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無題  作者: さちはら一紗
ダンジョンと アンデッド
21/75

異次元な 神聖魔法



「〈女神の加護〉っ!!」


 ほとんど反射であたしは叫んでいた。

 これは攻撃に使える、初級の神聖魔法。武器などにかけるタイプの魔法だ。ついでに低燃費。と言っても、対アンデット以外に使い道がないのだが。

 魔法のかかった矢は、ほんのりと青白く光っている。白い明かりを出す光の魔法とはまた違う。

 

「ルイ、俺にもかけて!」


 ラオが両手に持った大きめのナイフを見せる。


「分かった!」


 カインはもう既に、自分のロングソードに〈女神の加護〉をかけて、骸骨に斬りかかっていた。

 あたしも半分パニックになりながら矢をつがえて―――どこを狙えばいいの?

 とりあえず頭蓋骨を射る。と、当たった瞬間から骨が崩れ出した。〈女神の加護〉すごい。


 気が付けば、数は半分以下になっていた。主に殺ったのはカインだ。……アンデットに殺るも何もねーだろ、とかは言ってはいけない。

 カインの姿は、破壊活動中のリタを彷彿させた。真剣なのに、楽しんでいるように見えてならないのだ。


「バトルジャンキー?」

「ああ、それやな」


 ラオが向かって来た一体を倒しながら同意。聖職者がバトルジャンキーって世も末だな。全員がこうだったら、魔王じゃなくてお前らが世界を滅ぼすだろって言いたい。そうだ、いい事考えた。ミレニア教徒が魔王になればいいんだ。

 リタにはしっかりと教育しようと誓った。……いや、やっぱりノイローゼになるからアネルさんに任せよう。


 アンデットたちはものの数分で片付いた。と言うか、カインがほとんど片してくれた。


「ミレニア教ってなんなの⁈」


 あたしの心からの叫びだ。人事ぐらいちゃんとしろよ!


「しゃーない。 あの爺さんボケ気味やから」


 あの爺さんとは教会にいた、聖水を売っていた人だろう。


「留守中の浄化は頼んだんだがな」


 カインはそう言いながらも満足そうな表情をしていた。


「楽しかったんですねー。 あたしはなんかもう楽しいとか怖いとか、そんな次元じゃなかったよ!」


 人間、強烈なショックを与えると感覚が麻痺するようだ。下に骸骨が転がっていても特に何も感じなくなってしまったs。


「そういえばカイン、初級の神聖魔法しか使ってなかったけど?」


 確かラオの話では、すごい神聖魔法の使い手とあったはずだ。


「雑魚にはこれで十分だろ」


 雑魚だったんだ……。結構動きも速かったし、襲って来たし、あたしには十分に脅威だったんですけど。


「かっこつけやがってコノヤロー。 斬りたかったって素直に言わんかい」


 ラオが肘でカインをつつく。


「否定はしない」


 ……もういいです。


「こんな湧いてて、リタは大丈夫やろか」

「急ぐぞ」

「はあ……」


 元を言えば、この甘党のせいなんじゃないか。


「ねえ、さっきのやつさ、外に出ないわけ?」

「出るぞ?」


 さも当たり前と言うように、カインが答える。


「あいつら下級のアンデットやから夜しか出られへんし、日が昇る前にカタコンベに戻るような知能も持ち合わせておらんよ」


 下級のアンデットは、太陽の光を浴びると崩れるそうだ。力のあるやつは耐えられるらしいが、やっぱり好まない。

 夜に街の外に出たくないな。




 入り組んだ通路をゆっくりと進む。


「道に迷ってたりしないよね?」


 マッピングとかしなくていいのだろうか。


「だーいじょうぶ! 俺の空間魔法で記録済みや」


 中級にそういう魔法があるらしい。


「一応、地図は持っている」


 カインも無愛想ながら、そう答えた。


「なんか魔法を使える人は多いんだね」


 今まで出会った人は皆、何かしら魔法が使えた。


「誰でも一つは使えるはずやで? まあ、初級以下しか、っていう人も珍しくはないけど」

「じゃあ魔法使いを名乗る人は?」

「中級が使えることが条件やな」


 この世界において、魔法は使えて当たり前なのか。貰っといてよかった。




 黙ったまま歩き続ける。カインは無口なので、ラオかあたしが話題を出さなければ会話はない。一々小声で話すのは面倒なのだ。

 時々現れるスケルトンを淡々と撃破。正確に言うと、ラオとカインが淡白な反応で倒していく。プロだね。あたしはと言うと、悲鳴は出さないようになったが「ひえっ」とか「ぎゃっ」とか半泣きで言いながら倒している。だって錆びた剣とか持っているやつがたまに出るんだ。あんなので切られたら、絶対破傷風になる。化膿する。

 実は、この世界に来てから切り傷一つ作っていない。元々運はよくないけど、悪運は強いため、何故かあまり怪我をしないのだ。階段から落ちて青タンで済んだ時は我ながら引いた。というわけで、切り傷一つでピーピー言うあたしは痛みに慣れていない。運動神経を貰う前は、しょっちゅう何かにぶつかっていたため打撃系は慣れているのだが。

 しかしあたしが盛大にびびっているスケルトンで冒険者からしたら雑魚。思ったよりも回復魔法の出番は早そうだ。回復魔法でもかけるのが遅かったら、傷跡は残るそうだ。魔法があっても痛いのはごめんだ。

