加護がかかったままだった。レスカは自分の神聖魔法で共鳴させて、折ったとのこと。
「そんなことが出来るのか」
カインは驚いた声を出す。
「もちろん誰にでも出来るわけじゃないですよ。 神聖魔法は古代魔法から派生したものですから使えるんです。 私の専売特許ですね」
なるほど。でも
「ごめん、古代魔法って何?」
「……そこからですか!」
現代の魔法は呪文だけで発動するのに対し、古代魔法は術式を必要とする。膨大な魔力を消費する、危険な魔法。精神をすり減らすので寿命が縮むとまで言われている。
良い子は真似しないでね、とテロップに出るような魔法ってことだ。
対して神聖魔法は、本質的には現代魔法に近いとのこと。魔法によっては術式を必要としたり、魔法陣が展開したりする。リスクの少ないサラブレッドってことだろう。
「おかげさまで髪が真っ白になっちゃいました。 まあ今は寿命もへったくれもないので使いまくっていますけど」
え、それ白髪だったんだ。
「でも白髪の色じゃなくない?」
「抜けないように魔力を流していたら変色しました」
悩みが中年のおっさんレベル?
「あ、何か今失礼なこと、考えましたね!?」
職業柄、人の考えていることがよく分かるそうだ。
「……ねえ、職業って何? 死霊術師?」
カインに囁く。
「巫女ですよ。 清く美しい、か弱き乙女です」
あれか、シスター的なやつで考えていいのだろうか。懺悔室とかにいたんだろうか。自分が懺悔した方がいいんじゃないか。
レスカは巫女さんへの夢を壊し過ぎだ。
「むー……。 死体ですから髪の毛が新しく生えないんです。 美少女が禿げなんて冗談でもキツイでしょう?」
「………」
想像した。つらい。
あたしが悶絶している間にカインはレスカに話の続きを促した。
スルーですか、あたし。寂しい……。
◆◇◆
せっかくですから今度は自由気ままに生きようと考えたんです。で、自由気ままに歩いていたらいつまでたっても人に会えなくてですね、何かいつの間にか森の中にいましたね。あはは、ほんと何ででしょうね?
まあ、そこで魔人の方に出会いまして、魔王軍にスカウトされました。魔物になってしまったわけですし興味もあったんでついて行くことにしたんです。ところがボスの魔王は姿を現さないですし、やることはつまらない、美味しそうに見えた料理はクソ不味いってわけで一ヶ月程しか所属してませんでした。あろうことか私を下っ端扱いでしたし。
そしてまたふらふらと旅を始めました。
で、雨が降り始めたので雨宿りがてらここを探検しようと思ったら出られなくて困っていたわけです。
◆◇◆
とりあえず分かったのは、レスカは筋かね入りの方向音痴だってこと。
何かもうツッコミたくてしょうがない。何で森の中に入ってんだよとか、何で魔王の配下になってんだよとか、てか魔王、活動してたのかよとか、巫女がクソとか言うなよとか……一々つっこんでたらきりがない。
カインなんか無言で聞いていた。スルーする気満々だ。
ものすごいモヤモヤした気持ちを抱えたまま、最初に下りた階段の前まで着いてしまった。
「あら? こんなに近かったんですか」
レスカは自由気ままに逝き過ぎたんだよ、何て言わない。言えない。言いたくない。
ちなみに道中現れた骸骨たちはレスカが主に撃破した。あのロッドは魔力を流すと刃が出る仕組みらしい。ビームサーベル的なイメージだろう。なのであの大鎌はかなり軽い。刃自体が魔力で構成されているから。
ロッドは魔王軍から拝借してきたそうだ。この世界の聖職者は狂ってるよ……。
何で刃を槍とかの形にしないのか聞いたら「だってかっこいいじゃないですか」って返って来た。……触れないであげよう。あと、仮にも元巫女なんだから大鎌を振り回すのはビジュアル的によろしくないと思う。
剣が使いものにならなくなったカインは後ろの方で魔法攻め。神聖魔法以外にも結構使えた。カインが不満そうだったのは言うまでもない。
あたしはちまちま弓で潰していった。レスカがおおざっぱなので(〈暗視〉が使えないためだ。魔力を感知しているらしい)それをしらみつぶしに当てていった。ちょっとは成長したと思う。
「ここから外に出れるが、お前はどうするんだ。 人に害をなすようなら俺は消さなくてはならないんだが」
カインがレスカにそう言った。
いや、今から悪いことしますって言う悪人はいないでしょ。
「そうですね、あなたたちについて行きましょうか」
ふーん。そうなんだー、って
「はあ?」
何でそうなるわけ。
「だって面白いことがありそうですし。 私、勘に従って動くことにしてるんです」
その勘がレスカの方向音痴を確立させたんですね。
「止めても無駄ですよ? 勝手について行きますから」
「……おい」
人はそれをストーカーと呼ぶんだが。なんか君の経歴を聞く限り、もの凄く面倒なことになりそうなんだが。
カインは興味を失ったらしい。
あたしはアンデットに懐かれてしまったようです。……大丈夫か、おい。
ルイ:ツッコミに回らざるを得ない、可哀そうなボケ。
ラオ:捌く量が圧倒的に多くなりそうな、この話で唯一の純ツッコミ。
カイン:真面目な、少し狂った天然ボケ。
メリダ:クールビューティー装った、天然ボケ。
アネル:関わりたくない、傍観者。
リタ:ボケの概念もツッコミもわかっていないが、おそらくボケ。
レスカ:生きていr……存在しているだけでボケを振りまく。圧倒的な存在感を誇るボケ。




