唐突過ぎる プロローグ
温かい目と広い心を持っておつきあいください。
目を開ければ、一面の青が広がっていた。
自分はまるで空の中にいるように。
足場がないのに立っていられるのがあたしは不思議でならなかった。
「あれだ、寝落ちというやつですな」
そう、覚えているのは下校中にアイスを食べていた記憶だけ。確かクッキー&クリーム。
バスを待っている間に寝てしまったのだろう。
「夢、断定」
普段鮮明な夢を見るやつではないが、妄想癖のあるあたしのことだ。明晰夢ぐらい見たって不思議じゃない。むしろアイスのほうが心配だった。食べ終わった記憶がない。
早く目覚めろあたし。夢から目覚める方法とは、あるのだろうか。
「無駄ですよ」
鈴の音のような声のするほうへ体を向ければ、そこにはウェーブのかかった金髪のいかにも女神ですというような人がいた。お粗末な夢のクオリティに泣けてくる。
「女神さん、何か用ですか」
アイスの事、明晰夢だというのに自分の望む展開を見られないこと、そして拙い想像力への自己嫌悪により、あたしの機嫌はかなり悪い。
「異世界行って魔王倒して来なさい」
「いやです」
女神はとても偉そうだ。夢のくせに。
ちなみに異世界に行くのはあたしの隠れた夢である。案外脳味噌は、そのことを汲んでくれたようだ。だが、異世界だからって魔王と言えばいいとか、テンプレにもほどがある。それに、脳味噌がほぼファンタジーで構築されてるあたしは、筋金入りのインドアだ。
「拒否権があると思うのかしら?」
「やだよ、何で行かなきゃなんないんだよ。 善良なるうら若き乙女がさ」
恥ずかしいセリフが言えるのは、あたしがボケ役だから。中身おっさんだからね。突っ込んでくれるのを待つ。空想の中ですら、性分は直らない。
「……てめえのせいでっ」
……なんか女神にキレられました。あたし何かした?アイス食ってたよ。
「私の出世街道塞がれちまったんだよおおおお!!!!」
いや、知らねえよ!!
冷静さを取り戻した女神。あたしはおとなしく説明を聞くことにした。
ヒステリーはやだね。
「あなたの罪は、とある人物の死亡フラグを立てたことです」
「はあ」
覚えがない。
「昨日マンガを買ったでしょう?」
おとなしく頷く。
新刊がラス一だったのだ。
「あれが死亡フラグ」
……は?
「だーかーらー! あんたがマンガを買ったせいで将来の重要人物がマンガ買えなくて、ほかの本屋に行く途中に車に引かれたの!! あの人が生きていたらあと十年ぐらいでエリートコースまっしぐらだったの!!」
「それ絶対あたし悪くない!」
神様なんだから何とかしろよ!
しかしあたしの反論は聞き届けられない。
「というわけで、てめえ、私の管理するもう一つの世界が滅びそうだから行って罪を償いなさい」
「いや、その轢いた人をとばせばいいじゃん」
「そいつは異世界適性なかったの! とばせないのよ!」
逆恨みだ逆恨みだ逆恨みだ。
「貴方はなぜか、適性高いのよ! チート能力やるからさっさと救って来なさいゴミ人間!!」
「ゴミってなんだゴミって! ダメ人間予備軍の自覚はあるけどさ、ゴミはないよ! めっちゃまっとうな人間だよ⁈ 社会適応性高いぞあたし!」
「……軟弱な地球人に少しでも慈悲を与えてあげようと思ったのだけど、チートなしで飛ばすのもいいかもしれないわ」
「すみませんでした」
結局頭を下げる羽目になった。
自分がこのままでも異世界でやっていけるなんて考えていない。お願いだから、夢でも死ぬのはごめんだ。
「まあ、しょせんあなたの夢なのだから、気軽に考えなさい」
ああ、そうだった。これは夢。どんなに脈絡のない会話も、無茶苦茶な展開も、あたしの夢。だったら頼むことは決まっている。
妄想癖のあるあたしは、チート能力もらうとしたら何にするかなんてこと、さんざん考えて生きてきたのだから。
「運動神経と、魔法と……」
最後の一つは決まっている。それはもちろん
―――――コントロール力