 異世界へ行きたいとか本気で考えていたちょっと前の自分、身の程を知りなさい。チートを貰ってもビビりはなおらない。

 まだないバーチャルリアルのゲーム気分でやれたら楽なんだろうけどね。妄想で生きているくせにあたしは変なところでリアリストだ。……まあ、生き残るのは臆病なやつって話もあるし、いいか。




 ―――ゴオオオオ


 大きな音が、現実に引き戻す。


「何?」


 ラオは首を振る。


「分からん」

「こっちだ」


 カインが先導し、音の出処へ向かった。

 ……何か嫌な予感しかしないんですけど。



 嫌な予感は当たった。

 辿り着いたのは少し大きな空間。そこに見えたのは、久しぶりに感じる光。リタの懐中電灯だ。……やっぱりさ、そこはランタンであって欲しいと願うのは身勝手だろうか。しかし状況は身勝手な願い事をしている場合ではなかった。

 リタは一人ではなかった。ショートソードを構えた少年と、小さなクロスボウを持った少女が一緒だ。

少年の剣も少女の矢も、青白く光っていることからどちらかが神聖魔法を使えるのだろう。それでもここまで来れたのは、彼らが子供ながらにも強いと言うことだろう。少なくともスケルトンに怯えているあたしよりも冒険者らしい。

 ただ、子供たちが対峙しているのは今までに見た人型の骸骨ではなく―――大蛇の骸骨だった。


「カイン! 斬ってる暇はあらへん!」

「分かっている!」


 そしてカインは詠唱を始めた。

 リタが風の魔法を放つ。それを大蛇はものともしない。

 ラオが女神の加護がかかったままのナイフで斬りかかる。骨の四分の一程を切り放したが、アンデットである大蛇の骸骨は何ごともなかったかのように動き出す。

 あたしは矢を何本も放ったが、それら全てを当ててもただの骨に戻る気配はない。

 皮肉なことに、人型の骸骨よりも、大蛇の骸骨を相手にしている方が冷静かもしれなかった。人型よりも、圧倒的な魔力を溜め込んでいるというのに。

 アンデットは魔力で動く。生前強かったものほど多く魔力を溜め込む、というのが道中聞いたカインのレクチャーだ。


 大蛇の狙いはリタたちから、自分の体を短くしたラオに向かう。しかし彼は慌てる様子は見せない。


 何故なら、もう既に詰んでいるのだから。


 カインは詠唱を終えた。青白い光が魔法陣となって、大蛇の下に浮かび上がる。


「〈ターンアンデット〉」


 注ぐ魔力の量と詠唱の長さで威力が変わる魔法。長さからして中級程度の威力だろう。それでも大蛇は問答無用で消え去った。


「はあ……」


 腰が砕ける。思っていたよりも自分は緊張していたようだ。

 聞いていた通り、神聖魔法は他の魔法と大分違う。


「リタ、生きてる?」

「うん……」


 リタは少し涙声になっていた。


「お説教は地上に戻ってからだね」

「せやな」


 リタはもう魔力があまり残っていないらしく、ぐったりしている。他の二人も大分疲れているようだ。

あの大きな音は、リタの魔法だったのかな。

 痛い目を見たから、今後少しはおとなしくなるだろう。


「で、戻る道分かるよね?」

「そんなのは分からんくても大丈夫や」


 自信満々に胸を張るラオ。

 カインは新たに飴玉を口に含んでいる。


「いや、だめでしょ」


 どうやって帰るんだよ。


「ここに入る前に、空間移動の魔法を入口にかけといたんよ」


 そういえば、こちゃこちゃやってたな。杭を打ち込んだり。


「じゃあすぐに戻れるんだ!」


 この埃っぽい場所は、現代っ子には厳しい。


「いや、定員が四人やねん」


 つまり、魔法をかけるラオと子供たちで定員オーバーだ。


「ダメじゃん」


 何が道が分からなくても大丈夫だ。


「あー、すまん。 というわけで、二人は地道に戻って下さい」

「………」


 そしてラオは詠唱を開始。あっと言う間にいなくなった。期待させて落とすとかあり得ない。



「ねえカイン、道分かる?」

「安心しろ。 地図がある」


 さすがに文字が読めるほど、暗視の効果は高くない。光の魔法で球を作る。魔物に気付かれないよう、小さく作った。

 カインの持っていた地図は、自分の現在地が分かる優れもの。魔力を流さないと表示されないのだが。

 魔力の供給は、あたしが担当した。それぐらいは役に立たないとね。カインにはアンデットを蹴散らしてもらわないと。


「あ、このルートで行ったら近道じゃん」

「そうだな。 それでいくか」


 元来た道ではなく、新しい道を行く。何の不安も抱かずに足を踏み出した。床に空いた穴に、気付くことはなかった。



 急がば回れ。先人が残した言葉の偉大さは、実際に経験したものにしか分からない。


 ―――あたしは今、上を目指すはずが地下三階にいます。だからこそ、こんなことが言えるんです。


更新スピードが落ちると思います。


その代わりと言っては何ですが、文字数が多くなったので今回は勘弁してください。

二日に一回は更新できたらなーと思います。

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