事件の 始まり
しとしとと雨が降り続いている。
日本ならば梅雨の時期。でもこの世界には、少なくともこのコルスの街には存在しない。
それでも長く降り続く雨に、人の気持ちは沈んでいく。
そんな日に事件は起きた。
◆◇◆
念願のランクアップを果たし、意気揚々と繰り出す―――なんてことはビビりのあたしには有り得ない。
FからEは難易度が格段に上がるという。最初ぐらいはメリダさんと行きたいな、なんて先伸ばしにしていたら雨に足止めされてしまった。おかげでメリダさんの帰った後も、冒険者らしいことが出来ていない。
魔法があるため、洗濯物が乾かないという悩みとは無縁だ。風魔法と火熱魔法を同時発動させて即席ドライヤーの完成だ。実はこれ、結構すごいことらしい。
ほら、あたしは想像力だけは豊かだから!まあ、その想像力が数々の黒歴史を生み出して来たんだけど。そしてこれからも生み出していくんだろう……ね……。
―――やばい、消えたい。
雨が降ったらお休みなんて何処の大王だ、と思うがやはり一応戦闘職種。ベストでない状況で仕事にでるのは危険だ。
というわけであたしがギルドでたわいもない話をしているのも、別にニート的な発想からではないのだ。
「ダンジョン?」
ラオの口から出てきたのは、ゲームなどでおなじみのあの言葉。それをあたしはオウム返しにする。
「えっと、遺跡的なやつだよね?」
「うん、間違ってはないけどな」
「やっぱり知らないのか」
メリダさんはそう呟いた。
いくら田舎育ち設定でも、この世界の常識がないのは痛い。
「正確に言うとダンジョンには、遺跡式、精霊式、迷宮式の三つがあんねん」
遺跡式は昔の人間が作ったもの。潜ってもあまり収穫はないらしい。今の時代にピラミッドの中へ入ったって宝物が貰えるわけないのと同じだ。
古い物には魔力が宿るらしく、魔物が住む場合もあるとのことだ。
「遺跡式ならこの近くにもあるぞ」
「うん、確かカタコンベ、地下墓地やんな」
それを聞いてあたしは顔をしかめた。
「それ、出るよね?」
墓地ですもの。
「最近は定期的に浄化されているからそれほどでもないらしいぞ。 知能も低いから、外に出ようというやつは少ない」
少し安心したが、出来ることなら近づきたくないと思った。
精霊式は精霊の加護が働く場所。森や洞窟など自然のものが多い。魔力が溢れているため、強い魔物や珍しい植物などが見られる。ようは危険ということ。
稀に遺跡式と精霊式が合わさったダンジョンがあるが、それは恐ろしくたちが悪いらしい。
「で、最後は迷宮式やけど、これはちょっと特別やねんな」
「へえ」
なんかダンジョンとか迷宮とか、ワクワクする単語だ。進んで入りたいかは難易度によるとして。
「そういえば、そろそろ迷宮式のが現れる季節じゃないか?」
「ああ、せやな」
は?現れる?
メリダさんの言葉に思いっきり首を傾げた。
異世界事情をお聞かせ下さい。
「えーと、迷宮式ってのはな……」
ラオの説明は、ギルドの扉が勢いよく開け放たれる音に遮られた。皆、扉の方へ顔を向ける。そこには、ずぶ濡れのアネルさんがいた。
「どうしたんですか」
あたしはアネルさんの側へ駆け寄る。もちろんメリダさんもラオもだ。
「お嬢様が……」
アネルさんの声は僅かに震えていた。
「……ダンジョンに向かったようなんです」
これが事件の始まり―――何かのフラグが立った瞬間だった。




